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アルモノヲナイモノノヨウニ
ナイモノヲアルモノノヨウニ
カタルモノニカタラセズ
カタラナイモノニカタラセヨ
時の澱み
虚無の沼地
透明な不発弾
スイカばかり食べていた記憶の夏
....
ヒマワリが肩を組んで仲良しだ
熱にうかされて夢をくりかえして見ていた
数字には現実の数字と希望もしくは失望の抽象的な数字がある
当たり前すぎて現実と抽象はごっちゃになっている
....
薄暗い台所で
小さなボールを抱え
温めた牛乳を昔ながらの泡立て器で
けんめいに泡立てる
しゅんしゅんしゅんと薬缶が
今にも ....
風船の話題が膨らまない
いそぎ足でやってきた
冬が
粉砂糖みたいな
パウダースノーを
街中に降りかけていった
私の黒髪にも白く積って
ガトーショコラみたい
綿菓子みたいな吐息が
凍える指先を温める
北風 ....
だんだんと
忘れたように
白くなる手足をして
朝 晩 かまわず
ひとを待つのは
あさましいことと思いながら
紙のような心に
置いた石ひとつ
どうにも平べったくて
転がることも ....
下手な詩を下手に唄って何が悪い
下手な人間は
上手くはなれんのだから
下手なように歌うしかないというのに
人づきあいは苦手ゆえ
頭に猫をのせることにした
出会う人たちは皆
頭の上の猫に気を取られ
(毛並みをなで
喉をなで
さかんにじゃらし)
私のことは気にも留めない
そのすきに私は
....
紫の葉が落ちた時
生まれた頃の泣き声は還らない
腐敗が始まった土壌で
夢は悪臭を呆然と放って歌は枯れていく
耳の役目を終えた貝殻を二つだけポケットに仕舞い
少年は東へと永遠に消え ....
木目の美しい一膳の、
箸に惚れた
色香を漂よわせ
朝に夕にと
おいしいものたちを
口に運び入れ
わたしに感謝の咀嚼をせが ....
風景がちがう
あなたがいないだけなのに
ただ、いないだけなのに
一生続くであろう闇に光を照らしてあげたいのだけれど
照らしてあげたいのだけれど
アンパンを作るにも餡がないし
カレーパンを作るにもカレーがないし
そもそも小麦粉がないし
パンを欲しがってるか ....
お父さんは近頃おもしろくない
洋子の微笑が何よりおもしろくない
あらためて増えてもみた透けてもみた消えてもみた
しかしそのたびに穏やかに見つめてくる
かの慈母のような微笑が
はな ....
ただそれだけのはずだったのに
暗い穴蔵へ落ちたのだった
夜を千倍にして流しこんだような
なにも見えない本当の闇
一瞬の過去を ....
拙くてもぼくは「君との失踪」を書いて、それが
じぶんを覗いた初めての瞬間
いつとはなしに、その詩が消えてからは
じぶんの覗き方も変わってしまった
(水のように流れて、もはや字面には戻れなか ....
それは鉛の重力で
垂直に私を引っ張るので
テグスに結び付けられた浮きのように
私は
水面に立っている
もうふわふわも
ぐらぐらもしない
磁針のように空を指し
己を標として生きるのだ ....
【大草原の星の王子様】
いつしか はだかになれない自負が
少年を呼び寄せたのだろうか
ひつじの絵を書いてと言われて
ツノを書いてしまった
ダメじゃんぼくの星で おじさんの思い ....
砂粒は
この星の記憶を宿した欠片
掬いあげた端から
零れ落ちてしまうから
そっと
天地の間に閉じ込めました
遠く遠くに旅をする
命が離れ離れになろうとも
同じ時を刻めるように
小 ....
紫煙を燻らす人が美しいのは
呑み込んだ
言葉にできない想いや
ぐっとこらえた言葉を
煙まじりに
昇華させて
弔って
その煙は
....
冬空は鈍色の曇天
銀杏の並木は
隙間無く黄色の絨毯が敷かれ
気持ちよく歩こうとするが、
坂道は滑る
雨の坂道は滑る
人生の平面図には
坂道が読み取れず
確かに坂道があるのは
当た ....
ほどよく乾いた小枝や
抜け落ちた羽根や
通り過ぎていった月日の
さまざまを
ちりばめておく
もうそこは
きみのねぐら以外のナニモノでもない
広い宇宙のなかで
ただひとつだけ
選ん ....
馬鹿でっかい鰤のアラと
ぶあつい銀杏切り大根の入った
湯気のたつ味噌汁を啜って
海苔と胡麻塩の握り飯を食う
あー、うめぇなあ
海鳴りの音を風がさらう
子どもたちはまだ眠っていて ....
ひつじがいっぴき
ひつじがにひき
ゆったんという名の
ひつじの湯たんぽを抱いて寝る
そのひつじを見失ってしまえば夢の国
いつしか踏み迷ってしまう
いつもの道がある
川原のようで ....
ただの水じゃないかって?
まったくちがうよ、
いや炭酸かどうかじゃなくて
このボトルの泡たちは宇宙の星なんだ
だからこの泡たちを飲み干して
....
満たされない心でわたしが死ぬ日
糸の切れたマリオネットみたいに
小さな舞台に沈むとき
スポットは落とされ
たった数行のエンドロール
短い悲哀の微かな拍手が
最後の疎らなひとつの合掌が
過 ....
迷刀スパイ
ぼくが国民学校に通っていたころ
鉛筆削りや竹細工には
折りたたみナイフ「肥後守」を使っていた
喧嘩のときも肥後守をちらつかせれば相手はひるんだ
その頃
日本では本 ....
怖い時代になった
その日起こったことを
テレビが正しく報じなくなった
日本で暮らしている外国人が
自分の国籍を言えなくなった
放射能のことを口にすると
頭がおかしいと言われるよ ....
おやすみとさようならが相槌を打つ
今日あったことは内緒にしよう
玉手箱にしまっておいて
一年後おはようとこんにちはに開けてもらおう
おはようとこんにちはがその計画を
未明のうちに知り ....
ぼうぼうたる虚無が
そこにある
私は必死にそいつをやっつけようとするのだけどどうも上手くいかなくて
薄墨の不安が
塗りたくられている
私はそいつもどうにかあっちへやろうとするのだ ....
闇を開こうとするイライラした若さをじっと見ている
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