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竹の葉に星が宿る
母が切った色紙の短冊を前に
幼いぼくの指や手や
腕から背中へ
ありったけの力が
みなぎっていく
卓袱台に
前かがみになって
鉛筆を握って
母に教わりながら
字 ....
合気道の稽古で
左目を傷つけた
痛風の発作が
右の親指の付け根に出た
車庫入れのときに
自動車を壁でこすってしまった
黒皮の財布を失くした
それでもぼくは
幸せであると唱える
....
挨拶したのに
ぼくを見て
顔を横にして
何もいわない人の
その一瞬が
ぼくのこころに
小さな傷を作る
返さない人の
こころのうちは
苦しくはないのだろうか
その人のことを
....
眠りは死の子ども
一日一日
気づかないうちに大きくなって
やがてぼくと等身大になると
目覚めることがなくなるのだろう
いつその日が来るかわからない
いつそうなってもいいという
準 ....
腕から力を抜くには
一旦手を握りしめて
振りながら脱力して
それが在ることを忘れる
考え続けて
不安になったら
安心できる人に話す
日記に書く
言葉で握りしめた後で
考えない ....
ぼくのこころに根をはって
大きくなった老木が
公園の散歩道をゆく
墨絵のような老木から
枝が生えて
格子状に柔らかく伸びて
その先に花が咲く
躑躅の紅い花
ハナミズキの白い花
菫 ....
背中に杭がささる
子どものころはそのまま
小学校に行った
人には見えないので
痛みをこらえている表情を見せなければ
だれにもわからない
休み時間に追いかけられて
プロレスのヘッド ....
色紙を折って
六角形の船をつくる
水が入らないように
縁を高く折る
かわいいお雛様を折るときに
見えない不安を
そっとつつみこむ
これから
どうなっていくかわからないのに
想えば ....
汲みあげる
言葉になる前の想いが
溶けている井戸水から
丸い壁の井戸の底の水面には
手がとどかない
のぞきこむと
そこには何十年もつきあってきた
おれに似た顔がいる
顔はつぶや ....
頂上から
山の斜面にある
噴火口のくぼみまで
火山岩の砂利を踏んでくだる
植物のない荒涼たる大地
坂の途中で
凹んでいるところは
地球のえくぼだ
そこからあがったところは瞑った目
....
日々の不安に花が咲く
小針の形をしていて
胸に痛い不安の種を
心の庭にまく
その姿が見えないように
土をかぶせて
言葉の水をまく
新しい種が
胸をチクリと刺す
それも ....
おれの家にはカミサマがいる
毎朝公園を散歩する
おれがよりそって歩くので
怪しげな影は近づかない
近所で揉め事だ
カミサマを守っておれが出ていく番だ
言葉に気合を入れる
四十年近くも会社 ....
目覚めても
夢が続くのか
岩穴に
風が吸いこまれていく
のぞく眼に
洞窟の奥でうつむく子どもが映る
近づけば
幼いままのぼくだ
小さいからだを
剃刀の風が
音を立てて
通 ....
灯りを消してベッドに横たわり
脳裏に
小川を流し
縁に笹の葉を茂らす
夜眠れない
苛立ちを
笹の葉にのせて
流れるにまかせる
明日の不安は
確かにあるが
それも葉にのせて
....
ぼくの声を
受けとめて
返してくる
きみの息づかいが
ぼくの耳のカタツムリに届き
回転滑り台をおりて
胸にまでくると
安心する
迷うことがあると
きみに電話で話す
話すだけで何 ....
思わぬ方角から飛んでくる
ボールのように
不幸は突然
ぼくに当たる
視界が狭くなり
周りが暗くなって
倒れるときに
歪んでいくぼくの顔が見える
しばらくしてもうひとりのぼくが
....
仕掛けではなくて
普通のオフィスである
優しい表情でいた男が
背中を向けて振返ると
窓の方を向いて
皮膚が蒼白くなり
眼が鋭く光る
その顔を見た途端に
心臓に短刀が刺さる
逃げ出して ....
悩みの倉庫は胸にある
袋の口をしめて
幾層にも積み重ねる
きみと話したあとで
倉庫に無くなっている
きっと起重機が
袋を持ち上げて
運び出したのだ
胸が軽くなって
ぼくの気分も起重機 ....
異星人の女
ぼくより背が高い
コトバをしゃべる
ぼくを見て笑顔を作る
食事にさそう
女はよく食べる
ベッドに行く
ちゃんと乳房がある
触ると反応する
「チキュウジンニ
ニテイルワネ ....
薄桃色の貝殻
蓋を開けるまで
固く身を閉じている
指の先がはいらない
貝の根元の
薄い毛を撫でる
息をふきかける
声をかける
唇で吸う
貝から液がもれる
蓋が少し開く
指であける ....
ぼくは沸騰するスープである
ジャガイモが崩れていく
ぼくは真っ赤に茹で上がる毛蟹である
苦しさに前脚を伸ばして泡を吹く
底から熱せられていて
二重の蓋がかぶさる
重くてもちあがらないで ....
地上で使った資料の多くを海の藻屑にする
書斎は浅い海の底
侵食された岩の本棚に
小さな貝が貼りつく
整理された書斎には
イソギンチャクや
蛸や珊瑚が棲みつく
海面 ....
笑うと金語楼になると
細くなった母の目を
指さしながら父が笑う
明るいさざ波が立って
子どもたちの顔まで
福笑いの目になる
母が笑う日は少ないが
その笑顔はぼくの
胸の引き出しにある
....