産婦人科から出てきたみえこが
あっけらかんと言った
「二ヶ月のなかばだって」 ....
この度は思いもかけないことでなどと
気休めを言うものではありません
死ぬことは生きている限り必然で
むしろ生きていることこそが偶然なのだと
私たちは本当は知っているからです
眼前の笑いか ....
ある乳飲み子は
愛ある母の乳を飲み
栄養の意味を知らずとも
子供に育ちゆきゆきて
ある男子は乳を忘れ
愛撫ゆえに乳首を吸い
重ねる日々に乳房を選び
ある日衰えを知ってゆく
ある ....
ふた
そう
プラスチックなあじがするから
って
となりのみしらぬおんなは
ふたをとって
ほんじつのコーヒー をのむ
またふたをする
なるほど
すこし そとにでてみる
とつぜん
そ ....
暗がりのなか
細い光に照らされて
一匹の蛇が泣いていた
目を閉じたまま
わずかに汚れた白色に
かがやきながら泣いていた
蛇から少し離れた場所に
ひとりの少女 ....
古い写真
同じ年の子供たちが
いっせいにポーズをとって
こちらを見ている
覗き返す
私と
唯一
目が合わなかった
十歳の私
偏屈な子供
いつもみんなが
ガラスの向こうにいるよ ....
ねむれ。
胎児のように、ねむるがよい。
せいけつなみなれた風景の、
すこしばかりの変化など気にせずに。
あわれなものだ。
マルチメディヤとかいうものに
おかされてゆく母胎の中では、 ....
ワイパーを身体につけたんだよ
ネジでさ、おへその穴に固定してね
勤続十五周年だもの
いろいろな人が去っていったもの
自分へのせめてものご褒美だもの
憧れていたんだ、ワイパーのある ....
五月に入ると
死んだ詩人のことを思いだす
いつもへんに悪ぶっていたな
「ユリシーズはどこにもいないね」
そう言って
はなやかに降りだした雨の街路に
出て行ったきり
忘れたのか 置いていっ ....
寒さが染みてきて
壁から伝ってくる
ひ
暖房を酷使しても
革のソファは冷たくて
ふたり絡まりあっていても
耳に吹きかける息が白くにごる
ひ
かつて
部屋の中で燃えていた
暖 ....
その意見については
おおむね賛成なのだ
ぼくらは一緒に腐れていく関係だから ....
たとえばそれは
黄色と黒の表紙がついた
どこにでもあるスケッチブックで
軟らかい鉛筆を握って
記憶の底の君の笑顔を
なぞってみる
のだけれど
たとえばそれは
終電を逃しちゃった
....
ぼくは最近おなかが出てきた
だってみえこが言うんだもんなあ ....
風にのって
ぼくのつぶやきが ....
生臭い肉体を焼きすて
骨と ....
ひとは背中の遠い国の
風のおだまき ほどいてくらす
だから誰も変わる自分を
知ることがないのは
腐りやすい肉体をもったぼくらの幸福
紙に書いてください
書けるものならば紙に書いて
紙に書いたそれを見せてください
世界を
モニターの向こうにまで感じるとるためには
第六感まで動員しても
なお追いつかないような想像 ....
窓枠の向こう側に海溝が寝転がっている
紺碧が逆立ちした午後
ぼくは物語と煙草を携えて
ゆらり生える象鼻の先に
時をぶらさげた
路地裏の化石にチャイを注ぎ
....
とぷん
小石が水面をたたく音は
日ごとに高く
遠ざかっていく
あんなに彼方で
気泡がきらきら揺れている
自分が沈んでいるのだろうか
こんなに暗い
水かさが増しているのだろうか
....
小学生の頃
「俺はみんなとは違うんだ」
って言うのを見せ付けたくて
みんなの前で蛙を飲み込んだ
中学生の頃
「俺はみんなとは違うんだ」
と思うたびに
あのときの蛙が胃の中で暴れだした ....
午前3時に、
「y=(sinθ+cosθ)(sinθ−cosθ)−1」
という数式を目の前にして
「分からない分からない分からない」
と唸っていたら
「何が分からないの?」
と隣から声がし ....
君が積木など買ってくるものだから
僕らは積木遊びをするしかなかった
家をつくって
壊し
城をつくって
壊し
他につくるものなど知らない僕らは
やがて一つ一つを並べ
街をつくり始 ....
蜜柑の里の海辺の丘で
まるで童謡の一節みたいに
蜜柑の里の海辺の丘で
太平洋に浮かぶ船をみている
船は遠くて
たぶん大きいのだろうけど
ちいさくみえる
たぶん動いているのだろうけど
....
雨上がりの空って、泣き止んだ3歳児の顔なんだよね。
起きたら
三島由紀夫だった
下唇を噛んだら血が出て
三島由紀夫の血はこんな味なのか とか
白くて小さめの歯は けっこう硬いのだ とか
会ったことないのに懐かしむ
せっかくだから ....
ある日、ぽろりと取れた二つの耳持って
ウサギは永遠を探しに行った
永遠というものは友達のウサギによると
それがあるだけで
取れた耳を元に戻すことが出来るらしい
母さんウサ ....
石の階段を{ルビ真=ま}っ{ルビ直=す}ぐ上ると
{ルビ古=いにしえ}の文人達が林に眠る東慶寺
境内の門の向こうには
紅白の梅園が広がり
石畳の正面奥に
惑いなき御顔で座る大仏
....
おぎゃあ
一字一句間違わないように強要された私のからだに
それとなく触れるだけであなたは最前列から並べら
れた裸体ばかり順番に、顔だけは別にするようです
....
スィーユゥ
君は
金色の 風を
朝陽になびかせて
去っていった
そうだった
やはり 金色には
それなりの わけが
ある
残してくれた トールサイズの
モカ
ト ....
ニッポン Japooon ・・・・・・・・
日の丸の太陽を
青いペンキで塗り替えて
水の惑星に小さく浮く
びみょうなくねりの島国は
僕等乗せた 沈みかかりの小船
21世紀
曇った ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80