そうや、おらんかったね
自分以外の人がいる居間は暖かかった
冷えたこたつの中で丸く、眠るその影に小さく蹴りを入れても
明日もそうだろうね、言い訳することもないよ
灯油を乗せた車の音楽が ....
照るもる
本懐セルカ試合
もうてんの
ぱっついちのちの
本懐セルカ試合
らーめん
チャーハン
餃子の安穏
経て経て
のいちのやりとり
それがにちにち
じゅうねん
にじゅうねん
....
懐で古銭をじゃりじゃりさせながら
暗い大通りを歩いていく
多くの脇道が横に伸びていて
かつてここを一緒に歩いた人が
上から見ると「馬」の字になっている
と教えてくれた町
何百年も前に大火の ....
月見草
銀に揺れている
透明な水流になびき
引き寄せられ
傷んだ身体
俺は引きずっていく
引きずられていく
寒風吹き荒ぶなか
青、蒼、碧
陽光余りに眩しいこの真昼
俺の ....
外に臼がほしてありました
もうすぐもちつきだからです
家族はそれぞれに白い息をはいて
うったり
うたれたり
白くて柔らかいもちを
家族の手でまるめて
少しいびつなそれは
部屋に飾ら ....
彼が世界を美しいと思えるようになるのに二十年かかった。
冬の風呂の暖かさを知るのに、夏の風の心地よさを知るのに、
青空の透明さを知るのに、草原の輝きを知るのに、二十年かかった。
此処には見えない風が吹いている
どうしてなのかぼくには解らない
失った物も失われた物も解らない
石が転がり
葉は失われた
ぼくにはそれしか解らない
落ち葉がトランプのように散らばり ....
見た目に少なくとも毒はないらしい
わたしの顔立ちを思ってのこと
とにかくおまえは黙っていろとのアドバイスは
おとこ友達からしばしばもらっていた
ちゃんと頷く、そしてみんなで遊びに行った
飲み ....
天花粉の丸い小箱にはいっていたのは
祖母や母が立ち切狭で廃品回収に出す前に
切り取った釦
鼈甲仕立ての高価なものもあれば
校章入りの錆びた金釦や
普段使いのプラスチック釦
そし ....
小指の先から優しくなっていくのかも
浩然とした冬に
無邪気に傷つけられても
まあいいか。と笑っている
髪の毛のすみずみまで
風にさらわれる少々にまで愛おしげに
流れていく
....
分厚い雲のはるか向こう
白く明かりを投げてくるのは
まるい太陽
アスファルトに吸い込まれながら
乱れ舞う淡雪
踏みつけようとすると消え
歩こうとすると
視界にまとわりつ ....
先日、職業というものを
脱いだ僕は
これから日々遍在する
小さな太陽になろう
――〈今・ここ〉に日溜り、在り。
本当は誰もが
小さな太陽を宿すという
昔々のヒトの記憶を
互いの ....
僕は親父が大の苦手だった
悪い人ではなかったが
説明しない人だった
子どもの頃よく怒鳴られたが
怒鳴られたわけがわからなかったので
いつも不安を抱えていた
親父が仕事で帰ってくると
同じ ....
ありきたりな建物の影から
熱がすっかり移動して
遠くの景色が少しずつ
確かな輪郭を持ち始めた頃
黒く細長い支柱が切り取った背景は
穏やかに収縮していた
後から来るものは皆
他愛のない ....
なめらかなあなたの肩はバニラ味
すんとした風来坊になりたいな
音しない地球の自転速すぎて
秋のきみ産地直送されてきた
無理を言う机の角を15度に ....
あなたがさやかな{ルビ詩=うた}をというなら
二歳の心にリボンを掛けて
あなたがかなしみをと望むのなら
わたしは{ルビ現在=いま}を隠さない
あなたが絶望のかたちをと、
それならわた ....
眼は
閉じるためにある
闇と親しくなるように
暗黒に潜む
閃光
耳は
塞ぐためにある
沈黙に浸されるように
静寂に沈む
音声
腕は
抱えな ....
光を打つものの影が
空に映り揺らめいている
二本の穂の墓
影が影に寄り添ううた
切り落とされても切り落とされても
見えない部位は羽ばたきつづけ
音の無い風が生ま ....
いつのまにか
ぼやけてしまった
染みが
もう存在が消えようとする、その瞬間に
ようやくこころの片隅に
いろを
発生させて
うまれるよ
うまれるよ、と
存在を主張し始める
....
白い障子紙とおしてひかりチラチラ散らばって
立てなくなったばあちゃんをやさしく照らしてる
「食べとうない もう入らへんのや」
「そんなこといわんではよ食べて
愚痴いったらあかんよ
おかあ ....
囲炉裏ばた。なまはげがつくってくれたチャンプルゥがすさま
じくマズく、涙目でごちそうさまをいうと、「ドウダッタ」な
んて、あんのじょうの禁断の問いだ。このばあい、ぼくが悪い
子にならないためには ....
唯物論的なエスカレーターを上る
さっきの人身事故も
きっとこのエスカレーターを上った誰かから始まったに違いない
最後の一歩を登り終えてホームに向かう
ビル群が私を見下ろして空は狭かった
列車 ....
薄い薄い薄い薄い
透明な、点滴のパックを
銀色に遡っていくもの、の
私は(あなた
手放して、
空気の中へ、
あなたは視界の果てで
輝きを受ける、
あなたはあなたの星空の中
一 ....
まゆとまゆを繋いだたおやかな峰に
みえるいくつかの不均衡な螺旋機構
きみとあなたの感情とことばの辺縁に
ひそむ約束の不特定で不埒な内省模様は
燃えつきそうなとおい炎のような
自前の足 ....
草葉に風の足音
夏の光の深い底で焼かれる虫たち
夜に置き忘れられた
艶やかな目に乾いた夢が映り込む
生と死の歯車が柔らかく噛み合って
素早く回転する
濃厚で豊満な匂 ....
わたし、
根なし草に
転がる石
つよいつよい風に
笑ってひらめく柳の枝葉
だれか、
土に据わり花を咲かせ
苔むしてふかみどり
ずっしり受けとめ
ある日倒れゆく樫の木
わたし ....
指先で、
するすると水面を辿っていく。
水面は指先の森だ。
いくつもの指が、
滑った痕がある。
指紋が重なって枝になる。
いくつもの記憶の羅列が連なり、
あたらしいいのちをつくる。
....
風の強い春の日の中を走る
この二両編成のさびしい列車は
さながら私の部屋のような
根付いた親しみで満ちている
シートに座れば座布団のようで
人が乗れば来客が来たかのよう
そう思える寛いだ春 ....
新しい街には風が吹いていた
壊れた楽器の音のように
太った空間の波がはためいていた
誰かが瞬きをするその眼の湿り気
この風の湿り気はそれと何ら異ならない
異郷と故郷の間に区別はあるか
異郷 ....
曇の上の雨
陽が照らす鏡の背
朝の径に降るかけら
午後の径をすぎるひとひら
空の海が
黝く干いてゆく
まばたきのなかの無数の月
夜が 流れ込んでくる
....
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