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おのれの呼吸が
一つの音であるということ
それは
あまりにも気づき難くて
ともすれば
日々の暮らしの意味さえも忘れてしまう
月の満ち欠けは
暦の通りに
全く正しく空に映るの ....
日常の軌道を{ルビ反=そ}れて、
行く当ての無いバスに乗る。
車窓に薄く映るもう一つの世界の中で、
駅周辺を流れる人々の葬列。
葬列の流れる行き先に、渦巻いている濁った泥沼。
....
山麓の寂しい町に
月はかうかうと照つてゐた
すべての人が
月を見たわけではないけれど
みんな
ボールを胸に抱へるやうにして
眠つてゐた
薄い{ルビ翅=はね}
はばたいて
数日の 玉の緒
切れた先に 何が見える
揺らめいて 嗚呼
{ルビ水面=みなも}を舞う だが
{ルビ羽音=はおと}は聞こえない
その かすかな存在のゆ ....
陽ざかりに
影がゆれる
塀の上に
白樫が緑の枝をのばし
陽ざかりに
光がゆれる
そこに咲いている
荒地野菊の花
寡黙な額に
風が吹き
みつめる心も
そっと ....
あれ、
この花火どうしたの
おかあさん もらったの
今日はけんちゃんの命日だからね
買ってきてもらったんです
こんな暑い日だったの
戦死公報に載ってただけ
亡くなった ....
セミよ
そんなに急ぐな
さっきから
空を見上げてばかりじゃないか
お前の
自慢のその羽は
ただ
アスファルトを掻くばかり
セミよ
今なら見えるだろう
あれが星座だ
私も昔 ....
一.
戦争を俺は知らないんだと はじめて思い知ったのは
キプロス島に ある朝突然逃げ帰った妻が いつか話した
占領の話 地下室の話 息を殺して
あいつが真似た マシンガンの ....
ひざまずけば 祈りの
耳のたかさで やぶれた
約束を ささやきながら
ひらくから とこしえに
きみを わすれない
住んでいるアパートの階段で
小さな蜘蛛が巣を張っていた
それは何処にでもいる小さな蜘蛛で
だけれどもその姿は初めて見るほどに
頑なに黙々と同じ動きを繰り返し
{ルビ蜩=ひぐらし}の声 ....
あの人に愛された
私の体のパーツ
ひとつずつ
指でなぞっていく
マッチのように
こすったら
残り火は
燃えるだろうか
まだ
私のために
時々鮮やかな夢を見る
誰かが微笑む夢を見る
白いテーブルの向こう側に
時がさらさらと流れてく
それは風のように足元を流れ
微笑む人へと続いている
時々せつない夢を見る
誰かを愛す ....
空が大きいこの町で
小さな命が生きている
一つ一つは小さいけれど
空に負けないくらい純粋で
大きな意味を持っている
空が大きいこの町で
小さな命が笑っている
一つ一つは小さいけれど
....
わたしが生まれ育った郷里では
要らぬものを裏山に投げた
村外れを流れる川に流した
囀る野鳥の気配に誘われて
ひとり裏山を彷徨えば
要らぬものは朽ちて土となり
夕餉の支度でも始めたのか
潜 ....
空を行く
風ほどに軽く満ちていたい
鳥の翼を
ささえ得るほどに
空に吹く
風ほどに軽く満ちていたい
様々な音を
伝え得るほどに
何かあるように見えなくて
それでいい
雲はた ....
教えてほしい
あの空の青みの
ほんの隙間の翳りの中に
何を見いだし詠うというのか
たおやかに流れる川の
水底に沈む
ひとかけらの悪意を
掬って頬張った
その後の嗚 ....
雨水と目
異なる振れ
そよぎ そよぎ
添えられる手
建てかけの家が揺れている
手にすくわれた水の底
見つめる息と
同じ色をして沈む音
そこに ここに
残る ....
夜になってから急に
庭の倉庫に首を突っ込み
懐かしい教科書を次から次へと処分して
家の中に戻ったら
腕中足中蚊に刺されていた
それを見た母ちゃんは、言った。
「あんたはつよ ....
愛は、{ルビ脆=もろ}い砂の{ルビ塊=かたまり}
この手に掴もうとすれば
指のすき間から零れ落ち
{ルビ一時=ひととき}で姿を消す
優しい陽射しのこぼれる
窓辺の下にそっと置かれた ....
声を振り絞るだけ振り絞って叫んだ私を
君はふり向きもせずに歩いて行く
そこに一本の道があるように
脇目も振らずにただまっすぐに
背中を向けて歩く君に声が出せない
手を伸ばしてみてももう届 ....
どこに居ても君が見つけられる様に
僕は世界の中に居続けるよ
負けない様に
空を見上げる様に
手を伸ばすよ
嘘だ
そんな綺麗事じゃない
僕は
忘れられるのが怖いんだ
ただ
一人に ....
君は控えめに微笑む
今僕がここで笑ってもいいのかなって
君はそぉっと思いやる
おせっかいにはならないかなって
まだ
子どもの大きさしかない君は
その内側で
広 ....
そうしていつも、一つの愛は
踏み{ルビ潰=つぶ}された駄菓子のように
粉々に砕けゆくのであった
そうしていつも、一人の{ルビ女=ひと}は
林道を吹き過ぎる風のように
{ルビ昨日=かこ ....
曇り空に
夏が少し薄れて
鮮やかを誰かに譲った向日葵が
枯れた葉を恥じらうように俯いている
風に混じって遠い蜩の声が
髪を擦り抜けると
秋、と囁かれたようで
逝く夏に何か
何か ....
改札を抜けるように明日が来るのです
明日が毎日、未来であると信じるひとたちが
道端にこぼれてこびりついたジュースまみれの
自分の影を踏んでいるのです
カタチあるものだけに価値があるかの ....
辛く悲しい時もあり
楽しく笑う時もある
変わる気持ちの一日は
時を過ごした有である
切なく想う時もあり
ときめき踊る時もある
移る気持ちの一日は
時を味わう実でもある
遠く離れ ....
僕には、
{ルビ鈴香=すずか}、{ルビ京香=きょうか}、{ルビ由香=ゆか}の三姉妹がいました
{ルビ次郎=じろう}君は彼女たちと一緒に暮らしていました
彼女たちにはそれぞれ次郎君の子供がいて
....
一.
俺の知らない赤で
雲が光の中で
死んでゆくんだ
今も
おまえの知らない青で
波が砂の上で
壊れてゆくよ
ほら
見ろよ
カモメの親子が今
俺 ....
きれいな若者たちが
無惨な船首に触れるとき
潮騒は
永遠の座を退こうとする
これまでもこれからも
財宝は
何一つ約束を交わさない
けれどもそれは
語り継がれず
求めるこころの ....
語らう小鳥の 囁きも
野を渡り疲れた 風の旅行着も
みんなみんな小綺麗に 仕舞い込まれています
雨の衣服のポケットに
消えた森、そのものが すっかりと
畳み込まれているのです
だから ....
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