投げつけあった苛立ちが
そこら中に散らばった
冷たい床の上
手足を広げ寝転んで
ベッドの下で遊んでいる綿埃が
捕まえてみろよと言っている
床の上に
張り付けのように
自分で ....
木漏れ日が気持ち良い
緑が光りを浴びて生き生きしている
鳥の声も嬉しそうだ
人の声がする
嬉しそうな声だ
ちらりほらり木々の間から
鮮やかな着物を着た女性たちがこち ....
カビ臭い脳細胞に浮きあがった
裸木をかかえたアベニュー
それが青い春のスライドだった
細い肋骨の胸にひろがった
収集できない幾重の波紋
それが赤い夏の出来事だった
禿頭の福耳にひび ....
夜のうちにパンケーキの生地を作る
明日の朝焼くだけで食べられるように
小麦粉 たまご 牛乳 砂糖を掻き混ぜて
いつからパンケーキと呼ぶようになったのか
昔はホットケーキだったはずなんだけど ....
蝶を呑んだものの肌に
蝶が現われ
真昼の終わりまで
話しつづけている
小さな音の
まわりだけの冬
鳥は追う
羽を忘れる
石の径の影
曇のなかの声
....
お父さんの部屋は半分おなんどで
机の横にさびたバス停がありました
お父さんが3年前
会社の近くのがらくた市で買って来ました
私と妹は大喜びしました
お母さんは
「何考えてるのよ、こんな ....
生まれる前から苦節
声がする
崖っぷちに
かろうじて
爪を立て
呼んでいる
誰かを
よるじゅう
求めている
雨に打たれて
傘も持たない
家もない
母もない
優しい思い出も持たない
痩せた猫が
....
こんなにたくさんの
文字が 並んでいるのに
どうしてさみしいんだろう
文字でなんか温度を感じられない
そう言われて涙したのは私
向こう側にいるはずの
だれかの息遣いを知らない
....
埃っぽい倉庫街の一角
赤煉瓦造りの古風な倉庫
その中で熱心に壁の穴を覗く者
それは老人だった
グレーの草臥れたジャケットを着た
老人だった
櫛の通っていない白髪の
老人だった
老人 ....
体力なくて三途の川渡れないでいる
雪が僅かに消え残った海岸に
揺れているのは去年のススキだ
長く厳しい冬の間
雪に埋もれて立ち続けていた
ススキはいつ倒れるのだろう
既に枯れているのに
命の抜けた穂を振って
いつまで風に ....
寝ない子がくまちゃんを寝かしつけている
ひとは
あるものにも
ないものにも
こだわってしまうね
しぬためにいきるのか
なんて
考えそうになる夜 うっかりと
一番上の層を
ながれながら
探している半身
ほか ....
あぜ道の草刈機の音
遠くに聞こえ 想像する
労働する人の尊い汗のしたたり
うなられた田んぼ そしてその へり
へりの必要美に心奪われる
水がはられた田んぼに思いをはせる
....
水色のレポート用紙木の芽時
――再び発つ、と書いて「再発」という――
*
「人間はふたたび起きあがるようにできているのさ」
いつも眼帯をしてる{ルビ達磨=だるま}診療所のヤブ医者は
片っぽうの目で ....
風は確かに冷たいのに
午後の陽のぬくもりが
耳に触れた
除雪作業が終わった後の雪道は
目を開けていられないほど
強い白さだ
瞼の隙間で青空も霞む
静けさをカラスが横切っていく
....
すっきりとしない水色の空
街道を行く車はなかった
きょう退職のひと
日だまり
じっとした桜
電車にゆられて
こんなもんだと
こんなもんだったかなと
すっ ....
僕たちは公平に接しているか
子供だというだけであるいはステイタスであなどったりはしていないか
フェアには美しいという意味もある
美しいものはおそらく作為もなく公平なのだ
ともす ....
桜に出迎えられると
晴れがましい気持ちになる
今日の新入生という
気持ちになる
薄い白は
希望の色か
あおいそらにすけて
今日もわたしはがんばろうとおもう
僕が死んだ日
遺書を書いて旅に出よう 僕にさよならして
昨日の真夜中 心の海の
とても深い所に沈めてやった もう浮かんでは来ない
大嫌いだった 僕はもう
さようなら 今日は何度目かの ....
今夜もまた誰かの悲しみが裂けてしまった
梟の眼が光る孤独の森
冬の尖った爪が人の夢を引っ掻く
日が昇れば
何も聞こえなかったように
白い雪の舞い
光が冬の仮面となり舞踏会
....
はらはらと降り注ぐ花びらの中
おさげ髪をなびかせて
少女は桜並木を駆けて行く
誰に会うために急いでいるのか
息を弾ませながら
少女は桜並木を駆けて行く
君のその澄んだ瞳の奥に
誰 ....
陽がさして思い出に帰る
荒涼とした大地の上に
荒涼とした時空が
広がる
その
片隅を
写し取りたい些細な詞は
荒涼とした
影をなす
荒涼とした影の懐に
荒涼とした金属の
痕跡がある
....
都市気候に密閉された
お洒落な箱にいます
外はとても過ごしにくいのだけれど
箱に入れば何もかも揃っていて安心
そこは好かれる気配が大切
優れていても劣っていてもだめ
....
西洋ではエイプリルフールだって言うんだろう
その日は嘘を吐いても良い日だ
だから、私が死んでも誰も本気にしないだろう
きっと、
「いくらエイプリルフールだからって
そんな嘘はいけな ....
造られたのだ
望んだ訳でもなく
花の像に似せられて
花の代わりに飾られて
その美しさに比べられ
蔑まれては
やがて飽きられ捨てられる
色褪せても尚
枯れることも許されず
土に還る ....
最終下り電車
残業帰りの疲れ
飲食店従業員という化粧
旅行帰りの子供連れの疲れ
デート帰りのいちゃついた欲望
窓を見つめる独り言
酔っ払いの不明な歓喜
忌避すべき酔っ払いの不潔な嘔吐
....
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