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けだるげな午后
眩暈のするような陽のひかり
遠い喧騒
ひた、ひた と
満ちている
あくびする野良猫
市場で物売りが媚を売る
温い風にひるがえっては落ちる、安宿のカーテン
音もなく
....
夜勤明けてひとりで酒を酌む
やなことはやらないでおこう
きっとあのひとは許してくれるから
太陽がしらけた空にひかる
暗い空に光っていればいいのにねえと
稲垣足穂的につぶやいても
太陽はあく ....
右側の肺を押しつぶして
ゆっくりと苦しくなった
古典的なモーラスが夕暮れを真似たので
気をつけようと思っていたのに
気づいたらもう信じてしまった
わたしの上にもついに夜が来た ....
滴り落ちる鍾乳石の響きのように 光は触れ、惑わす
耳を澄まし気付くまえに 耳を澄ますよう気付かせる
それがやって来たとき
わたしたちのつたないじゃれあいを
ペテュニアやら杏、ソシュールやらで ....
あんなに荒れ狂っていた
場所
砂が乾いてゆく
反転し
苦しく水を蹴った足の記憶のまま、踏みしめる
砂にはわたしの
しずかな歩みだけが続いてゆく
高鳴り
呑みこむ夜が病いなら
....
吐息が
しろく曇るのを見ると
少し、安心できる
わたしの日々は
ほぼ偽りかも知れないけれど
熱だけは、進もうとする熱だけは
たしかに思えて
安心できる
いつだっ ....
きみは時間の
なかに
身をしずめている、永遠は
とぎれて
いる
永遠に、あらゆる思いと
ともに、
わたしの目には
きみが
見てきたものが
きざまれて、めざめて
いる
....
少し遅れて冬が訪れた
待っていたということも
疎んじていたわけでもなく
ただポケットに両手を突っ込み
何か特別に思い煩う気持も浮かべず
ぼんやりと立ち尽くしたまま
ひゅうひゅうと喚 ....
みなみの風、稜線のむこうから白のむれ
あなたは北から
奥そこ、しずかな砂のうえにからだをおいて
あと三日ほどねむって
ちいさい時分にみた夢を思いだしている
しろく、生あたたかく
とおく ....
透明な 呼吸を繰り返す
小さく脈打つ 心臓を感じながら
遠くの空を飛ぶ気球や
赤く腫れた水分を思う
地球とひとつになれた朝
結合部分からはマグマが流れた
やがてすべて 包 ....
そこに
風の道はなかったけれど
風を運ぶものはあった
見えない軌跡を引きながら
きみの空中ブランコが接近してくる
渦まく風のすべり台では
空のクリオネたちが目をまわしていた
宙を満たして ....
巻き戻された、気がして
夜を
何度も聞き返す
この手が、
あるいはその胸が
用いようとする意味は
おそらく誰かの
船底だろう
唯一
月がおびえる頂
....
いつかみたのは幻なのか彼女の手を
握った夢をみた
夢をみた
小さな手 空
澄んでいた
蒸気があの空中を縫って漂うように
あの頃散っていった一つ一つ
澄んだ空に散らばる小石を拾 ....
吸い込まれてしまいそうな青だ
水になって垂れてきそうな空だ
まばたきの間にも雲の形は変わる
海が青いのは海底に空があるからだ
知らないことについて話せないから
知っていることしか語っ ....
夏空の下揺れる陽炎の中
紅いキンギョ草がほころんで
微かな風にゆらゆらと踊り
入道雲が天を昇る昼下がり
一陣の熱風が吹き付けて
街路樹がいっせいに葉音を奏でて
蝉の声は断末 ....
からまつの暗い林を
どこまでも歩いたような気がする
きゅうに空が明るくなって
その先に白い家があった
それは夏の終わりだったと思う
空へ伸ばしたきみの腕が
ブラウスの袖から露わになって
....
咲いたほど溢れ、実ったほど零れ、満ちたほど落ち、
綺麗なほどとどまらずに、端から乾いては光の奥へ、
消えた、蜃気楼、紅く、藍く、朝はただまぶしくて。
少女の夢のような速度で、光って、透明な日 ....
すべてを忘れた
夜から
降りはじめる雪、きみが
死んだように
過去になると、雪の
なかでねむっていた時間が、いま一度
見出されて、わたしも
横たわっている、死んだように
思い出 ....
林の向こうに星が落ちた
遊びつかれたカラスが
西の方へ飛んで行った
あたりはワイン色になって
夕闇に沈んだ
遠くで一匹犬が鳴いた
町に人影がなくなった
青白い三日月がひとつ
水銀灯の上 ....
僕らの未来に、花束が添えられていた。
下校時刻はとうに過ぎているけれど、まだ帰りたくはなくて
意味もなく美術室に篭りエッシャーの画集を読み漁っていた
ビビットカラーをこぼした床では ....
開けっぱなしの窓から
雨が零れている
前にも同じ
失敗をしたことがある
ひとりぼっちで
濡れた床を
拭いていたことがある
誰かとお別れして
後悔していた
ことがある ....
それは私の体温に過ぎませんが
開放への安らかな入り口です
眠るときは
呼ぶ声もありません
何も要求されません
最も信用のおけるものにくるまれて
眠りは
ちいさく破滅 ....
すきまなく落ち葉の積もった
狭い庭を抜ける
Cの存在をつれて
勝手口から上がると
嵌め込まれたCの色が濃くなる
かつて
無くせなかった幼稚な苛立ちを
床の木目から目を逸らさずに
Cに告 ....
青くて透き通っているけどどこか昏い
鳥たちの顔
仄かな灰の匂いを降らす翼
その背に戴いた空
かぜと名づけられたものがまた去っていった
羽毛の温もりを滑って
私の傍らを
見上げることが ....
あかるくなった
校庭の
真ん中で
ともは
膝をむきだしにして
そのあかくなったところに
悲しみをまぶして
いました
夢ではない
山に登り
芯の太さが、花が
格調高く
ひ ....
あらのをあるいた。
土、岩、石ころ、草、葉、笹のような水にぬれた草、そしてまた土、石。
ページに目を落とす。ひとりぼっちで荒野をよぎる。
荒野のはてに。荒野のはてに。わたしはひとり。
....
あなたのこえはすきとおりすぎて
ほんとうにあなたのこえが
ぼくにはきこえていたろうか
あなたのすがたはまぶしすぎて
ほんとうにあなたのすがたが
ぼくにはみえていたろうか
ぼくにお ....
かたむいた夕の頃
散り撒いた木犀の
からからと枯れ転ぶ花殻を集む
真白い光の軌跡が
こなれた時間を追い落とす
チェリーセージの赤い蜜 ....
あのジプシーの娘は
今夜は誰と床を共にするのだろう
相場の半分に値切られた体を売って
踊り少なに抱かれるのだろうか
彼らは毎年ここを通ったけれど
はじめての時は まだ幼い女の子で
太っ ....
ポタージュが冷めるのを待てず
やけどする舌
冷たい朝に
湯気の向こうで
陽の光が磨りガラスにはじく
無邪気なほどきらきらと
関東地方の今朝は今年一番の冷え込み
半袖のニットを着た ....
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