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田に水を張ると
一面が鏡になる
田植え前の一瞬
薄い空を映して
今年はどんな年かと
思案している
今年はどんな稲にしようかと
話し合っている
近くの葉桜が
....
絵の具の声が
はじめて油絵具を手にした少女には 聞こえた。
「恥じるな ためらうな チューブから色を ひねりだせ」
開封し、すこしだけ色を出してはみるけれど、ぬっちょりとした色があるだけの
そ ....
夜明けの森を夢見た わたしの閉じたまぶたは
光によってひらかれる あなたの白い
春のような指さきで
わたしのためにあなたは生きていた
わたしが悲しいときははらはらと涙を流した
嬉し ....
水は、万象の旅人
生き物の身体は
彼等の泊まる、仮の宿
水よ
お前が
笑いさざめくのは
春の林床に降り注ぎ
小川を結び、走るとき
お前が
咳き込み ....
舟から生える樹
川岸の影
海を描く霧
器の水に
沈む糸くず
雪が雪を追い抜いて
土や花を振り返る
土にも花にも
雪は見えない
酒に勝つ甘味が見つからず ....
水彩の草原に僕はひとり仰向けで、
空をゆく雲を見ている。
淡い太陽の光を縫うような、
ぼやける事のない雲の輪郭を僕は指でなぞった。
寂しくなんてなかった。
なんとなくの不安を誰かに知 ....
ことばに変換できない
内に断層の捲れ上がる感覚
{ルビ穿=うが}たれた二つの池が風もないのに細波立つ
千も万もの透明な手足を生やしては
縋るものもない空の空を
死にもの狂いで掻き毟る
....
私は卵を毎日産む
優秀な鶏
多くの同胞と同じように
一羽ずつ
ケージの中で大切に守られ
整った環境で
健康に育てられ
栄養が 無駄な筋肉や
要らない羽にいかないで
卵のみに集中するよ ....
子どもの頃
大縄跳びが苦手だった
自分の順番がきて
入るタイミングを計っているが
なかなか飛び込めなくて
戸惑っていた
後ろから
早くと背中を押されて
飛び込んだら
いつも縄を踏 ....
「土地と家の権利書を盗られた」
しまった場所を忘れたのだ
「炊いてあったご飯がなくなった」
自分が食ったのを忘れたのだ
忘却は、現在の妄想を生む
生きていたときには
あれだけ不満の ....
あまった時間なんてないのにもてあます
反省なんてしたくないから探す/言葉を
文字にすればゆるされるとおもっている
今が過去になると決めている
明日の自分を想像できるけど
少し夢をみる ....
嫌な予感しかしないギターのイントロが陽気
自分が思っているようには
他人は自分を見てくれない
それで私は
極力自分を
客観視しようと試みた
気付いたら
他人の顔色ばかり伺って
ますます自分が
わからなくなっていた
....
眼下の木目のまな板に
鯛が一匹、のっている
包丁を手にした、僕は
ひと時の間、思案する
いつかの夢の誰かの囁きが
何故か脳裏にりふれいんするのだ
(かっ裁いちゃあいかん、かっ裁いち ....
いつの間に寝ていたのだろう
まぶしい
もう朝か
目の前に虹がある
壁紙のわずかな凹凸紋様と相まって
まるで絵画のようにかすれて
わずかに揺れているように見える
虹
....
おいらの悲しい涙をみたのは、おふくろとおまえだけだ
おいらの悔しい涙をみたのは、おふくろとおまえだけだ
おいらがひとのために歌うのをきいたのは、おまえだけだ
番犬にならない犬がよく食べる
わたしに
ゆ という文字を
教えてくれた人は
あたかもそれを
ひとふでがきのように
描いてみせるので
その曲線の美しさに
魅せられたわたしは
日暮れて
昏くなるまで
いくどもそれを ....
たましいの裏庭で
待ち合わせたあの子はまだこない
チューリップもこんなに咲いちゃって
写真なんか撮らずに通り過ぎるくらいには
禍々しく咲き乱れているのに
シャッター音が嫌いだから
写真 ....
立ち読みした本に涙落として帰る
屋根裏の小部屋の窓から、表の世界を眺める。
そこには、競争があり、強奪があり、また征服があった。
人生の秘密は悉く暴露されていた。
私は頭では当然の事だと思いながらも、心は深く病んでいた。
静 ....
あかつきに浮かび上がる
公務員宿舎と電電公舎
ひとり走って戸に挟む朝刊
サン、サン、イチ、ヨン、ニ、イチ、ニ
口をつく勢い
少年だけの暗号
また足音のように、それはやって来た
....
だから
直立猿人はマイルス・デイビスじゃないって
チャールス・ミンガスだっつーの
あいつは部室でカセットテープに録音した
直立猿人をよく聴いていた
そんな時のこんな会話を
あいつはきっ ....
(今のは、
)
うつむいたまま 石畳の下り坂に さしかかったところで
わたしの背中を押した 今のは?
眼下の階段には
無数の花びらの影が蠢いて なにやら
むぅら むら
無数 ....
一度だけ
父と取っ組み合いになった
後にも先にも
希薄な親子にとっての真剣な対峙は
それっきりだった
生意気盛りの高校生
飛行機が好きだった私は
トリポリでB747が爆破されるのを見 ....
横波 縦波 渦巻く世界
肩肘張って働いて
お疲れなんでしょうね
名も知れないゆきずりの肩に
頭を預けてしまって
安心しているあなた
満ち溢れる心労を
化粧に隠していても
あなたの髪 ....
そのわらべうたは
作者不明だという
畑に添って
作られた石垣
その隙間から
シダやペンペン草が顔を出し
しっぽがふたつに別れた小さな虫が
忙しそうに出たり入ったり
雨が降れば
水 ....
拍手のタイミングがわからない
左手首の動脈を
右手の指先でさぐり当てる
脈に触れれば
自然とそれを数えてしまう
まるで
生きていることを
確認するように
えいえんに似たそのリズムを
日が暮れて
血の匂いがする ....
冬の海
風にのって
たこは
突き進む
よく澄んだ青空を
たこは
海を見下ろし
静かにないだ波が冬の柔らかい光で照らされた
淡い世界をみつめる
子どもたち 大人たち
犬 ....
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