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ぼんやりとした夏の中で
ため息をつく
空気の動きは何も見えず
目の前にあるものが
ゆらゆらと揺れていて
今はただそこに
乾いた土が滲んでいる
見上げれば
青い空があるようだが
その色 ....
寒い、と言うと
あなたはわたしの肩に
そっと
うなぎをかけてくれた
ぬるぬるして
うなぎも鳴くのだと
初めて知った
うなぎのさばき方を
教わったのも初めて
大人の恋は
....
あの娘の事が好きですか
いいえ好きではありません
あの娘と共に生きますか
いいえ私は逃げだすでしょう
ならば何故その身を焦がしたのです
何故想いをたけたのです
それがどれ程酷い仕打 ....
ハリエニシダ
遠しといえど難からず
近頃の人間は半袖というものを着ない
だから腕に掻き傷のひとつもないのだと
おじさんは言う
茂みを抜けた岬の荒れ地は
見通しはいいけれど
とお ....
珈琲を挽く夢を見た
全てを失ってただ珈琲を挽く
小さな飛行機を欲しがる友人に
口を塞がれたのよ
道の上にただ座って
わたしは珈琲を挽く
珈琲を磨 ....
盗んだたばこを干し呑んだ冬枯れの日
降り積むひかりを踏みしめると泣いて
頭が乾いて冷たく割れた
おんなと名乗る人に連れられ
水垢まみれのざらつく家には
もう帰らないと告げる
曼谷の ....
いちたすいちは
にじゃないと答えたら
みんなに笑われた
でも
美術の先生だけは頷いてくれて
スケッチに出かけた
あの丘の上から
故郷の青空をいつまでも眺めていた
ずっと憧れていたこ ....
一
春をあげるよ
ツバキの葉にうっすら積もった春を
人差し指でそっと集めて貴方に
栞にしてみてはどうだろう
本を開くたび春の匂いが漂うように
カーテンにしてみるの ....
わたしの唇は真赤
よく哀しみで強く噛むから
あるいは憤って
あるいは、純粋なる愛を以て
だからキスはしないで
それは優しくされるためのものじゃない
わたしが陸で生きるための脚
そして言葉 ....
目の届かないところで 何度も僕は殺されてた
気づかないままでいられたら まだ歌を唄えたろう
誰が見るわけでもないのに 紅の線を引いてた
覗き込む鏡もないのに どういうつもりなんだろう
....
夜を走る
列車から覗く風景は
何もかも止まっているようで
少しばかり
眠ってしまっても
あしたには
間にあいそうだったから
夜を走る
光の羅列は
枕元を通り過ぎて
ずっと知らな ....
背後の空に
{ルビ烏=カラス}の群が旋回していた
丘の上の広場で
寄りかかる柵から身を乗り出す
目の前に広がる凪いだ海
正午の日は
無数に{ルビ煌=きらめ ....
砂浜のちいさなたそがれに汐風をうけて
ふとった子蜘蛛が舞い降り詩集の端の水をのむ
大気中のかなしみも八つにきざみ鋏角にはこび
せんべいのように噛みくだかれたこころ
わたしはお前に咀嚼されな ....
露草色の空を
のどかな雲が流れて行く
いつか見た雲が白い蝶をかたどって
私の頭の上を
風に吹かれて飛んで行く
どこへ行くのと手を振ると
今度は白い子馬となって
東の空へ駆けて行った
....
わたしの影まで、赤く染めてしまいそうな
真っ赤なカーディガン
お気に入りなの
夜は、まだちょっと肌寒いから
もう少しだけ着させて
昼間はバッグの中に入れておいて
こんな中途半端な季節な ....
めくって
そのページ
スタッカートな舌触りで
黒縁の眼鏡をかけた教授の講義が一段落すると
スクリーン上に映し出されたままの
夏の星座がゆっくりと回転し始める
古びた校舎の窓側を覆う暗幕は
その歳月 ....
素潜りで
{ルビ鮑=あわび}を密漁する
丹後半島の
夜明け
海で生まれた太陽と
山に入る月の夢、
肩がこる
髭の男が少年や
座礁した五月
白身のま ....
1
もう、
ふりかえらないのだ
髪をゆらしていった風は
束ねることはせず
つまさきは
後ろに広がる汀を
走れない世界にいて
こころだけがいつまでも
波になりたがっている
....
太陽が沈み世界が透明になる頃
アルコールランプを消した
吸い出される琥珀は僕の記憶
人目を憚る様に
そっと吸い出されていく
吐き出す息は世界にあわせ
透明に消えていく
僕は酷 ....
あなたは物静かだった
あなたを背負うと
その軽さの分だけ物静かに温かかった
だからあの家は部屋は
この空の下突っ立つ一人の人間は世界は
今でも物静かなまま
極めて物静かで
見渡す限り ....
とかく、そのフォームの美しいこと。
僕は退屈になるとよく相談したものだ、
ねえドリー、君の肺癌以上にかっこいい死に様ってあるかな
ドリーはヤニが浮いた歯茎を扇子で隠して
腐るほどにあ ....
風が
砂の上に言葉を残していく
見えない指先が作り出す
美しい波
足跡を残すこと が
躊躇われる日に
その言葉の意味を知りえたなら
どんなに救われるだろう
....
1
ひかりは、不思議な佇まいをしている。
向かい合うと、わたしを拒絶して、
鮮血のにおいを焚いて、
茨のような白い闇にいざなう。
反対に、背を向ければ、向けるほど、
やわ ....
空の曇った暗い日に
ざわめく森の木々に潜む
五月の怪しい緑の精は
幹から{ルビ朧=おぼろ}な顔を現し
無数の葉を天にひらく
わたしを囲む森に{ルビ佇=たたず}み
ベンチに ....
空の草原を
風がそっと撫でてゆく
空が左から右へ波打つ
その波を追いかけて
鳥が飛んでゆく
今日の草原は
青に満ちている
草原からの潤いは
地上の緑にとって
かけがえのない
命の源 ....
街燈の光から
裸にされた
月世界のモノローグ
夜の哀しみの
ねぐらを見据え
月光に混じりあう
葬列を往けば
緩和されゆく
視界のほつれ
伏した肩肱は
硝子の時計を踏 ....
みずたまりにおとした
あなたがくれたとけいの
ゆらしたわたしのめと
ちいさなきおく
やわらかにかさなる
みどりのそら
あなたをまった
こもれびのないひはずっと
わたしのかさを
....
携帯はコンパクトに似ている
電車のなかで
そして街角にたたずみ
見つめる先に映っているのは
わたしであったり
わたしの知らないわたしだったり
お気に入りに登録した
サイトを巡る
....
咲いた
咲いたよ
黄色い光が一面に
これが初恋というものでしょうか
泣いて
泣き濡れても
涙が止まらなくなりました
風が吹き
風が吹けば
あなたに悲しい雨が降り
わたしの涙 ....
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