スイッチ
ただのみきや

スイッチだ日常の点けて弄ぶ消しても眠らない
壁を這いまわる夜にふやけた未発声の《》は過呼吸のまま乳房を求め
夏の光に目隠しされた幼い逢引と声の影法師
皮膚下の水脈を辿る山椒魚のふるえ蔓草が覆う戦闘機の残骸
うっかり踏んだ骨の感触を口に孕んで――
義足に過ぎない文字の「カシャリ」とか 「グシャリ」とか
頭の裏側に刺さる白い欠片を舌は蛇のように結びまた解いた
釣り針の口角手紙のように微笑みは重なり合いやがて四季となる

浮島では犯される理想が五感で秒読みした土砂降りの
肉片と黒煙の匂いが組み込まれることを拒み続ける
鈍く反射する記憶のそう深くない場所の銀色を
漂う海月は色もなく見つめ果てて名付けることもままならない
無口な機雷の包囲に理性はベルを押し続けた鳴らないベルを
あれは苦い媚薬だ痴れた唇から次々と首を吊る歌声が絶えず
あらわなしろいあしつまさきだけがあかくともる灯

八つ裂きだ半島は瞳の区切る犬の直線が喰らう幻の
祖国は旗よ何時も蛆の尽きない変わらぬ尊厳だ舐めつくす炎に敬礼せよ
食卓に背が届かない両腕の無い子供たちを燃やした正義よ戦いよ
人間の誇りよ尊厳よ手向けられる幾千幾万のスイートなツイートよ
瞳の澄んだ青い死へ物言わぬ影の行進あれはいつのことか
少女たちがダイブする笑わない旗が翻る弾ける身体神の似姿の脆さ
ああ言葉の楼閣が消えて往く 脚を引きずる亡霊たちおまえたちは誰だ
古いレコードの針が跳ねて愛と平和の歌詞が繰り返される
人道的実験が始まる
突き付けられた暁の火の手に狂う兵士の胸を裂いて
殺した相手の魂を移植する
千切れ 飛んだ 記憶 這い まわり 
文字を纏えぬ モノ たち 

情報の瓦礫を照らす月光のイミテーションあおく
放射冷却された黒焦げの欲望がハミングしている
一匹の蜘蛛が下りて 祈りの手に包まれ 受胎する 
幻の街のどこかで水盤に顔を付けたまま反り返った男の影が
静かに時を刻んでいる

無暗に代弁するな
虹色の舌を埋葬せよ
死姦に過ぎないそれは――

石膏像の手にひびが入る 劣情のイロハが湿った息を漏らす
スイッチは壊れていた初めから秘められた偽真珠がとろけて
啜られるために綴り織られた八重一重の倒錯の甘み
のびやかな思考を腐らせる毒薬 夢の乳歯が散乱する庭
振り上げた拳は萎えて背骨は曲がり降り積む抒情に埋もれて往く
歴史の誤用の鍋を囲み音節にバラした死肉や苦い肝を入れて
宴会の末席に加わるか
案山子と空砲でカモメを笑わせるのか
空箱の中の宇宙と炎の包み紙をおまえは信じるのか 
寝ても覚めても腕や脚を括られながら詩人だと嘯いてみる
泣いていた理性の蛇足が占うように唾を吐く逃れられない
虚構の座標で花のようにそよぐ風も無くスイッチが入る
スイッチだ日常の点けて弄ぶ消しても眠らない



                 《スイッチ:2015年12月12日》







自由詩 スイッチ Copyright ただのみきや 2015-12-16 21:13:33
notebook Home 戻る