取り返した靴
Neutral

そんなことより聞いてくれ
母と大声で喧嘩して
家を出て行く夢を見た
母は僕の靴を隠し
どこにも行けなくしようとしてた
母は途中で謝って
仲直りしようとしてくれたけど
僕はそれを振り切って
取り返した靴で宛もなく家を出る
いろんな所をぶらぶら歩き
僕は次の瞬間どこかの宿屋にいた
学生寮のような個室制の
ちょっと変わった宿屋だ
なぜか僕と同じ位の年頃の人達が
広間に一堂に集まっている
宿の支配人のおばちゃんは
今は亡き息子と一緒になって
作り上げた宿です、という
僕はなんとなく宿を後にした
次に辿り着いたのは母校
入って真っ先に行ってみたのは
熱心になってた懐かしき部室
まじまじと思い出される日々
パソコンの中には一年でいなくなった先生の
子供のことが書かれたホームページを
見ることができた
だがやがて憎いあいつが現れて
僕は逃げるようにそこを後にした
さらに彷徨い歩いて僕は
見たこともない田舎道に辿り着く
気づくとすっかり周りは暗く
僕は近くの民家を訪ね
近くにバスかタクシーは
ありますかと尋ねる
そんなものないよ
ずっと昔に村の衆が
面倒くさがってやめちまったよ、と
初老の夫婦は言った
車で家まで送ってくださいますかと
恥を承知で頼んだが
どう走ればいいか分からないと言う彼ら
家に泊めるのも難しいと言われた僕は
野宿出来る所ならあるよと案内されて歩いていく
木の枝や蔦の絡み合う廃屋
住居として使われていた頃は
おしゃれな屋敷だったのだろうが
僕は苦笑いで断った
やがて夫婦が案内したのは何もない更地
これにロープや立て札があれば
駐車場のようにも見えただろう
こんな所で一晩過ごせというのかと
僕は猜疑と不安と恐怖を覚える
歩き出してみると
木陰の下で雨粒のように身体に当たるものがある
それは見たこともない虫の群れだった
ブウウン ガサガサ 気味が悪い
虫嫌いの僕は立ち竦み
向こうで夫婦が呼ぶ声との間で葛藤する
不意に思い出したのは母の顔
家で母さんが待っている
その事を思うと
強がりな僕は理屈の収束などつけられず
大きな声で叫んでいた
あの人には僕がいなきゃダメなんだよ
その瞬間
虫の群れはパッと消え去り
暗かったはずの空が
みるみるうちに昼間の明るさを取り戻した
スマホを持っている事を思い出した僕は
自宅の住所を検索し
目的地までのルートを表示する
僕は名も知らぬ村に背を向け
歩き出す所で目を覚ます
ベッドから上がり部屋を出て食卓へ向かうと
母が居て僕が居た
そうだ僕は夢の中でずっとこれを探していたんだ
僕は おはよう と 行ってきます を言うと
暖かい笑顔に送られて駅を目指す
僕の選んだこの道はきっと
あの夢の続きへと繋がっている


自由詩 取り返した靴 Copyright Neutral 2015-09-26 21:21:23
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