戦争ということばは
ことばでしかないような
そんなおじいちゃんの傷跡は
僕が
大学をでるころ
白と灰のまじった骨になって
それをみたぼくは
その前に
においがきたのだ
骨が炎で焼かれ ....
「本を読みなさい」
その人はそう言って
夕暮れて図書館が閉まるまで
わたしの隣で静かに本を読んでいた
映画を観なさい
音楽を聴き ....
幾千幾万の人波は終わりを告げない
すれ違う一つ一つの顔を
忘れる代わりに
白の背中が
鮮烈に映える
本当は
黒であり
青であり
赤であるかも知れないが
白で良い ....
しっとり、これは
濡れるために、素足
群れる草の土に冷たく踏み入り
行き場を失くしたことのない、
何処にも行かない、素足でした、濡れるために
こっそり、あれは ....
膝をたたみ 目を伏せて
思い出すのは
折りたたまれた空に見つけた夏のかけら
黒髪が 風を誘った雨上がり
わたし ここで猫が飼いたいの
....
ライオンさんのやる気が
ゼロでしたので
わたしは舌打ちをしました
タイガーさまも同様でした
残念でした
同じくネコ科のクロヒョウくんは
動いていました
しかしなが ....
「水」という字を見ると不安な気持ちになるので
女は薄目を開けて電話帳をめくる
おかげで大好きな「花」という字もぼんやりとかすんでしまう
今日はついてない
最後までめくり終えると印をつけ ....
しどけない姿で
君はうっすらと頬を染め
あられもない姿で
君は左手を背もたれに預ける
横顔はうつらうつら
淫靡な夢に眼差しは宙を漂い
噎せ返る密林のざわめきは
VooDooの魔笛
....
かくすためだけの
キャミソールに飽きて
このごろは いつも
はだかで過ごしている
夏はまだ
わたしの腰の高さで停滞している
午後4時をすぎると
夕凪に 夏がとけてゆく
....
聞こえなくなる直前の耳に聞こえる
鈴虫の羽が散らす美しい高音の点線に沿って
無数の枝が折れてゆく、無数の枝が折れてゆき
その微細な山折りと谷折り、その隙間から
水と ....
満月とは中秋の名月
ゆらゆら揺れる水面にて
時と戯れる
満月とは君の面影
苦しい時も笑顔を絶やさず
額の汗をそっと拭う
僕は忘れたりしないよ
君の優しさを
君は ....
街の上をはばたく銀色の
カフカの羽
群れは一勢に
うなづくように地を見る
陽に焼けた砂の道を見る
ごらん あれは
眠りの間際の窓辺たち
ごらん あれは
烏賊を釣る船の漁り火
人々の暮らしは在り続けていてくれる
汗をにじませながら
涙をうるませながら
人々の暮らしは在り続けていてく ....
あの日を境に
世界は明らかに下り坂に入ったんだ
たとえばさ
えらい人が逮捕される時ってあるでしょう?
あれね
時代劇の捕り物みたいに、突然いっせいに取り囲むってことは
実は ....
生まれ ささげ 手わたし 去る
鏡のなかに増えてゆく
誰もいない家並みに
打ち寄せるすべての見えないもの
やわらかく 冷たく
悲しいもの
暗がりに立つ光の線が
自 ....
目を閉じてひゃく数えるあいだの
静けさがこわかった
(いーち にーい さーん)
ぼくはずるだと言われるのがいやだったから
はんぶん泣きそうになりながらゆっくりと
(しーい ごーお ....
わたし、という曲線を
無謀な指が
掌が
少しの優しさも無くなぞる
書院窓の向うでは
秋の長夜の鈴虫が
交尾の羽音で月の影絵を滲ませて
こっちにきて
こっちにきて、と ....
夕暮れの 微笑 忘恩の 波
私生活の 凶器が 私の
夕暮れの 真似をした
道化の やはり
洪水の 模倣にも似た
祈りの 最中で
音が 鳴る
墓石に 虫が たかるように
音が ....
クリープ現象で
夜をすべる
アクセルを踏みそこなった右足で
有明ランプをまたぐと
すこし遅れて
あした が きょう になる
うしろへと流れる景色を手がかりに
恋人だったはずの
....
スキップなんて 最低だ
オルガンにあわせて 旋廻する幼稚園児の渦の中で
5歳のぼくは つまらなそうに歩いていた
ハイげんきよくー アキラくんもホラ スキップ スキップー
美意識 と呼ぶ ....
台風が行き過ぎた
西南西へ
6号の進路とは逆に
青空は底なしのように突き抜けて
まっすぐ入道雲へ
ラジオからエルトン・ジョン
切ないじゃないか
そんなに簡単に手渡さないで
ハンドルを握 ....
男がケンタの二人掛けテーブルに座り
何やら絵を書いている
風体には似つかわしくない童話の挿し絵
雰囲気には似つかわしくない
どこまでも明るく優しい印象の絵
そんな男の斜め後ろで
僕 ....
窓の
繊細な網目を透過し
すらすらと寝室の私の乳房へ浸透するのは
透明すぎるから、透明すぎるからです
空気中の夜
に含まれる鈴の
リ…
その中には、鈴、それは
リリ…
....
それは、下北沢を過ぎたあたりでのことだった。
通勤電車はいつも通り満員で、向ヶ丘遊園から小田急線に乗り込む俺は当然のように急行電車に乗っていて、で、その電車がどんな状態かというと、本厚木あたりから乗 ....
目の前の僕に
メールを送る君
いつしか
筆跡も足跡も思い出せなくなる
誠の微笑みより
丸かっこの笑いが欲しくなる
場所の概念が失われる
北海道だろうが
ヴェネツィアだろうが
....
文は夏でした
震えるという単語や
冷たい風の感覚を
いくら読んでも
文は夏でした
そのぎっしり
詰まった形から
ツンとする草いきれや
朦朧とした熱を
脳は錯覚するのでした
発育を待 ....
雨は降っていなかったけれど
カラカラ
空き缶を蹴った音はした。
爪先が乾いた咳をしたようだったけれど
本当は内臓みたいに湿っていた。
缶の暗い口から
暗い液体がアスファルトに垂 ....
下を向いて歩こう
涙が早く枯れるように
せっかく外に出たのだから
妻と娘に土産を買って帰りたかった
二人が泣いて喜ぶようなものではなく
小さな包みのもので構わない
ほんの少し甘いお菓子で
お土産買ってきたよ
あら、ありがとう ....
2億5千万個の眼球の海へ
君はボートを漕ぎ出す
オールで眼球を叩く度に
そのひとつひとつが
グリグリ音を立て
歪んだ眼差しで君を見つめる
見つめる眼球に映るのは
どこまでも青い空 ....
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