虫と花を行き来する羽
雪に重なることなく降りつづき
ひとりの食卓に積もりゆく
線の笑みに埋もれる部屋
まばたきのはざまの火と光
冬からあふれる冬の息
五人の ....
それは鉛の重力で
垂直に私を引っ張るので
テグスに結び付けられた浮きのように
私は
水面に立っている
もうふわふわも
ぐらぐらもしない
磁針のように空を指し
己を標として生きるのだ ....
薄い雲が空を覆う秋。
少女のそれが頭を覆う秋。
イヤホンの内側から耳を攻めてくる。
猫よりも愛らしい声が聞こえたからつい詰め寄る。
風に背中を押され勇気をもらい対価を渡す。
山は染ま ....
おはよう、と世界に挨拶をする
夜を朝が塗り替えている隙に
おはよう、と
返事が無いのは忙しいから
コンクリートを蹴り出す
未明の刹那
口角を歪ませる
少年は裸足のまま
ぶち撒けた
そ ....
夜の公園を歩く二人は
茂みのむこうに一匹の
アリクイがうろついているのを見つけた
なぜ、こんなところに
動物園から抜け出したのか
それともどこかで飼っていたのか
あるいは皆が知らないだけで ....
さよならもうここに残されたいかなるものも認識しない
目に見えるのは常に更地だった
至る所に巡らされた有刺鉄線を触るので
手のひらはいつも傷ついていた
傷が膿むなどという事は
考えつきもし ....
蝿よ
そんなに酒が飲みたかったのか
その小さな体で
グラスの焼酎を
飲めるとでも思ったのか
かつて君が人間だった頃のように
蝿よ
君はもう人間ではなかった
そんなこ ....
乾麺でも手打ち麺でも
いわゆる「パスタ」の
ソースで美味しいのは
トマトソースだよねえ
出汁はチキンと野菜さ
香りが強い野菜が良い
沸騰した湯に鶏ガラを
予めよく洗い少し炙る
ふつふつ ....
蒼い空が 遠くて
余計に悲しいのは
僕が
1羽のウサギだから
カメに負けたあと
どうなったのか誰も
知ろうとはしない
色褪せたウサギ
透明な過去の中に
遺失されたまま
埋ず ....
貝
僕は貝になって 深い深い海の底へ沈んでいった
クラゲの群れをよけて 大きなクジラに驚いて
どれくらい時間が経っただろう 一瞬にも永遠にも感じる
ごつんと音がして どうやら一番底まで辿り ....
軽トラックの荷台に仰向けになって
青空を見るのが好きだった
実家から水田転化した林檎畑までは少し遠く
父の運転する軽トラックの荷台に乗り込み
寝転がって空を仰ぎながら道々を行った
時折助手席 ....
午前2時15分の約束
ふたりあわせて
むかって 踏切
合言葉は
透明な電車にかき消されました
音のしない午前2時40分
住宅街 青い月 砂浜
波の音だけ 鼓膜を撫でる ....
透明な医者が
透明な患者を手術
透明なメスといのり
透明なオスとさかり
透明な血が飛んで
透明な患部が放り出される
そして訪れる
透明な治癒
空は青く
なにごともなかったかのように
....
「きのう
お会いしましたね」
と
見知らぬかげが
暗がりを指さす
「覚えていられないので
さきにいいました」
暮れ方の街
屋根は正しく空を切り取り
はがれた青は道 ....
ドラマチックに声をあげながら 静止していくのは
流れるはずの血液 聞こえるはずの心音
足早にそこから立ち去っていきたいのに
抱えた季節を手放せないから 動けない
与えられた名前 ....
荒んだ気分に吹かれているのも
快速電車の乗り心地です
時に青白い猫が追い越して行くのも新鮮
手放しで夜道を直進するも悪くない
見通しは甘くありません
集会に行くのだとばかり思っていたら
対 ....
苦行に明け暮れサラリーマンは電車の棚で蛹になった
無関心という制服に包まれたシュークリーム並の少年たちが
耳におしゃぶりを挿したまま喃語と一緒に痰を吐きまくるから
ユニクロを着た老人たちの血圧は ....
冷たい風の音だけが聞こえる
悲しい夜の寒さだけを感じる
月に向かって飛ぶ機体は
陸に全てを置き去りにした
街の遠い灯りが見える
知らない街の時計塔を見る
左に沈んで曲線を遺し
....
そっと今も
地球に隠されている
新しい一日には
夜明けの太陽から
陽射しが煌めいて
鳥たちが
鳴き始める約束の朝
窓を開ける
君の微笑みに
旧来の知人から
感謝の手紙が届い ....
これは
どこへゆく電車?
東京に行きますか?
故郷に行きますか?
被災地に行きますか?
きみんちに行きますか?
外国に行きますか?
天国に行きますか?
地獄に行きますか?
遅刻しませ ....
ほんの
小指のつめほどの
ささやかな背に
滑らかに乗る
勤労の
まる
悠長に
せわしげに
その身に負わされた太陽の名を
あちらこちらへ
振りまいて
唐突に
発つ
....
ゆうがたの上弦の月を
散歩途中にみつめた
右半分の白さに
みちていく真っ直ぐな時をおもうと
裏切られても裏切られても
信じるということを
おしえてもらっている気がする
有り難いことにかわ ....
鳥のそばに鳥が降りて
花
と つぶやく
すると色は
色をやめるのだ
指さえ かなぐり捨ててまで
目は とうの昔に
泡のものだから
灰を踏みしめ 灰を廻る ....
いちじくがなりすぎて
おしうりされて
いやになる きみの
ことがだいきらいなわけではないけど
だいすきなわけでもない
いっそきらわれたほうがましとでもいうように
そのみはすこしわれていて
....
ジリジリと晴れた日
セミの声に満たされ
ぷかぷかと白い雲が
浮かんでいた日
隕石が突然空から降ってきた
閃光を放ちながら
猛スピードで
空から降ってきた隕石は
地面に落ちるやいなや ....
青白く痩せた肉体が
強い熱で焼きつけられたような木立の影
生命の湿気を含んだ呼気は
生まれたそばから掻き消えてゆく
君の祈りを
君の祈りを
君の祈り ....
そこには雲ひとつなく
静かな青空があった
白い太陽の線が
存在を地上に焼き付けた
影
僕の形をした暗黒
何も語らず
何も見ず
僕と同じ動きしかしないが
深い深い底無しの
....
さざめく森
煌めく湖
澄み渡った空
白馬が鬣を靡かせて
草原を行く
紫色の羽虫が
周囲を飛び回る
白馬の肉が
一瞬一瞬の間に
削ぎ落とされ
気付けば白骨に
後には血も残らず
....
“おかたい本は本店へお願いします”
学生アルバイトらしき若い男が
わざわざ立ち上がりそう言って
ナイロンの大型ボストンバックへ
ゆうに二十近くはあっただろう
書籍を詰め込みなおしてく ....
同じ服装をしたサラリーマンたちの服の内側には
めいめい異なった種類の絵画が掲げられている
自分の絵を見せたくて見せたくて
それでも同時に会社の利益のために欲望を抑えるから
せめて外 ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45