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指は
君の小さな生き物だった
どこか
遠い異国の調べみたいに
時おり
弾むように歌ってた
君が僕の指を食む
君が
少し子供にかえる
遠いね、
とだ ....
働くってことは
否応無く押し付けられた役柄を演じること
食品会社に勤めれば
賞味期限の記されたシールを貼りかえる日々
罪の意識など三日で消えてしまう
コールセンターに勤めれば
クレ ....
水でも風でもあるものの声
川の流れの先へと映り
海鳥の狩りに溶けこんでゆく
夕暮れも鉄もざわめいている
うすくのびた
草と道の汗
姿のない揺れと声
野の錆が鳴 ....
見失う
三行の言葉
見失う
午後の光に
のばされる腕
花を
摘みとることなく摘みとる手
灯の上の灯の道
水の上にしかない陽とともに
水のたどりつくとこ ....
だまされることばかり
気にかけて
誰かを
だますことには
疎いものです
それなりに
気に病むのだと
難しい顔を見せるのも
大人のたしなみです
使いこなすべき
道具です
....
風をつかむ風の溝から
はがれ落ちる空の白から
鳥の爪跡につづく音
空を少し圧し上げる音
はざまを呑む日
双つの光球
においのまつり
音の粒の日
まぶたのまつり
ひ ....
今は 花屋さんにさえ あるけれど
わたしが子供の頃
すみれは
ひっそりと 一株
人知れず 咲いていました。
そんな すみれを 見つけると
いじめられた
ひとりぽっちの 帰り道も
....
私に至る道は 一体どんなであったろう
今はまだ 知る術はないし
特別 知りたいとも思わない
でも思いを馳せるのだ
私に至る道とは 一体どんなであっただろうと
母から受け継いでいるはずのミ ....
人が何かを捨てるのはね、
もっと大事なものを拾いたいときなのよ、
捨てる勇気もないのに拾いたいものばかり思うって、
それは夢とは言わないわ、
妄想というのよ。
....
誰かの何かになれないと知り
片方を閉じ星を見つめた
道のむこうの道を見た
風はひと葉にひとつあり
ひたいの上で水になった
指のはざまで光になった
生まれたばかりの宙宇の ....
一つだけ願い事が叶うなら
もう一度 裸眼で星が見たい
無理な願いとはわかっている
だから半分 諦めもついているけど
叶わない 無理ではない願いに
諦めは付け切れない
{ ....
時間のなかに棲む蟻が
別の時間を描いている
滴と傷をまたぎ
影を喰んでは歩む
曇が廻りつづけている
鳥と光が
光と鳥をくりかえし
曇の前をすぎてゆく
時間が ....
泥を
振り払おうとする腕こそが
いつまでも拭えない
泥かもしれない
確かめようの無いその有様を
透明である、とは
誰も語らない
そこでまた
ひとつの泥の
可能性が
散る ....
火に声をかけ
火は昇る
木は かけらをわたす
蝶の影
静かに 細い
雨の陽
高い風 目を閉じ
空はこぶうた
灰の陰の青
鉛の刃が
水の紙に沈 ....
重なりつづける眠りの底に
かすかに生まれ
浮かぶ手のひら
目をつむり 在るのは
無いということ
分からぬくらいに
離れていること
隠しても隠しても
は ....
水や峡谷の国の演者が
水や峡谷の音を奏でれば
それが水や峡谷なのか
おまえの水や峡谷はないのか
孤独が{ルビ蠱毒=こどく}になるまでに
自身の何を殺してきたのか
それと ....
明け闇に稲妻
白い栞のように
風は慌ててページをめくる
朝を探している
朝
井戸につるべは落とされて
鏡が割れるように
宝石が生まれるように
しぶきは上がる
あたたかい頬 ....
髪と声をほどきひもとき
あなたから生まれ出るものを
得ることなく得ようとしている
羽と鱗が 同じもののようにまたたく
夕日と虹といかづちを
分けることができないまま
....
灰の混じる手で
顔を洗う
灰は髪になる
灰は語る
火が残り
背を照らし
髪の影を燃し
ひとりを浮かべる
月を連れ 別れる
赤い光が 鉄路を去る
隣を歩む ....
器の
壊し方を知っている
けれどもわたしは
外側にいない
器の
壊れ方をおぼえている
けれどもあなたは
内側にいない
朝と呼ばれるものや
愛と呼ばれるもの
....
遠くの空、高い雲を動かす風の右に、海の響きが聞こえた。
欅樹の影に在る僕の午後の残像は、仰向けに気持ちの良い空と対峙して、寄せ返す時間を呼吸する。
およそ百億の中のふたつに似る既視感に捕ら ....
橙色荒野に吹く風を
纏う鉄蒼色の軸
時の線路を疾駆する
宵の列車が世界の涯へ
深く静かに進みます
時の左にたなびく湯気と
風を切り裂く幻時の舳先
アナモルフォセス ....
目から水を飲み
花になり
やがて言葉に
うたになる
数歩のぼる風の音
ひとつひとつの段の上に
しずくを含んだしずくが震え
空を囲む樹を映している
触れてはこ ....
蒼夜に月は上弦で
雲をゆらるとナガレテル
時の経過と動かぬ森と
月の記憶と揺るがぬ意志と
夜の明けないたぬきの世界
微妙にずれた月影に
エッジ鋭いたぬ森が
「イマ」を ....
ビー玉の中で
歪む町並み
世界は
終り
蝉の羽根
透かして
見える
極楽浄土
線香の
煙が
導
常世の旅路
夏空の
彼方を
目指して
往生安楽行
....
積乱雲を夕刻に照らし
今日の終わりの貌
南南東に流れてゆく
身代わりの月は
時々かすみ
雲よりも遠くで
私を笑っている
またたく稲妻が呼ぶ
....
微笑みかけた頬
何もない明るさ
目を閉じたまま
早く目覚めすぎた朝
何かが既に去った跡
曇と曇のはざまの手
子の膝もとに蛇はいて
緑に金に
息をしている
....
外へ飛びたち
かけらを食べた
光になれない
鳥は何になる
次の虫がもう
鳴きはじめた
小さな背の原
熱ではないもの
葉をひるがえす
さよならを解く
....
滲んだ肌に香水が匂う、
視覚からこぼれた淡い影たちが
発せられない声とともに
音もなく、永遠へとむかう
冷たい未来の交じった
柔らかな過去の感触がまだある
つい今しがたも、
昨日も、 ....
水に挿されたくちばしが
海を海へ引き寄せている
己れの舞を舞うものにあふれる
帳も 色も
響きを奪われ
なお鳴り響く
ひきちぎられた
半分に満たない
紙と鉛 ....
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