西の空が
赤銅色に燃え残り
薄暮が辺りを包む頃
俺は拳を握りしめ
一心不乱に進んでいく
胸の辺りに蟠る
抑えがたい不安感に
鼓動激しく息を継ぎ
夕闇の道を進んでいく
西の空が
....
流出する
網戸から ひんやり入って来る冷気のなかへ
私は流れ出し溶けていく
生きている 実感だけが鮮明に
意識をうっとり抱擁し
私は刹那 居なくなる
流出し続けるわたくしは、
自 ....
晩秋の日差しの中
庭先の洗濯物が
風に揺れた
わたしは黙っている
不安と静けさが同居する部屋で
神と向き合う
やがて平安に包まれるよう
愛に包まれるよう
ただ黙って待ち望む ....
ああ、こうしているあいだも
どこかの山脈は
星明かりにだけ照らされている
追い抜いたら歩をゆるめるひとの
かかとをなんとなく故意に蹴った
復讐みたいなことをされている
....
色画用紙をひろげて
影をうつす
木炭でなぞる
しばらく眺める
笑いがこみあげてくる
なんと へんなかたちなのだ
俺といふやつは
俺は笑つた
笑つて 笑つて
笑ひ尽くした
....
オヤジに土瓶蒸し、食べさせたかったなぁ、
って、思い入れたっぷりの言葉を聞いて、
オレも、そうだなぁ、と
しみじみと思ったよ。
って、
オレも食べたこと、ないじゃん。
....
終わりそうで
終わらない人生よ
しがみついて
よろけて 倒れても
下を向いても
終わらせたくなくて
また歩く
いつまで生きるのか
何処まで生きるのか
あきらめない
....
波、持ちあがり砕ける
持ちあがり砕ける、波
わたしはいない どこにもいない
陸続と
波波
優しいケーブルがあって
ぼくに電気愛を教えてくれて
コネクターを集めるようになったんだ
優しい先生と不躾な仲間がいて
痛みと妬みと苦しみを中和するてだてを
覚えさせてくれたし
いつ ....
谷底から
這い上がって来る強風は
この山の頂きで
ぽそぽそと降る雪となる
郵便脚夫のこの俺は
向こうの国に郵便を
届けにこの山を
越えねばならない
いかにも陰気な顔をして
日に日に何 ....
足で漕ぐのは
オルガン
という名の舟
音符の旅
息でつなぐ
ときおり苦しくなって
とぎれる
生きていたという波の上
気配だけになった猫
ふんわり鍵盤の上を渡る
秋の日は
....
垂直尾翼より
右側にはたくさんの人々
左側にもたくさんの人々
まさか
右に傾けば戦争?
まさか
左に傾けば内乱?
何もなくても
毎日人は死んでいる
垂直尾翼より
右 ....
細胞の中で狂気は水棲生物の卵のように増殖を続けて、そのせいでこめかみの内側は微妙な痛みを覚え続けている、尖った爪の先が終始引っかかっているみたいな痛み―軽い痛みだけれど忌々しい、そんな―俺はい ....
父の夢を見た。
背広を着た元気な頃の姿を。
頭を撫でられて
何か言いたげに口元が動いても
声を聴くことは叶わない。
目覚めたら
今日は私の誕生日であることに
気が付いた。
日々 ....
妹がママになると判った日
母の手を取る彼女の傍らでは
今は亡き父が佇んでいた。
孫の誕生を共に喜び
元気で丈夫な子供に育つよう
そっと見守り続けているかのように。
私はほんの一瞬
....
光が充ちて来る
悪夢の奥から
光が充ちて来る
足場は崩れ
まさに死の淵
その時肩を揺すぶられ
目覚めて見れば顔が浮かぶ
灰色工員帽と蠢く闇
部屋の白壁が唐突に
無機質顕にのっぺら ....
瓦が白く光っている
烏が一羽とまっている
広がる朝の光の中を
烏と瓦が交わっている
互いの輪郭守りながら
光の海を泳いでいる
この美しい秋日、
天高くから降って来る
青い青いどよめきに
胸高鳴らせて
待っている
懐かしい
未知フルサトの到来を
予感のなかで
待っている
ごろごろごろころころころされされころされるるるるルミナス神戸の思い出もはやいみなくなくなくなく手に手に手にした刃渡り短いナイナイナナナナイナイフナナナナ左右じゅんじゅん順々に刺すすせそそそれがワタワタ ....
柿の実がたわわに実り
コスモスが咲いている
秋の名も知らぬ花々が風に揺れる
歳を取るごとに身軽になってきた
久しぶりに家でくつろぎ
妻と共にいるが
特に話すこともない
買 ....
羽釜洗う少し向こう蜘蛛の子跳ねた
懐かしい未知は
遠く空へと続く道
気流の音が鳴り響く
大気圏を通過して
桜色した巻き貝の
トンネル抜けて
帰還します
奥まった意識に
盛んに響いて来るものよ
おまえは鮮明な輪郭保ち
独り存ることの透徹を
直接魂に伝えて来る
この思考透き通る十一月
寄せては返す波のように
おまえの響きは親密に
おれの ....
風の透き通った匂いがする夕べに
螺旋階段を昇っていく
未来から到来する
未知の響きに耳傾けて
優しく渦を巻く木霊の調べに
螺旋階段を昇っていく
波の跡が
空に残って
だけど
いつのまにか風が消していく
秋の雲はことさら
はかなげで
明日にはもう
冬のものになってしまうだろう
空は
海のなれのはて
今はもう絶滅した海 ....
女の温もりも
家族の団欒も
過ぎてすっかり独りである
風が吹いて
途方に暮れて
確かな予感を持ち独りである
遠くの森のざわめきが
夜空に木霊し未知を紡ぐとき
私はひたすら独りで ....
今日はわたしが生まれた日
まだ{ルビ仄暗=ほのぐら}い玄関の
ドアの隙間から
朝のひかりは射している
幸いを一つ、二つ・・・数えて
手帳の{ルビ暦=こよみ}を
ひと日ずつ埋めながら
....
壊れた時計から夢が逃げました
もう時間は教えてくれません
遠い昔も今も未来も
在るのか無いのか
この部屋が寒いのは何故なのか
教えてくれるものは在りません
淋しい季節が続きます
秋の夕暮れ
活字食う詩人ひとり
酒を飲む
ああ旨い ああ旨いと
横になる詩人
名月が雲間から
青白く光り
ススキが風に揺れる
秋の夕暮れ
活字食う詩人ひとり
今宵何を思 ....
夕陽は落ちないよ
そんなツッコミが 聴こえてきそう
誰がハミングするだろう
きっと 鳥たちだ
鴉は塒に還るだろう
何処から 飛び立つのか
あの 尖がった
一番 空に近 ....
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