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物語は
いつからはじまったのだろう
あれは遥かふたばの記憶
いろおにの
むらさきが見つからなくて
忍びよる気配に耐え切れず
かさぶたに触れた、指先
―――ふるえていたのだ
―― ....
ああ
いくつもの候補があったよ
さくらとか、みかんとか、まりんとか
植物や風景が多かったかな
もう生まれてくる季節なんか
どうでもよくってね
まろんとか、こなつとか、みさきとか
次々 ....
素数ばかりの現実を逃れて
羊水に包まれたような充足と安心を
浅い眠りに{ルビ貪=むさぼ}る、朝
休日の
{ルビ繭=まゆ}の内に垂れる
一本の危うい糸に吊るされた体躯を
淡白い光りの方角 ....
おなかが痛くて
おやすみしたという娘が
しょぼくれた眠い目を
こすりながらくれた
カカオ
バレンレーの日と
君が言ったから
誰がなんと言おうと
今日は
バレンレーの日
あた ....
新しい雪の降り積もった
静かな屋根やねが
水平な朝に焼かれて
私の底辺をもちあげる
増幅する光の波が
うずくまる私の手をとり
青い影を洗う
そうして
裸にされてゆく、わたし
....
子供たちは
キティちゃんのホークで
なぽりたんを召し上がる
何千キロという海の大きさも
何十万ガロンという容積も
その喫水の深さも
まるで想像できない
きっと、大切なことなのだろう
....
朝霧の蒸発してゆく速さに
子供たちは
緑色の鼻先をあつめて
ただしい季節を嗅ぎわける
くったり眠っている
お父さんのバルブを
こっそりひらいて
空色を注入する
うん、うんとうな ....
一、蝉しぐれ
白い病の影がおりて
夏の命、際立つ
すり硝子の花瓶に
溢れていたはずの笑顔
シーツに残された
僅かな起伏は
生きていた
あなたの
散らばった
レモン色 ....
若草色のかざぐるまに
しがみついていた、あの人が
夕風にさらわれて
私の中を流れてゆきます
水たまりの映す青さの
ほんとうを
確かめるまえに
軽々と飛び越えて
もう
行ってしまっ ....
何を植えるかなんて
考えもなしに
掘りおこした
庭のすみ
やわらかい土の頂きに
雀が降りて
ころころと、まろび遊ぶから
つい、嬉しく振り返って
あの人の面影を探してしまう
幸 ....
ほとんどの人は、もう
溺れているの
誰も気づいていないだけ
澄んだ指さきが
アルカディア、と答えて
空の一角をさす
新しい風景、新しい秩序
それは
見たことのない宇宙
(行け ....
耳から
抹茶がこぼれてしまうという
朝になるとシーツは
たっぷり緑を含んでいて
洗うたびに
深みを増していくのだという
(この時期だけなんですの
と
さして困ったふうでもなく
さらさ ....
海に還る
手続きはいらない
横たわり
網膜を青で満たしたら
循環する感情を
濾過する
やがて
余分な手足は
抜け落ちて
流線型になる
心配するな
そのころには
陸な ....
私は元来
無口な男でありまして
うっかり、思慮深く思われがちですが
それは、本心を秘めている
というより、むしろ
現すタイミングを計れない
どうにも不器用な人間なのです
何か言わ ....
ゆふぐれ
ふみきり
みずたまり
おむかえの
はは、したがへて
黄いろいぼうし
せおう赤
あたらしいくつ
よごさずに
じょうずに
とべた、よ
はがいっぽん
....
あなたが
この頃やさしいのは
何か企みがあるのかと
首を傾げていましたが
いま、この橋にたたずんで
ようやく気がつきました
もう
春なのですね
欄干にもたれて
あなたの
い ....
ダッシュボードに斜めに突っ込んだ
おもちゃみたいなラジカセ、レゲエのリズム
全開の窓から
おまえは
ほっぺた出して
ぶるぶるやってた
子供みたいに
俺は
クラッチとアクセル
ジャ ....
折りたたまれてゆく季節は
いつか振り返れば
一瞬なのかもしれない
湧きいずる水におされて
いま
雲母のいちまいが
なめらかに遠ざかる
使いきれなかったノートの白さ
描ききれなか ....
二日遅れのホワイトデーの
白いリボンを髪にのせて
ふわりと回ってみせる君は
大きくなったら
メイドになりたい
という
人様に奉仕したいとは
見あげた心がけだ
と
解釈は準備してお ....
春へと続く回廊は
まだ細くて
差し込む光に
白く歪んでいる
三月は
足裏を流れる砂の速さで
大切なものを{ルビ攫=さら}っては
あやふやなものばかりを
残してゆく
いくつ ....
(また、お出かけなんだって、つまんない
保育園で唯一娘のことを
好き
と言って遊んでくれた友達は
先月突然、家庭の事情で引っ越してしまった
この町にも
あの町にも
ひしめく家並み
....
{ルビ微睡=まどろ}んで、乗り過ごすうちに
春まで来てしまった
0番線から広がる風景は
いつかの記憶と曖昧につながっていて
舞いあがる風のぬくもりが
薄紅の小路や
石造りの橋や
覗き ....
うぐいす色の鳥のたねを
あたためる
その小さな手は
もう、知っている
ふくらむことの
喜び
ひとしく
うまれることの
尊さ
{引用=
1
むかしむかし
あるところに ....
朝起きるとボスだった
眉間に深い皺が刻まれていたが
特に不満があるわけではなかった
煙草をつまんで深々と吸い込む
ブラインドはない
のでカーテンから覗く
何ということのない休日の朝が広 ....
夕焼けは決して終わらない
さっき、オレンジのストローで
おもいっきり膨らませておいたから
輝く小石たちのいるポケットの輪郭
指先の土は、もう、乾いた
工事現場の重機の群れは
拳を打 ....
八角形の小箱は
ブルーウォーターで満ちていて
覗き込めば
ぶちの鞠が回転している
それは
滑らかな哺乳類の群れだ
あるいは
みるく色の
貝類の
ひとかたまりに
溶けて
....
あいかわらず武士だった
参代する日でもなかろうに
女房殿に渡された温かい包みを抱えて
坂を下ってゆく
*
何やら人垣ができていて
たいそうな{ルビ賑=にぎ}わいである
隣の女房が ....
西日のうちよせる窓辺に
幼い貝がひとつ
もぞもぞと動く白い靴下を
つん、とつけば、また{ルビ蹲=うずくま}る
どうしてこの子は
こんなに静かな遊びを
思いついてしまったのだろう
座り ....
朝起きると武士だった
(拙者、もうしばらく眠るでござる
と、布団を被ったが
あっさり古女房に引き剥がされた
長葱を{ルビ購=あがな}ってこいという
女房殿はいつからあんなに強くなったのだろう ....
幼子が堅く握った手を
僅かにゆるませるように
朝の光を浴びた梅の木が
真白い花を孵化させている
豪華さはないが
身の丈に咲く、その慎ましき花に
頬を寄せれば
まだ淡い春が香る
....
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