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父のポケットに
ときどき手を入れてみたくなる
そんな子どもだった
なにもないのに
なにかを探してしまう
いくら背伸びしても届かない
指の先がやっと届きそうになって
そこには父はいなか ....
自転車を漕いでる
全速力で
ふみきりまで
息子を荷台にのせて
遠くから汽笛の音が聞こえる
蒸気機関車だ!
夢をみていた
眠りにつくまで
SLを夢みる
少年だったはずなのに
....
夏の迷い蚊 ふわり 舞い
ぎんなんと金木犀の香る道端に
彼岸花が揺れた
{引用=
豚の名前のついたこの坂は
赤い花のような豚の血で
いつも染まっていたそうだ
}
透き通っ ....
(一)
「ここも戦場になるのね」
キキはちょっと悲しそうに呟いて
刈り込まれた芝生の向う側に
迷彩服の男たちを認める
忙しく移動式対空レーダーを組み立てていた
目的のためなら一番大 ....
(わたしは秋
枯れゆく落ち葉のしたで
春の夢を待ち焦がれている)
北国の夏はぬるい
日焼けした肌
汗臭いTシャツ
サングラス
海と空がひと ....
パセリは知らない
そのおそろしさのあまり
セージは見た
あまり気にしない様子で
ローズマリーは赤ちゃん
双葉のように腕をふるわせて
タイム
過ぎ去る意味はなく
訪れる ....
その人が引っ越してきたのは3ヵ月前
いつもきちんとしたスーツを身に纏っている
隣の部屋に住んでいるせいか
毎朝のように顔を合わせる
その人があまりにも素敵だから
挨拶以上の言葉を交わせない
....
胸の想いは、
薔薇色の珊瑚だよ
だから貧乏だなんて
口が裂けても
絶対に、
言ってはいけないよ
こんなふうに、
今は。
志のある人なら誰でも
・・・・とても
苦しい、時代だ ....
うろこ雲の尻尾につかまって
東の空へ流れ去った君は
雨雲に紛れ込んで
細やかな涙を降らせた
柔らかな時の掌に撫でられて
色鮮やかに頬を染めた君は
頼りない指先に手折られて
夕餉の ....
妹が泣いていた
だいじなオルゴールの中に
嫌いな虫が隠れているという
ふたを開けると
ときどき
キロロンと虫が鳴く
きれいな音のでる
オルゴールの不思議なピンを
折ってしまった ....
この手の林檎が可愛いので
少し齧ってみる
この手の林檎が可愛いので
もう少し齧ってみる
この酸味はもう秋なのね
喉元に風が吹き過ぎて
秋はどこからやって来るの
秋は私の心から
....
シーツは空気を切る音を響かせながら秋空にひろがった。
わたしはそれを物干し竿にかけ、
丁寧に皺を伸ばした。
子ども達は一面に広がる秋桜畑で笑い声を上げている。
家の中からはラジオの音が漏れ ....
月を見てはいけないよ
満月は特にいけない
これからは欠ける一方だからね
引いたり満ちたり
妙な引力を感じるだろ
ああいうものに惑わされちゃいけないんだ
走っていると月が追いかけ ....
落ちてゆく
夕陽の触り方を
知らない子どもが多い
つるりと
何のためらいもなく
なで回すと
とたんに飽きてしまう
そうして
バイバイと手をふって
見送ってしまうのだ
そんな
少し ....
(一)
明治通りと靖国通りの交差する
新宿五丁目交差点から
ABCマートの軒先に並ぶスニーカーでも品定め
数メートル歩いたところに
スターバックス新宿三丁目店はあって
いつものように通 ....
ながい腕を
まっすぐに伸ばして
陽ざしをさえぎり
さらにずんずん伸ばして
父は雲のはしっこをつまんでみせた
お父さん
いちどきりでした
あなたの背中で
パンの匂いがする軟らかい ....
太陽だけを愛していたい
眩い その輝きを
自らの鼓動に閉じ込めて
紫陽花のように
陽射しを抱きしめて
明日を信じていられるように
月の輝きに頬ずりしたいのは
さびしくなったから
す ....
私のはピンクだったらしい
私が生まれたとき口に含んでいた石は
ピンクだったらしい
私の石を見て
大人たちは笑ったのだそうだ
女の子が
女の子らしく
ピンク色の石をくわえてきたというの ....
ギリギリでバスに乗りこむと
最後部の片すみに
ちょこん とすわっていた
同じ塾の子たちと離れ
まわりを遮断するように
本を開いている
「よかった 帰りが一緒で」
となりにすわると ....
空の高さを
少しだけはかってみた
両手を天までさしのべて
届きそうで届かない
あとどれくらい空に届けば
自由な鳥になれるだろう
このあかね色の空の下で
ひとりひとりの
誰かに似ている石の仏たち
きのうまで近くにいた
でも今日はいない
だれも知らない
過ぎ去った日の遥けさを
石の視界は
どこまで届いていくのだろう
十六人の不動の ....
ゆらいでいる
風もないのに
傾きかたが分からなくて
ゆらいでしまう
その人の傾きかたは
とても美しいから
なんとかその人と正対しようとして
ゆらいでしまう
もともと僕には
....
(一)
「ぴーちゃん、ぴーちゃん
トイレってどこなのぉ」
河原の石をひっくり返しては
何やら探していた
まーちゃんが突然立ち上がったと思ったら
おいらの元へ駆け寄ってきた
こ ....
思い描いた
この空のむこう
今日から明日に
風を受け
行き着く先は
どこなんだろう
近づく距離だけ
未来が変わり
重なり合っては
波打つ心たち
何度も打ち寄せては
僕を連れ去って ....
海のきぬ擦れが耳を攫う
だれかに名前を呼ばれた気がしたから
水の色が碧から黒に変わるころに
海豚のやさしい瞳を胸に抱えて
こっそりと{ルビ宙=そら}に顔を出してみた
鳥の嘴が白の甲羅を遠 ....
左手の
見えなくなり始めた傷
手首の辺り
親指の辺り
よく探さないと見つけられないほどの傷
もちろん痛みはない
この手を噛んだ犬は
今頃どうしているだろうか
人間に飼わ ....
灰皿の中には
口紅のついた吸殻が三本と
長いままへし折られた
断末魔が一本転がっている
口をつけなかった
ウィスキーグラスの氷は溶けて
意気地がない表面張力が
テーブルを濡らして ....
ふたりで
ずいぶん夏を歩いてきたね
波打ち際を振り返ってみると
たくさんの足跡が打ち上げられていて
見えないところまで続いている
きっと想い出になる時がきたら
一斉に海に帰ってゆくんだ ....
きょう
ウルトラマンに会ってきたので
ぼくは なにも考えられない
たあくんと 暗がりで手をつないで
ウルトラの星を 映画のスクリーンを
ふたり 見上げてきた
あきらめなければ夢 ....
憎しみはとうに消えた…
生まれたときからずっと一緒だった
風は今も冷気をたたえ、凍えそうにして
私は待つ あなたを待っている
かつて野を覆った炎の残骸
黒く、さらに黒く焼け焦げた ....
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