落し物
藤原絵理子


バス停から歩き出した 暗くなった歩道に
街頭に照らされて 燦然と 
一本だけ落ちている 大根の葉っぱ
ベビーカーを押す母親が スーパーの袋から落とした


午後7時 今ごろぶり大根になっている
その大根の葉っぱ ひとりでアスファルトに
それが一本の指だったら…
居るべきところに居られなくなる かなしみ


一度損なわれたものは 二度と昔に戻ることはない
年老いた自分を見るのが怖くて
若い女の血を啜った 貴婦人のように


郊外住宅に住むサラリーマンの革靴が 踏み潰す
体液が歩道に滲んだ 大根の葉っぱ
ちりめんじゃこと 煎り付けになってたかもしれない


自由詩 落し物 Copyright 藤原絵理子 2015-10-14 22:17:54
notebook Home 戻る