しとり
しとり
肩が
ひとつ浴び終えた白い固形石鹸のように、しとり
うな垂れる夜だ
秋の、
始めから用途のない石鹸水の
最後まで澄めない、白濁
いつまでも済めない、 ....
走り出せばついてくる
どこか高みにいるものが
消えかけた標を撫でている
棄てられた路を撫でている
成層圏が
一匹の猫の動きを真似ている
泣き出しそうな笑顔を浮かべ
....
崩れ落ちた家のなかに
階段だけが残っていて
空にささやく
みちびきよ
みちびきよ
夜の路の先の先に
地を照らせない街灯があり
空にささやく
みちびきよ
みちび ....
階段を下りてくる人たちの
足から上が見えない瞳
春に消えた白猫の
老いた背中を野に見る瞳
からになった犬小屋で
じっと何かを待っている音
とめどない霧と霧雨のなか ....
かすかに機械のふるえのあなた
崖に立つ雲のあなた
氷の下を流れるあなた
誰にも答えることのできないあなた
浮くように歩くあなた
伏せる枝 眠る葉のように
こち ....
遊星の昇る日
空の縁
半円を描いたら
落ちていく
時々振り返ってみたり、見上げてみたり
大通りの騒音がすっかり馴染んでしまったせいか
空の動きのほんの少しなら、気にならなくなってい ....
ゆっくりと曲がった
あなたの
スニーカーの最後の踵が
ビルの角に消えるのを
見ていた
喫茶店で
飲んだのは
なんだったんだろう
もう一生
思い出せないかもしれない
渡そうと思っ ....
それは私ではない誰か
窓際の花瓶の水を
新しく換えるのは
いつも気付かぬうちに
橙色の陽が差しこむ
開け放たれた窓から
手を振って身を乗り出す
あれは私ではない誰か
肌 ....
光のなかのかたち
花の前の小さな声
小さな姿
ほどけてゆく線のあつまり
光を知るもののまわりには
小さな光の歪みがいて
小さな手を差しのべている
手に手を ....
古い倉庫、砂埃に覆われたコンクリートの床は
汚れた床とは二度と呼ばれることはなく
砂埃ごと床として在って
鉄パイプの配置もダンボールの配置も
いつしか放置に変わって
私は ....
当たり前だけど
「性格がいい」なんてことや
「思いやりがある」なんてことは
二の次三の次
目の前にズラーっと並ぶ
モデルのお姉ちゃんたち
さあ始まるよ
審査審査オーディション
....
とても静かだった
自分の前後に自分がいて
とても静かだった
口笛で消えた
手のひらは離れた
離れながら鳴った
いろいろ混じる無色の
音未満だった
声は ....
散歩の途中で
くしゃみをすると
塀の向こうから犬に見つめられて、困った
立ち止まって見つめ合ってみるけれど
悪いことをした
わけではなく
少しだけ難しいことを
難しく考えてしまうから ....
あなたは やわらかな こもれび ゆらゆら ゆらすの
ただ よりそったきもちで ひぐれまで
あお と ぐんじょうが おしよせるなか
つないだ て ほころんで
ふわり ふ ....
わたしは何かを見に来ていた
一匹の蝿
一羽の鳥
空は空に
海は海にひとつずつあり
遠くも近くも聞こえずに
陸へ陸へと近づいていた
ひとつがひとつのまわりをまわり
....
流れ込むように
止まれない足元は
回転する音を
通り過ぎた重みを含ませながら
響かせている
夏に
焼ける
アスファルトが靴底を溶かしている
積みあがる積木の街
冷めないままで
....
掲示板も閉じられたまま
あの人は
もしかしたら 死んでしまったのかしら
最悪を考えてみる
書かれない日には
きっと どこかへいっているんでしょう
寂しいのが何より嫌な人だし
へそ曲が ....
フゥー…ンと
電気で動く電車は走る
「兄弟仁義」を歌う
酔っぱらいのオジさん乗せて
オジさんをを見つめているのはサラリーマン
プリンスホテルの紙袋をぶら下げて
その紙袋 ....
シトロン旨酒御身に沈み
こせごとままごと背になぞり
鮮やかに俺の野蛮人は水魚の雫声と夕日へ沈む
されど東より出ずる金色に敵う光彩なし
影と壁と風の生きものを
藪のなかから鳥が見ていた
朝にだけ現れる生きものの
羽音のような目覚めを見ていた
生きもののからだに光があたると
たくさんの傷が道にひらいた
鳥 ....
誰もいない日
誰もいない目
側溝の枝を鳴らし
むこうがわから来た風が
むこうがわへと帰ってゆく
日曜は泳ぎ
日曜は泳ぎ
閉じた店の前を泳ぎ
色あ ....
何もかけない
何もつくれない
何もできない
この自由の町で何をしたらいいのか
自由という言葉に囚われている私は
もはや自由ではない
そのて そのほほ そのめ
おっているものを わたしは ながめていた
そのどこからも よみとれる やさしさを ながめていた
わたしの かんかくだけは いつだって ぼんやりして
じ ....
微笑みの半分が翼で
空の半分が月で
呼びあって 呼びあって
微笑んでいる
夜に咲く花
触れられたことのない花
もっと小さなうたを歌う
もっとしっかり小さく歌う
世界 ....
夜は速い
夜は速い
これから向かう世界のすべてが
わずかに低く傾いているかのように
夜は速い
夜は速い
背に積み重なる力のように
夜は速い
夜は速い
誰かに遠去けられているか ....
月のまわりに
月と同じ輪があり
水平線に沈みながら回っている
輪は海にひろがり
波は光を打ち寄せる
屋根が 鳥が
騒がしく雨を知る
ずっと空を見つめていた目が ....
振り向くと沖に知らない人ばかりになってこわい
貝の表面についてる回虫みたいな模様がこわい
高波が何でも持っていこうとするからこわい
クラゲが知らないうちに沢山わいてこわい
あが ....
だきしめている とけてしまいそうなもの
にぎりしめている そんざいを たしかめていられるもの
ほろほろと ゆるゆると ほどけては みつめあう
おだやかな キス
あしたは さむくても い ....
八月の背中を歩いていると
目の前で空気が寝返りをうち
その色にその場に立ちすくむ
秋のそばの道を歩いていると
水のようで水でないものが
いくつもむこうからやって ....
プレゼントしよう
占領された暗い地図に
閉ざされてある
吹雪の愛を
あてどない水の記憶に
映っている
銀色の伝説を
それとも遠い空で
黙殺された
真実の吃音を
いい ....
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