ユートピア
竹森

そらと呟けば見上げる空が見上げる 空に泳ぐ魚の話を
まるで前世の記憶を辿るようにたどたどしく話してくれたね
チェックの花柄のツーピースを心に描こうとした瞬間
チェックの花柄のワンピースを攫うように羽織ったナナは
乳酸菌の海で溺れていた
それはまるで人から人へ語られるほど美しくなっていく
伝説の人魚の髪のなびきかた

話せば話し伝うほど抽象性を増していくそれを 美しさと定義しよう
蝋燭の灯を吹き消した吐息で叩いたルーブルの扉
ナナがくたびれた紙幣と交換した折り目ひとつないチケット
それは手に入れる為でなく眺める為に必要なチケット
盗聴器の仕込まれたスマートフォンにそっと耳を近づける
人間以外の動物がフェラチオをしたり
乳房を揉んだりする光景を見たことがない彼女は 
それを不思議に思わない
ように努める


(僕は生殖器しか持たない生き物を見てみたい
(きっと誰よりも正しい性行為をするのだろうから


「つく必要のない嘘をつかないために
「とぼけてしまうのは悪い癖だ


(手放さなければ使えやしない
(いつだって使った事のない紙幣のそれぞれを
(使い慣れた紙幣と表現するように


「僕らが出会って疎遠になっていく理由は
「いつかすっと飲み干せるようになる


道草
三日三晩かけて
彼女が選んだ本のタイトルは「ユートピア」
週休六日の太陽
花咲く裸体
一身に
乳酸菌を浴びていた


道草
ユートピア
今日は水曜日だった
明日は木曜日だったね
たしかその本の表紙に描かれていたのは時計で
その針が何時を指し示していたのか
今になってから気になり始めた


道草
ユートピア
やけにうるさい空調
見たことのあるワインのラベル
美しい人に美しいと言えなかった
好きです
としか


道草
ユートピア
―覚えている?
幸福はいつも
それ以上の幸福を手放して手に入れたこと
不幸はいつも
それ以上の不幸を手放して手に入れたこと



Lの剥がれたキーボー ◇ 君はスカートを節制を以て靡かせるので
ドのような 少女の左 ◇ 僕は発情しようにもしきれなかったね
目だけを腫らせるテク ◇ 歌う時にいつだって頬を赤らめていたのは
スト 一人と一個で見 ◇ 旋律に魅せられていたからだったね
上げた星空 言葉に力 ◇ 道草
を失ってしまえば叫ぶ ◇ ユートピア
のみの生物に かける ◇ 花束を贈るから住所を教えてよ
言葉がないから聴かせ ◇ 花畑に迎えるから住所を教えるよ
た楽曲 シルエットで ◇ 子供が産まれたらどんな名前を付けたい
あるなら輪郭を茶化す ◇ 子供を作らない君にこそ訊いてみたいんだ
ように真似ている正午 ◇ 道草
の影 私たちの両の踵 ◇ ユートピア
           ◇ ねえ/
           ◇
           ◇ 君は頭蓋骨の温度を
           ◇
           ◇ どのようにイメージする?
           ◇
           ◇
           ◇
           ◇
           ◇
           ◇((君に宛てた筈の文章がことごとく自分に宛てられているものでしかないと思い知る夜だ。君に返事を書こうと思い、何か書いては消す、を繰り返す。言葉を交わすという事が、思想の交換なのか、熱量の交換なのかが分からなくなる。電灯ひとつで熱中症にでもなってしまいそうになる夜だ。))

朝食はここでたべよう ◇
            ◇
             ◇ ここ、という言葉はとても便利ね。
              ◇
               ◇
あれ、という言葉を発したのは? ◇ ―いつだって、ここ、だった。
               ◇
              ◇
             ◇
            ◇

         ◇
銀色の八月の山中 ◇               ◇
               ◇ チェック柄の戦争が、一着。
               ◇

         ◇ 年号はきっと平成
 ◇



      「 棺桶いっぱいの水を攫いにいこう 」





12月でも、10月でも構わない。「―――ほら、こうやって」夕暮れ時。一斉にカラスが飛び立って、電波塔のざらついた鉄筋の地肌が明らかになり、これまで君に宛てられていなかった文章までもが一斉に君に宛てられるという瞬間があって。僕らは、それを恋と呼んで片づけられたいつかの単純さで、勇敢さで、愚かさで。何度でも。覚えては。思い出しては―――



Title: 金星の子供が、とうの昔に、読み終えているはずの言葉で。
Title: Re:金星の子供が、とうの昔に、読み終えているはずの言葉で。
Title: Re:Re:金星の子供が、とうの昔に、読み終えているはずの言葉で。
Title: Re:Re:Re:金星の子供が、とうの昔に、読み終えているはずの言葉で。
Title: Fw:Re:Re:Re:金星の子供が、とうの昔に、読み終えているはずの言葉で。
Title: Re:Fw:Re:Re:Re:金星の子供が、とうの昔に、読み終えているはずの言葉で。



―――君。君が詩を書かなくなってもうどれくらい経つ。詩を書くのをやめたという意味ではなく、前の詩を書いてからどれだけ経ったのかを訊いているんだ。君がひとつの詩を書いてそれからまた詩を書くまでのスパンは日に日に広がっている。詩はもう書くというより、君にとって日々の生活で蓄積された埃を箒で掃く掃除のようなものといった方が適切なのかもしれない。君。君はあの頃のように詩を書かなくなってからもうどれくらい経つ。あの頃の詩作の動機や方法や想いや犠牲が未だ君の中で詩作の定義となっているのなら、君は今の詩作を何と定義し、何と呼んでいるんだ。新しい言葉を求めて痩せ細っていく君を見て、同じように痩せ細っていった私。互いに慰めの言葉を投げ合いながら、その実心の中では蔑み合っていたこと。

久しぶりに君のブログを覗いたよ。君は君に訪れた新しい生活を書き留めていたね。私はこれから君に思いつく限りの素敵な言葉を贈りながら、それでも君を憎むことがないのだなんて―――。


自由詩 ユートピア Copyright 竹森 2015-07-25 16:15:11
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