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生徒からもらった手紙には
「わたし先生がいなくても頑張ってるよ」
って書いてあった

渡り鳥のように教室をめぐる僕は
だからこそ一つ一つの授業を大切にする
うまくいかないこともあるけれ ....
自分で考えてみても些細過ぎる悩み事を
頷きながら聞いてくれる
復縁できたらとか下心あるのかな

彼だった頃は喧嘩ばかりしていたのに
なんだか不思議だよね
今では心を開いて相談できる
同志 ....
真昼の星座のように
記憶の中で物語を紡ぐ
思い出せるだけの登場人物が
いつも同じ台詞
終幕はいつも引かれないまま
あきらめきったような時報で
私の視線は花壇に戻る

鬱金香、まっすぐだ ....
朝が来るたびに遠ざかって
後ずさりしていく、記憶の束を
水平線を越えてくる、光の波に
さらわれないように
抱き寄せる
さよなら、
さよなら、



特別なことなんて、なにもない
 ....
ゴスロリっていうのかな
そんなフリルのたくさん付いた服
一度くらい着てみたいけど
「おばさんの癖して…」
あなたに言わてしまいそうだし
そんなの着れる歳じゃないことぐらい判っている

ふ ....
猛禽がやたら低く飛んでるな

  なのはなにしずかなあめ
  なのはなにしずかなかぜ

桜の花びらに埋もれた
側溝のたんぽぽ

   散って舞う風流よりも
   舞って発つ、汚れても ....
僕の暗がりに
三十四回目の月が生まれ変わる
前世も月だ、その前世も

それを証明するために
この手は螢石をみがく
やがて銀河の形の指輪を飾るために

暗がりの天蓋がひと巡りする
シリ ....
そらの隙間
を、埋めようとして

   春に吹けば花を
   夏に吹けば草切れを

僕の僅かな体温で
そらのどこかに隙間ができて
そのどこかをえいえんに
、さがしつづけ

    ....
真っ白な雪が降ったとき
僕は子供のように喜んだ

冷たい雪に埋もれながら
僕はそんなふうになりたかった

真っ白な雪と大地の間で
わずかな温もりを感じたかった


 四月 (始ま ....
へのへのもへじみたいだねと問いかけたら
「へへののもへじ」が正しいんだと
あのひとは言った

―へのへの

叱られて家に帰れなかった
夕焼け空に
ロウセキで描いた
へのへのもへじ
 ....
去年の落葉のように
毛布にくるまって待つ
それが前夜、という夜

  篝火はひどく電気仕掛けで
  ひとりぼっちな自己主張
  もう永遠はいらないから
  あなたを灼きながら、焦がれたい ....
ふわ、り
風に追われた桜
川面にちいさな州を作り
その薄紅のしたを
きみの遠い息遣いが流れる

いつか
それはシロツメクサの匂い立つなかで
流れていたのと、きっと同じ
けれど今日は
 ....
夜、鏡の窓に
映るサイレントモード・シグナル

予感、といえばやさしく
明滅が灯台のように思えて

クッションでそっと隠す流れ星
夜明けまでそれはひらかない


眠るふりをして ....
本当の姿を毛布に絡めて
誰にも知られないための夜が
いつも通りに朝にむかっていく

眠れない時には{ルビ主電源=ブレーカー}を落とし
遮光カーテンが
偽物の夜景から部屋を隠す
欲しいのは ....
先週末に桜が散ったばかりなのに
あなたは
物置から引っ張り出したビーチパラソル
具合を見たいからと
これ見よがしに拡げてみせる

どうやら使えそうだな

アルミパイプの椅子まで組み立て ....
「せんせいのては やさしいかたちしてるね」

いきなり言われたので
僕は自分の手をじっと見た
どうみても普通の手だ

「どういうところがやさしいの?」

血管がういて筋張っているし ....
桜舞う水底に佇む魚
たゆたうひとひらを
尾鰭で弾く

開ききった瞳孔で
仰ぐ空は
こみあげる白一色

こぽり、泡が漏れる
どこからか
漏れ続けている

ゆるい水流にもたれれば
 ....
弾けもしないのに
ギターを手に入れたのは
歌いたかったわけじゃない
きりりと張られた弦を
掻き切りたかっただけ

切る、
鋭く傷つくだろう
僕たちは

   その境界はほんとうです ....
焼けてきたお肉を器用に裏返してくれる
横の物を縦にもしない性格だと思っていたのに
どうやらそうでも無さそうで

アルコールの度数は低いからと
ビールの飲めない私に勧めてくれた
甘くてとろり ....
拡散する意識のなかで
三月の
浅すぎる海底に揺れている

季節は傾きながらも
横滑ることなく
白い軌跡を轢いてゆく

街路樹の切り口に
ひたり、しみ込む優しさ
僕はきっと
臆病な ....
{引用=
天体観測者に告ぐ
赤道儀を解放せよ


赤道儀を空の中心に合わせると
僕は地軸を手に入れる
グリニッジでも
マウケアナでも
野辺山でも
誰かがそうやって
手に入れる
 ....
あなたはいま、幸せですか?

君の単純な問いかけに
イエスともノーとも言えなかった僕は
不断桜の幹に身体をあずけ
枝先の小さな葉を気にしていた

こいつも光合成してるんだなあ
陽ざ ....
とべない鳥がなくように
誰かのそばでうたっていたい

とべない鳥がなくように
誰かのうたをうたっていたい

とべない鳥とわらわれて
とべない鳥とからかわれても

誰かのそばでうた ....
学生たちが
そこここに円くあつまって
華やいでいる
どうしたら
あんなふうに笑えただろう
そういえば、もう
何年も卒業していない

花壇のすみで
孤立無援だった球根さえ
新しい黄緑 ....
春、という実感もないまま
海を泳ぐ
わずかに持ちあがった
二の腕から滴る光に
戸惑う
掻き寄せるものは
どれも曖昧な痛みばかりで

だいじょうぶ、と
支える声は
生え変わったばかり ....
きみが少し元気なときに
庭に植えた白梅に
真珠の粒がころころと
それは春の序章とも言える

きみが好きだった春の 前髪が見えて
それはきみの季節とも言えるが
メディアから塗りつけられる春 ....
裸のまま
まぶしそうな仕草で
月明かりに浮かぶ
広場の青銅像の影が
焦点を化石の姿に結ぶとき
恐竜の骨、それが
今日のあなたの言葉

  騙し絵は嘘もつかずにごまかしてきた
  勘違 ....
いくつもの読点で、あなたを区切って
体内へと運ぶ


元のカタチを、思いだすこともできないくらいに
細切れに、咀嚼していく
小指の爪から、過日の砂が落ちて
潮の匂いがした


 ....
休み時間に生徒が漢字練習をしていた
なかなか漢字が覚えられないとぼやきながら

僕はそれを見守りながら
漢字はいくつかの漢字がくっついていることもあるから
それを手がかりに覚えてゆくのも ....
オレンジの雲をかじる
甘酸っぱい空気を冷やして飲んだ

気流が発生する前の
静かに流れる朝は鳥の声に押されて
ようやく白い地を染める

地球の回転は空の綱引き
勝ち負けのない勝負は ....
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