ノート(夏の蛇)
木立 悟



暗がりのなか
細い光に照らされて
一匹の蛇が泣いていた
目を閉じたまま
わずかに汚れた白色に
かがやきながら泣いていた


蛇から少し離れた場所に
ひとりの少女が立っていた
少女は言った
どうして泣いているのか
なにも言ってくれないの
私は言った
わからない
最初に会った時からずっと
彼はここで泣いているから


少女は言った
頭を撫でてあげたいの
私は言った
彼に触れないほうがいい
泣くことができないもののために
彼は泣いているかもしれないから
同じ悲しみを負うというのなら
彼に触れてみればいい


少女は蛇に近づいていった
細い光が一瞬とぎれ
すぐに再び蛇を照らした


蛇はまだ泣いていた
少女は蛇のそばにいた
流れる涙を見つめながら
何も照らさない光のように
淡く照らされる光のように
蛇のまわりを舞っていた


少女は言った
わたしは わたしの理由でしか泣けない




自由詩 ノート(夏の蛇) Copyright 木立 悟 2004-01-15 11:40:50
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連輪の蛇