うなじに貼りつく蝉の声を
拭ったハンカチの上に
炎天下の用水路に浸した
素足のこそばゆさを重ねて
最後の線香花火が消えた後の
かすれた火薬の匂いの上に
水着の跡 ....
私は転がる団子です
長い間
日のひかりを食べ
雨を食べ
風に包まれながら
何故かのぼりの坂道を
ごろごろのぼってきたのです
ごろごろ転がっているうちに
だんだん大きくな ....
僕の冷蔵庫ではつぎつぎとものが腐ってゆく
賞味期限は半月前は当たり前野菜は黴としなびで
使い切れないぞ独身奇族
そこで整理もかねて古い野菜をかたっぱしから検閲し
余命少ないあるいはアンチエ ....
深夜放送が終わる
テレビを消す
ビルの谷間から
ヒグラシの鳴き声が
聞こえる日がある
そうかと思えば
砂を一粒も見かけないで
過ごす日もある
ざーっ、と
砂嵐の口真似を
ひ ....
気持ちのいい風に吹かれて
汽車は南を目指して行く
広がる青い穂波に心はときめいて
懐かしい君の声が僕を呼んでいるような気がするよ
君と作ったあの秘密基地はまだ残っているかな
蝉時雨の中駆 ....
もちろん
お金や地位や金メダルや銅メダルで
人は幸せになるだろう
私は
もちろん私は世界にたった一人なのだからそういった意味で存在自体が金メダルみたいなものなんだろうとは思う思うけど理論で ....
風を浴びて暮らそうよ
室外機の熱風ではなくてさ
木々が日差しをさえぎって
しっとりと冷ややかな土が冷ました風
暗渠ではない川の水面を
きらきらと輝かせながら吹いてきた風
蓄熱するア ....
ペンギンの嘴曲がる大暑かな
河童忌や笑顔の写真焼き尽くす
潮浴びや近づいてくるオスプレイ
誰にでも『パパ』と言う吾子天瓜粉
白猫にウクレレ聴かす夕端居
雲海を見下ろし食べ ....
亜寒帯のオフィスを出て
果てしない温水プールを
東から西へ
亜寒帯の百貨店を目指し
思考停止のままの潜水で
東から西へ
最後の力を振り絞って
エレベーターのRボタンに
タッ ....
小さき花のテレジアは
修道院の姉妹等の
冷たい目線が心に刺さり
獄中で鎖に繋がれた
ジャンヌ・ダルクに自らを重ねる
「風の家」に住む井上神父は
老いた体に嘆きつつ
在り ....
雨上がりの
苔の上で眠る
あの幸せを
私はどうして手放してしまったのか
雨上がりの
苔の上で眠る
それをするには
私は大きくなりすぎてしまった
雨上がりの
苔の上で眠る
極 ....
また、夏が
また、あの光景が見えて来る
田圃の畦道を
母と一緒に歩いている
手を繋いで歩いていく
畦道の陽射しは強く
麦わら帽子の隙間から
頭髪の汗をさす
揺らめく道端
青い稲
....
ぼくの声を
受けとめて
返してくる
きみの息づかいが
ぼくの耳のカタツムリに届き
回転滑り台をおりて
胸にまでくると
安心する
迷うことがあると
きみに電話で話す
話すだけで何 ....
こわれたラジオの部品とか
いろんなガラクタくっ付けて
こさえたぼくの宇宙船
飛ばないことは百も承知さ
けれども心は飛んで行く
誰も知らない惑星へ
わたしたちは飽きもせず
あちらこちら ....
心臓も歌う
幾筋もの光のもとの
Tシャツを洗う
胸に剥いた
雨の運ぶ
誰のでもない額は
手のひらにすべる
きみは歌う
仙人掌になりたい
心臓も歌う
でも今日ではない
や ....
捨て猫に傘さしてやる梅雨の入り
石ころひとつ置いてきた
あなたの庭に
あなたがいないあいだに
そっと
昨日もひとつ置いてきた
一昨日もひとつ置いてきた
その前の日も置いてきた
どこにでもある ....
ぼくも夏毛になりましたって そんなアホな
暑中お見舞い申し上げます たま
雨の日はほら
また寝ぐせがついてる犬のひげにアイロン だめかしら
どしゃぶりの雨の中しつこく猫をさがす犬 ....
休日。
ふとんの上にのびている、午後
窓の外から
かーん
威勢のいい、ゲートボールを
打つ乾いた音が、青空に響く
(何故、僕の目の前に
もやはもやもや ....
コロッケを箸で摘みあげたら
笊に敷いた紙に沁みる
人型の油があらわれた
いつも凝っと
あちら側からこちら側を
覗いている
世界のまなざし
霧が低く立ち込めている
地平に連なる街並みの輪郭線を
淡い紫が滲ませるように覆っている
その帯状の霧のすぐ上に
なだめるように添うように
葡萄鼠の月が出ている
こころも身体 ....
ピアノ弾くあなたの指を
私はじっと見つめている
ときに優しくときに激しく
流れるように囁くように
指は{ルビ水面=みなも}を
夜の水面をはじいて動く
私のためにだけ{ルビ一夜中 ....
キラキラ輝く
青や水色のビー玉
両手ですくって
光にかかげる
ビー玉の中は
青や緑や白や赤や
幾重にも色が混ざり
私は無意識に息を止める
これは朝顔ね
これは海藻
そしてこ ....
いやな唄
あさ八時
ゆうべの夢が
電車のドアにすべりこみ
ぼくらに歌ういやな唄
「ねむたいか おい ねむたいか
眠りたいのか たくないか」
ああいやだ おおいやだ
眠りたくても ....
栗の木
そのとき
ジョージ・オーエルの『一九八四年』を読んだばかりの彼女が云った
「お店の名前は栗の木がいいわ」
ぼくはグレアム・グリーンのスパイ小説『密使』に夢中になっていた
「いや ....
牛丼屋でウシが食事をしていた
まさか共食いか、
と思ってよく見ると
豚丼だった
食べ終えたウシは
お父さんごめんね、と言って
手を合わせ
泣き始めた
他のお客さんは皆
見て見ぬふ ....
小さな子供のやわらかな髪を
指でやさしく梳かすように
風は愛撫する
幼いころから見慣れている
名も知らぬ野の草花を
市営住宅が建ち並ぶ
隙間の小さな芝生の上
心地良さげに ....
家の隣は空港だった
何機もの大型ジェットが
毎日離発着していた
やがて、空港は遠くに移転し
跡地には都会ができた
あの空を飛ぶ飛行機には
手が届かなかったのに
今では窓から手 ....
未開封の手紙
書き込まれない予定
しおれた花と花瓶
折れた赤鉛筆
忘れられた写真
昨日食べたケーキ
深夜の非常階段
端の欠けたグラス
効かない睡眠薬
窓の外の雨音
胸にしまいこ ....
ところであなたの結末は
空に聳える塔の上
さらに伸ばした指の先
白い雲の浮かぶ場所
光の中で交差する
きらりと光る紛い物
ところで自分の結末は
八五番の緑色
赤い豚の急降下
離島 ....
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