マヨルカ島にふきよせる地中海の青い風をすくいとる
ピアニストの手のひらは白い
葉叢を束ねる小鳥のさえずりに頬ずりをして
月光にきらめく細い爪をみつめていた
風の家にあ ....
やがて晩秋というのに夜中のしじま
身を寄せ合う恋人達の姿もない
灰色のロミオは塀の上
ソネットをひとくさり
オウ、ムォウ、マオ、アオー
猫が、まるで狼族の遠吠えのよう
{引用=出て ....
疲れた眼を開けると
目の前の街路にわさわさと
夥しい数の奴凧が
尻尾を引き摺ったまま
蠢いている。
大きいのやら小さいの
赤いのやら黒いのや
斑模様やら縞模様の
真丸のやら楕円 ....
「泣き腫らした家」
その家は号泣する
時間を失った丘陵にたたずみ
家主の帰りを待ちわびながら
その家はときどき夢想する
彼女が門扉を開き
飛び石伝いにやって来るさ ....
明日はきっと晴れるよね
そう願わずにはいられなくて
ふと手を休め振り返る
自由気ままに暮らしてきた日々
愚痴っぽくなってみたり
ときには人恋しいくせして無口になってみたり
....
ディスクユニオンを出る
暗い夜空に街灯が光る
ニュートラルな気分
家に帰ろうと歩を進める
風が頬を撫でる
その事実をただ受け止める
無機質な心地よさ
生きている/それだけしか ....
壊れた時計をいくつか
この部屋に飼っているので
どうやら時空にちょっとした罅が入ってしまったらしい
ふいに宙の思いがけないところから
時ならぬクロッカスの花が咲いたり
誰のものとも知れぬ指た ....
生まれたばかり――
あまりにもまぶしかったので
まぶしい と
叫んだはずなのだったが
揺籃期――
プロレタリア文学だと称する
ひなびた小説を口に入れるが
不味くて ....
風に吹かれた風船は
ゆらりゆらゆら
中空に ゆらりゆらゆら
浮かんでいる。
そのまま天に向かうのか
それとも萎んで地を這うか
風に吹かれた風船は
幼いころの夢に似て
ゆらりゆらゆら ....
{引用=
ハナアブのはねを千切って
裏返すと コメツキ虫のように跳ねた
しばらくすると独楽(こま)のようにその場所を回転していたが
捨てた記憶もないのに 朝になると消えた
僕らは身体を突き合 ....
笑っちゃうくらいに
社会の門は狭くて
ごくごく普通の
一般人だった私には
門番さえ 見向きもしない
{引用=
今流行りのコミュ力とかいう
得体のしれない力がないと
わずかに開かれた ....
やっぱ秋だものね
いつのまにか下腹のあたりに不吉な弛み
食べ過ぎた覚えないんだけど
運動不足ってこともありそうだし
いつのまにか
そう、いつのまにかなんだよね
いつのまにか ....
秋を洗う
ダイヤモンドの花
プラチナの雨
慈愛
このオレンジの果てを
思う
果てに止まない開花があるとして
それが 想像が及ばないほどに 美しいとして ....
峡谷を越えると
静かな瓦屋根の風景だった
懐かしい味噌汁の匂いがした
ああ、そうか
もう冬になるんだ
木が無口だ
迷路のような路地裏を抜けると
君の家がある
赤い屋根の洋館で
君はピ ....
じゅげむよ じゅげむ
ねむいか ねむいよ
いま きみにひつようなのは
べんきょうでもない
しごとでもない ねむりなのさ
さいわい しばらく こいもない
つかれるゆめは みませんように
お ....
{引用=
+
ぼくがはじめてきみになかだしをしたよる
ぼくのなかのぼくはほとんどしんだ
額からこぼれ落ちてくる
角を拾い集めて
....
かなしみの夜に
貝殻の雨が降る
わたしのように繊細では
とても生きていけないとおもっていたのに
ちゃんと生きてこれて
今日も生きています
いろいろなことに感謝しています
かなしいこと ....
ずっと寄りかかっていた
揺るぎない背もたれとして安心しきって
あなたが感じている重たさも
慈愛で受け入れて
融かしてくれているのだと思っていた
いま、青に導かれて去ろうとしている
....
【くちなしの実】
夏のわたしの 誕生日、その朝 発した言葉は
おはようでも こんにちわでもなく
「くちなし」 だった
喋れなくなるほどに
薫る高貴な色彩の白
雫 ....
滝の駐車場前ひょこひょこと
破れ傘にジャージ姿
相模のかっぱが、現れる
器用に操る軽自動車から
爺が降りるが 相模のかっぱ
先の見えないトンネルを
越えると足下に ....
真っ直ぐな道は歩きづらい
かと言って迷路みたいでも困るのだけど
適度に曲がりくねっていて
ちょうど昔ながらの畦道のように
赤い帽子によだれかけしたお地蔵さんが祀られているとか
時には肥だめみ ....
「骨音」
その森の中のまぶたは
たいへんうつくしい
背骨を失った世界よりずっと
まぶたに広がる昼下がり
湖のほとりで
老人は 骨を拾う
露の輝く草を分け
....
多くのスクウェアな図柄に囲まれて
負債を踏み倒しに行く
老獪な白熊一頭
笑顔には愛嬌
獲物を貪り喰らう凶暴さは健在
整った図柄の中央に
消えつつあるアルファベット
三 ....
親分が死んだ
翌日は
空がどんよりしずみこんでいて
さかんに落ちる公園の黄葉たちをみていた
車内の
十月
か。
なやまされていた
か。
....
静かなときに
身をまかせ
ひたすら
目をつぶる
見ないものは
清浄で
ないのとおなじ
森に囲まれた
この部屋で
エネルギーを
チャージするんだ
なつかしい匂い ....
カモミール
マロウブルー
手で揉んで
匂いを嗅ぐ
それでハーブティーを作って
窓辺を覆いつくしている
観葉植物に
光が射している
光
時間は
チクタクと流れる
もので ....
午前1時の 朝ごはん
はちみつを
かけただけのトーストと
皮の削り残した
梨
咎める人の
いないことに
慣れてしまったら
何を自由と 呼べば良いの
“1人で死ぬことが究極 ....
トゥクトゥクの傍らで赤い夕日を待って
犬は
なにもしていない真昼
なにをしているのだろう、そこで
みずからの首に首輪をつけ
ひもをつないで
犬って
なにも ....
.
何度試みても詩にできないあなた
あなたには散文がふさわしい
あなたの詩のような生涯あなたの詩のすがた
それを心に描くことができない
.
なぜならいつもあなたを探しているぼく ....
明日がずっとある
ような気がしてた
いつもおなかが空く
ように
ときどき
詩なんか綴るように
{引用=即興ゴルコンダより}
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