紅葉が近づく{ルビ樗谿=おうちだに}は
とうめいなたくさんの蛍が
言葉だけつまった
名前だけの思い出を
夕暮れにかえそうとする
いろだけになってしまう
ぬくもりを失うと
とうめいにな ....
苺ジャムから
苺を引いたら
夕日が残った
誰も地下鉄になど
乗ったことの無い町だった
くすんだ陽射しの中
食品工場の隙間では
猫たちがよく逢い引きをしていた
友だちにもみな両親 ....
あの人が眩しく見えたのは
わたしが光に弱いだけで
あの人が美しく見えたのは
わたしが色彩に弱いだけで
あの人の言葉にクラクラしたのは
わたしの心が欠陥建築だったのであって
いえ
きっ ....
一、 銀色の背中
飯も喰わずに、カピが月ばかり見ているので
座敷に上げて訳を聞くと
長い沈黙のあと
神妙な顔で
片想いなのだという
いったいどこの娘かと問えば
まだ逢ったこと ....
夜の明ける頃
苺ジャムの小瓶を積んだ船が
幅広の海へと出港する
その間にも
私たちには忘れていく言葉があり
その言葉を思い出すために
また忘れられていくものがある
産まれてきたし ....
小さな女の子が俺に
だじゃもん ちょうだいっていう
だじゃもん ほしいっていう
だじゃもん ねえ だじゃもん
だじゃもん ちょうだい
だじゃもん ほしい
そういわれ ....
一 琴引浜
さくら貝は、はかないという言葉がお好き
はかないという枕詞がつくものには
とりあえず歌ってみる
それらはかつては量産されたものだが
貝は、そんな厄介なものは持ち合 ....
松の湯
跳ねる湯船も恐ろしく
あれは白鯨モビーディック
いかつい背中の倶梨伽羅紋紋
あまりにも鮮やか過ぎて
タオルで隠さぬ前を横目に見れば
なぜか思わず猿山の猿気分
ラッキョの皮 ....
ユリノキと札をまいた柵は 間違いだと
硬くなっていたので ベコニアもマリーゴールドも
古いはやりのかたち 寄贈の名札の名前も
病院の受付で呼ばれていた
同じところがひとつもないのに
返事をし ....
牛のお肉が
ぴとぴとと
月の光に貼りついてる
生きているときは草をよく食み
くるぶしも美しかった
のだと思う
わたしのお肉もきっと同じ色をして
人のことをかつて愛したのも
この肉の ....
始まりの始まり
ゼロから始まり
ゼロに終わる
古びた社に幣を手向ける
立ち去る背に蝗の姿
農夫ということばも無い時代に
立ち去るという観念
喪失という確信
すべては幻想の下に始 ....
そのころ、と言っても今でもそうなんだけど
僕の遊ぶベースは六本木で
ヒマがあるといつも
終電でやってきて始発で帰る日々を送っていて
仕事の知り合いよりもこの街の知り合いのほうが多いとい ....
虹を食べ過ぎてしまったか
のように少し大きい女の人が
愛という字を
消しゴムで消し続けている
あの鉄橋を渡れば私の故郷があるのよ
と指差す先には
窓がないので
景色の良く見える庭 ....
わたしだって
夢見るおんなでいたいから
満月の夜
かぼちゃの馬車に乗り
お城の舞踏会にでも繰り出して
素敵な王子様と踊ったら
ガラスの靴の片方をわざと忘れてしまう
Shall we da ....
湖の絵葉書が届いた
大して親しくなかった人からだけれど
きれいなので捨てられない
大して親しくなかったけれど
その人を思い出す
お互い積極的に話しかけていれば
きっといい友達になれ ....
昨日は其処には無かった窓から
招待状を携えて
使者の使者があらわれた
見おろすと路上はすっかり{ルビ鈍色=にびいろ}の流動体と化していて
あちこちのビルの歪んだ非常階段に
コロスが点在してい ....
朱鷺色のお腹を見せて
金次郎が腹鼓を打っていて
鼓腹撃壌の由来を思い出す
金次郎の満足そうな
お腹の色は朱鷺色で
今にも欲ではち切れて
臓物汚物を噴き出して
雲の裳裾を紅くする
....
ヒダリノマナコ
ごろごろ
太鼓が鳴るよ
ごろごろ
猫が鳴るよ
のどが
渇くよ
水が
乾くよ
洗濯物が
ひらひら
飛んでゆくよ
蝶々が
空高く
....
弁当を開けると
中に海が広がっている
故郷の海のように
凪いできれいだった
朝の静かな台所で
君がどんなふうにこれを作ったのか
想像しようとしても
後姿しか目に浮かばない
帰れ ....
放射冷却の夜に
ひとりでいると
冷えすぎて困る
ふたりでいると
せますぎて困る
自転車操業の夜
瓦版を刷ったと
横町のご隠居が
素っ頓狂な声を
壁に貼っている
下手な声も貼る
....
緑色した大地の果てに住む
保護色の蛙たちが
人でなしにつかまって
赤い入れ墨で
標識番号を付けられて
無線チップを埋め込まれ
開け放たれた大地に
放射冷却の暮色を迎え
子煩悩の ....
完爾として
泡沫候補が
手を振る
ドライバーが急ハンドルを切って
横町に突進していく
地方選挙の時代だと
大見得を切る
大ボス小ボスに
一泡吹かせてやりたいと
立候補した叔父さんは
....
北朝鮮の核実験の報は
気持ちの良い 晴れた日の真昼
ちょうど 洗濯物を干しながら
見ていないテレビの音声から
物干しの最中 ベランダの手すりに
茶色い カマキリを見つけていた
むかしか ....
私は悪魔ではない
地獄の炎に取り巻かれているわけでも
コウモリの翼を持っているわけでもない
人間の中で暮らしてはいるが
私は れっきとしたマラークのひとり
今日も 無能な部下の提出する書類一 ....
キーポイント
キーポイント
ブレーキを掛けながら
クルマが喚く
チョークで
殴り書きしながら
先生が喚く
試験にでるよと
言われても
試験を受けられないのだから
カンケイないじ ....
シュールなショールを引き裂いて
モンゴリアンが走る
エイゴリアンが続くと
猫が鳴く。
これでおまんまが食えると思ったら
涙が出てきた。
夢でよかったと
思ったら
ほんとに涙 ....
はだしの足跡を
顔にあてて
影の中の指を
切り取りながら
立ち上がって帰るところ
しかしまあどうだ今朝のこの赤ん坊っぷりは
何にも考えてない
何にも考えてないで
シャウトしてるぜ
オパポー
オパポー
おぱぽう
おはようじゃなくて
おぱぽうだ
....
ごらん
はらはらゆく、
あれは、
空気から砂地へ
落下してゆく、あれは、
公園の
あらゆる輪郭をなぞる夕刻の光の
限られた範囲をなぞられればいい
限られた範 ....
あかねずみは困っていた
今年は{ルビ楢=なら}の実が凶作だった
けれど、それで困ったわけじゃない
代わりに{ルビ椎=しい}がたくさん取れたから
国立チュー央大学の教授によれば
ど ....
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