私たちが
自分を創り終えるのは
いつなのだろう
たとえば、
どこかの建物の一室で
最後の息を一つ吸い
そして、吐き
その胸の鼓動が
ついに沈黙する時
あな ....
きみはきみの重ねた日々を
だれかにあげることはできない
きみの苦痛を
ひとに与えることはできない
つらくて寒くてさびしい朝のこと
きみだけが知っている
ひとりで知らない街に潜り ....
空振ったプロポーズを使いまわしている
ずっと抱きしめてきたけど
本当は離れられないだけなんだ
それとほぼ同時に分かるんだ
眠っている時のわたしのたましいが聴くのは
求められなかったあれやこれやのかなしみの旋律
それでも覚醒することなく
囚われることを好んで眠り続けたい
きょうの明日にはいつもさらなる下りだけの ....
洋燈が揺れている 心を反映する
「愛しています」 わからなくなった夢
見知らぬ暗い森を 彷徨っていた
遠く微かに 木々の隙間に瞬く 暖かな光
秋の夜に 影をなくした 心へ
何かし ....
朝の信号は、青になり
盲目のひとは白いステッキで
前方をとんとん、叩きながら
今日も横断歩道を渡ってゆく
日々の{ルビ道程=みちのり}を歩く
惑い無き後ろ姿は
人混みに吸い込まれ
段 ....
冷たい雨が降り続く
冷たい雨が
靴を濡らす
季節は落ち葉の底深く
沈むように眠りに落ちる
望みは断たれ
願いは口を噤む
もう金輪際
雨が降り止むことはない
と
濡れた落ち葉は断定す ....
指パッチンして折れたとは言えない
ラジオから
古いコマーシャルソングが
聞こえてくる
まだ製造販売されているのか
リアルな感覚が違和を覚え
希望の持てない時事放談なんか
これ以上聞きたくないの
逃避行動を待ち受けていた
....
前略 わたしはぼちぼちです
あなたはいかがですか 草々
追伸 ぼちぼちだといいな
寝ても覚めても
迸る感情
君の事を想いつつ
朝日が昇る
まだ形状の定まらない
流体の太陽
金床に流し込み
躊躇の槌で打ちつける
超高温の金属は
赫灼と輝き
理性 ....
大人になっても子どもの姿
{ルビ蓑蛾=みのが}の雌は{ルビ蓑=みの}の中
雄が訪ねて来るのをじっと待つ
翅も持たずに交尾をし
卵を産んで死んで往く
大人になっても幼いこころ
美しく濃い ....
言葉に表せない思いは
ため息で足元に落とせばよい
言葉に表しても伝わらない思いは
自分で口を開けて呑み込めばよい
いつも思いを言葉で包み込もうとした
言葉に包まれた思いは変色してしまい
....
秋風のなかに
ほんのわずかに残された
夏の粒子が
午過ぎには
この洗濯物を乾かすだろう
通夜、葬儀の放送が
朝のスピーカーから流れて
犬が遠吠えを繰り返す
香典の額を算段して
....
ヒグラシの遠い呼び声暮れて行くひとりぼっちの道は遠くて
夕暮れの窓辺に寄って本を読む涼やかな風秋の足音
金色の庭でみつけた木漏れ日のスポットライト妖精の輪だよ
ひとりきり置いてきぼり ....
似たような幻なら幾つも見ている
運動会や遠足の帰り道
途中で投げ出した試験の最中に
きっかけもなく駆け足で通り抜けた道
傷ついた恋なら一生忘れはしないだろう
出入り口の庭に転がる ....
幸せを祈っていると伝えたが認めたくない君の結婚
毎日ターニングポイントで変わらない
森羅万象の奥行きを潜り
泡立つ呼吸音に身を委ねる
壊さなければ訪れない静寂に
あてがった指 時間を悔やんで
包まれた喪服の相容れない微粒の黒
引き千切って 逃げ出すのもいい
やがて更新 ....
君と見た程よく青い空がない無限に広い世界は消えた
人間や
運命という言葉でしか
癒せない傷がある
最近の首相は
愛国心とかぬけぬけと口にしているらしいが
簡単に傷を癒せると思って
その言葉を使うなよ
「愛国」とは何だ!!
「愛 ....
断らずに済むのなら
だれも傷めず済むだろう
自分だけが傷めば済むだろう
弱音を吐かずに貫けば
士気は下がらず貫けるだろう
自分だけが背負う重みを貫けるだろう
....
自分で敷いた道がある
凸凹道で思うように進めない
曲がりくねった迷路の道で
迷ってばかりいる
ぬかるんだ道に
足を取られて転んだこともある
途中で立ち止まり
天を仰いで溜息を吐いた
....
国境に有刺鉄線秋燕
もう動かない足が歩こうとする
手渡され
キャベツを剥いている
一つが終わるとまた一つ
終日キャベツを剥いている
来る日も来る日も剥いている
甘ったるい青臭さ
葉をもぐ音は眠気を誘う
額に縦皺や青筋を浮かべ
倦み ....
ドラマチックに声をあげながら 静止していくのは
流れるはずの血液 聞こえるはずの心音
足早にそこから立ち去っていきたいのに
抱えた季節を手放せないから 動けない
与えられた名前 ....
秋の向こうに{ルビ欹=そばだ}てながら静かに燃える木の葉ほど
老いの門口 艶やかに {ルビ靡=なび}くことができようか
ひとによりけり だが
誰も自分が想うほど 美しくも醜くもなく
ま ....
あなたにあえないのと
もういないのとはちがう
そんな簡単なことに
今さらきづく
叔母の悲報をきいて
しぬってそういうことなんだね
うわのそらで君のこえをきいた
ふいにふれたくなっ ....
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