生きる
乾いた空の木の枝は
去年と同じ姿をしている
彼らは信じて疑わない
この冬が
やがて春になることを
人はどうして姿かたちを変えるのだろうか
老いることは人も木も同じは ....
マリアは涙を流している
階級のなみだ
金属製の胸には革命の歯車が
コチコチと廻る
フリッツラングの見たニューヨークは
セピア色の未来
摩天楼には愚かな文明がのさばって
素朴な世界 ....
わたしと云う うつわの中に
血のほかのものが
そうめんながしのようにさらわれながら
どこかへとするする向かっている
芯のある雪の根もとで
眠っているかと思いきや
ハマグリの部屋 ....
気難しい顔で、本を読んでいた
犬が
ニッと笑った。
――それには訳がある。
犬の気難しさより
笑いの
その意味の落差のほうが
カクッと おもしろかったのであり
....
人なかで咳が出ると
はやく止まれとあせる
半径3メートルにいる人たちから
無言で疎まれていると感じて
目的地のことなどどうでもよくなり
消え去りたくなる
独りで居るとき咳が出ると
ほ ....
今夜も
うちの犬と猿が騒がしい
/妻、戌年、息子、申年
犬猿の仲とは言うけれど
喧嘩するほど仲がいい
とも言うんだな
だから毎日大賑やか
おれは酉年
鳩は、クル ....
あんなに抱いたり
キスしたりしていた妻が
今は物体のようにそこにある
その物体も
私のそれと同じように
いつかどちらかが先に
物体ではなくなるのだろう
あんなに抱いた ....
ごすいって
ひすいに似たような
石
たおやかに
睡り続ける
午後
もくもくと
宝石になる練習をしよう
纏足の爪先から
あたたかな成分が溶け出していく
あらがえない{ルビ麻薬=レ ....
ねえ みんな聞いてよ
昨日も行ったんだけど
今日も行くの
大きな病院に
朝食抜きなのに
思わず食べそうになって
あわてたわ
とりあえず薬は飲まなくちゃ
メイクする気にもなれず
....
自分や自分の愛する人が
明日隕石に当たって命を落とすとは
恐らく誰も思わないだろう
だから
いつも通り私達は
目の前の人にお休みを言って
今日という日を
当たり前のように見送る
あ ....
女だと思っていたよ秋櫻子恋する前に知って良かった
ついこの間まで
アンチエイジングな歩き方というのを
こころがけていた
高い化粧品も買えないし
せめて遠めに若々しく見えればもうけと
良い姿勢には自信があるし
さっさっと足早に
目 ....
種をまこう
名前も知らない種でいい
名前や理由なんてあとでいい
木を植えよう
太く立派になるかなんて
植えるまえから考えもせずに
今すぐにでも
今だからこそ
きっと ....
夜に紛れて逢いました
指の先から次々零れるシャボン玉
幸せな夜のコーヒー
眠くない
コインロッカーの陰で
階段下の倉庫脇で
立ち止まる
進めない
雨が降っていて
目の前をたく ....
そりゃあ
バターの生産で
有名は有名ですけど
北海道をバター県って
呼ぶことについては
いささか異論がありますよ
寂しいイメージが
強すぎるのではない?
第一
県じゃないし
犬好き ....
固く結んだ歴史の果て
柔らかな風を含んで君は花開く
大輪ではないが機知にとんだ
しっかりした花だ
空からやって来る言葉を迎えるために
僕らは産褥をしつらえねばならない
....
光が次の
季節を連れてくる
風はそれを
押し戻そうとする
雨が次の
季節を置いていく
人はそれを
なかなか見つけ出せない
ひと雨ごとに
行きつ戻りつしながら
季節は摺り足で ....
閉め切った部屋の窓硝子の温度差
水滴によって曇っている硝子表面
外界の寒さと此処は無縁の筈だが
独り曇った硝子窓を見つめている自分は
一匹の黒猫だ
雌なのか雄なのか去勢されてから
噸( ....
まばたきには
ばね がついていて
どれだけ
すばやく
まぶたを
弾ませられるか
競いあっている
{ルビ双子=シンクロ}
持ち主に
気づかれてはだめ
そんなに
凝視しても
真 ....
帰る家があって蹴れる石ころ
都会の人々が
いっせいに蝋燭に
明かりを灯したその夜
ひとつの灯が
消えた
わたし…
それっきり
くちびるは動こうとは
しなかった
友人の一人は
彼女の瞳は笑っていたと ....
薄茶けた昭和の古書を開いて
ツルゲーネフの描く
露西亜の田舎の風景から
農民の老婆の皺くちゃな手は
搾りたてのぶどう酒が入った器と
焼き立ての丸い{ルビ麺麭=パン}を
時を ....
備え付けの
グレイのロッカーの扉を開けると
中に針金のハンガーが二本
ぶらさがっていた
わたしの前に
入院していた人が
使って残しておいたものだろうか
ただ一本の針金からできてい ....
その日
私は独り鉄棒に腰掛けて
夕日を眺めていたいだけだった
鍵を掛けて体の奥に仕舞っていたはずの
シキュウという箱の中に
エイリアンの胎児が
突如侵入してきたみたいで
ただ不快で気 ....
しぬなんておもいもしなかった
ひとが
海をみていた
くっきりカゲを増した
夕映えの
不知火干潟で
たぶん夢中で
ファインダーをのぞいていたにちがいない
もえのこる ....
バス停で他の街に逃げだそうと
元気のないジョウジは
襤褸雑巾のように
しわくちゃに俯いて
声を掛けても応えはしない。
大声で奴の名を呼ぶと
親指を立てて
「東京で一稼ぎしてくるぜ」
....
自分が書きたい詩を書くこと
読みたい詩が読めること
それだけの為に
命をかけていた
「おしん」の最終回のように
かつて、我慢に我慢を重ね
頑張る姿が人の感動を
呼 ....
人は
たくさんの事柄を
忘れながら
生きています
朝起きてみれば
隣の空き地は
白く覆われて
ただひとつの足跡もない
とてつもなくやわらかい
真新しい道に思われました
その ....
「不用品なんでも買い取ります」
そんな張り紙のある煤けた店で
残っていたわずかなやさしさを売った
音 ....
あなたの手に触れたとたん
恥ずかしくなって文字が滲んでしまったかも
読んでいただけましたか
言葉と言葉の間のためらいと
僕とあなたと間との小さな活断層
信じ合うためには強力な接着剤が必要 ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126