図書館の本は
公務員みたいに黙って
読まれる、という役目を
少し怠そうに待っている
田舎の図書館は
どうも品揃えが悪くて
本にも覇気が無い
手に取ってみても
抵抗はしないけれど ....
ピアノのあしは楽器を支えているのか
それとも音楽を支えているのか
ギターをかき鳴らす仕草は
そのあしに似て、共鳴する独り言
マイクを持って空を指したとき
ひとはただのマイクスタンドでしか ....
水に降る水
白を摘みとり
蒼を咲かせ
水に降る水
空から空へ
伝うまなざし
水に降る水
水に降る水
子の胸に
しっかりと抱かれた鏡から
にじみゆく色
ほどけ散 ....
無音が無音をわたる波
青空よりも遠い青空
どこへもたどりつかない坂を
息つぎだけがのぼりゆく日
雨は生まれ 雨は消え
雨は雨を巡っては消え
坂を駆ける髪と背に
翼の苗 ....
白い柔肌にそっと触れるや否や
とつぜん狂った発条みたいな
青白い器官が左右の外耳道から飛びだして
先ずは目玉をふたつ、
声もなくポロンと落とし
詩人である若い女の頭部はみごと分解した
....
わたしは、あなたが思うよりも深く、沈んで、いる。
それは深海のようであり、深遠のようでもある。
あなたはあなたが嫌いで、いつも誰かを、装って、いる。
あな ....
雪虫の柱と
煙の柱が宙に交わり
何が居るのかわからぬ卵が
草と木の根に降りそそぐ
ひとつの岩の上に生まれ
岩を呑みこみ育ちゆく樹
卵の音を浴びている
卵の光を浴びてい ....
そこに ここに
くちびるを置き
すぎゆくものの湿り気を視る
まぶしく消える音を視る
水に映らぬ双つの影
水辺を雨へ雨へと歩む
雨のまことは隠されている
現われても消え ....
これは光ですか
はい そうです
誰も読まない
本のような光です
あれは光ですか
はい そうです
誰も訪れない
店のような光です
あれも光ですか
はい そう ....
雨は去り
野は息を継ぎ
有限を照らす
まぶしさをやめず
かけらは香る
満ちた川を
鳥は離れる
雨を追い抜く雨のほうまで
文字は幾つかつづいてゆく
声や羽が ....
おもいは目線のさきにあり
よそう前に 両手あわせます
名前も住所もしらずに ここにきたこと
目線のさきは しろいしろーい もちもちのふんわり
とどきすぎる、炊けるにおい
今夜 いっぱいぶ ....
両の指を痛い位絡めて
錆びたフェンス越しに友を見ていた
立ち入り禁止区域
思い切り高く遠くへ放った
僕達の鞄
一瞥して走り行く
君の ズザザと力強い
足元の埃
駆け上が ....
夕暮れと同じ色をした
雀の群れを乱しては進む
道標を飾る白い花
いつの世も悲しい子らはいる
わずか数秒のねむりのつらなり
分かるはずもないくりかえしのわけ
ねむりのまま ....
――外国産と思しき、
ずいぶんと安っぽっちい杉板の木枠に
金槌で小ちゃな無数の鋲を打ち込み、
皺なく「ぴぃーん」と
白い亜麻布を張った
自分で拵えた七百号の白いキャンバスへ
左官が使うみた ....
土色の声が
緑を曲がり
今は失い川を流れる
明るすぎて
からになる鏡に
満ちてゆく寒さ
地に残りつづける
光の矢のしるし
ただ置き去る音のほうを向く
....
菱がたの声が地に灯り
空にも海にも届きながら
誰も呼ばずにまたたいていた
夜の鳥
飛べないのだと
想いたい鳥
水をざくりと斬る光
動かない縦の水紋
熟れた灯 ....
指は
君の小さな生き物だった
どこか
遠い異国の調べみたいに
時おり
弾むように歌ってた
君が僕の指を食む
君が
少し子供にかえる
遠いね、
とだ ....
働くってことは
否応無く押し付けられた役柄を演じること
食品会社に勤めれば
賞味期限の記されたシールを貼りかえる日々
罪の意識など三日で消えてしまう
コールセンターに勤めれば
クレ ....
水でも風でもあるものの声
川の流れの先へと映り
海鳥の狩りに溶けこんでゆく
夕暮れも鉄もざわめいている
うすくのびた
草と道の汗
姿のない揺れと声
野の錆が鳴 ....
坂道 こがねいろ ころがる
くっ付きながら 離れ流れ
季節はそのくらいルーズに タイトに
輪郭を捉えた空のさかさま写真
素直すぎるほど無邪気に覆いかぶさって
見失う
三行の言葉
見失う
午後の光に
のばされる腕
花を
摘みとることなく摘みとる手
灯の上の灯の道
水の上にしかない陽とともに
水のたどりつくとこ ....
だまされることばかり
気にかけて
誰かを
だますことには
疎いものです
それなりに
気に病むのだと
難しい顔を見せるのも
大人のたしなみです
使いこなすべき
道具です
....
風をつかむ風の溝から
はがれ落ちる空の白から
鳥の爪跡につづく音
空を少し圧し上げる音
はざまを呑む日
双つの光球
においのまつり
音の粒の日
まぶたのまつり
ひ ....
今は 花屋さんにさえ あるけれど
わたしが子供の頃
すみれは
ひっそりと 一株
人知れず 咲いていました。
そんな すみれを 見つけると
いじめられた
ひとりぽっちの 帰り道も
....
私に至る道は 一体どんなであったろう
今はまだ 知る術はないし
特別 知りたいとも思わない
でも思いを馳せるのだ
私に至る道とは 一体どんなであっただろうと
母から受け継いでいるはずのミ ....
人が何かを捨てるのはね、
もっと大事なものを拾いたいときなのよ、
捨てる勇気もないのに拾いたいものばかり思うって、
それは夢とは言わないわ、
妄想というのよ。
....
誰かの何かになれないと知り
片方を閉じ星を見つめた
道のむこうの道を見た
風はひと葉にひとつあり
ひたいの上で水になった
指のはざまで光になった
生まれたばかりの宙宇の ....
一つだけ願い事が叶うなら
もう一度 裸眼で星が見たい
無理な願いとはわかっている
だから半分 諦めもついているけど
叶わない 無理ではない願いに
諦めは付け切れない
{ ....
時間のなかに棲む蟻が
別の時間を描いている
滴と傷をまたぎ
影を喰んでは歩む
曇が廻りつづけている
鳥と光が
光と鳥をくりかえし
曇の前をすぎてゆく
時間が ....
泥を
振り払おうとする腕こそが
いつまでも拭えない
泥かもしれない
確かめようの無いその有様を
透明である、とは
誰も語らない
そこでまた
ひとつの泥の
可能性が
散る ....
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