死にゆく蝉の声で起こされて
夏と寝ていたと気づかされる
まどろむ意識の中で
シーツに潜む
残り香を探す
枕の隅に
鼻を押し当てる姿は誰にも
見つかることはなく
....
わたしのこと
愛してなんかないんでしょう?
帰途につく助手席に
憎しみは騒ぎたつ
さざなみのように
答えのないまま
FMはゆく
たとえばくちびるで
確かめあえたら
あなた ....
目を閉じてひゃく数えるあいだの
静けさがこわかった
(いーち にーい さーん)
ぼくはずるだと言われるのがいやだったから
はんぶん泣きそうになりながらゆっくりと
(しーい ごーお ....
いつもどうりのことが
ふわりとしてるので
ところどころ鋏で切って
整えてみるけれど
散らかるばかりで
ああ もうめんどうだ
自分自身もパシャパシャ切っちゃう
誕生日でも何でもないところで ....
夕立の後にひょっこり現れたお日様が
でこぼこの稜線のきわで立ち去り難く
早くおうちにかえらなくちゃ
暗闇が世界を飲み込む前に
いいえ、大丈夫と
夜の女王がマントを翻す
....
わたし、という曲線を
無謀な指が
掌が
少しの優しさも無くなぞる
書院窓の向うでは
秋の長夜の鈴虫が
交尾の羽音で月の影絵を滲ませて
こっちにきて
こっちにきて、と ....
室外機 夏のプロペラ ぶんまわし 飛ぶんだいつか ビルのボルト引き抜いて
ぽくぽくと砂埃の道を
踵の低い靴で歩く
道端にときおり現れる
柿の木の下で
風に吹かれて和みながら
寂れた雑貨店は
小さなオアシスのように見えた
冷蔵ケースのコーラの瓶の
くび ....
クリープ現象で
夜をすべる
アクセルを踏みそこなった右足で
有明ランプをまたぐと
すこし遅れて
あした が きょう になる
うしろへと流れる景色を手がかりに
恋人だったはずの
....
緑の木々がゆらめいたり
遠くのコオロギが聞こえるということ
低い雲が重々しく北へ向かったり
小窓でレースのカーテンがはためくということ
白い水鳥のひと群れが南へ進路を取り
黄色い砂粒 ....
雨の夜は大介を思い出す
悲しくて悔しくて
泣いてしまった夜は
ずっと側にいてくれた
大介はわたしを
甘やかさず
突き放しもしないで
絶妙なバランスで
一緒の布団に寝てくれた
そして
....
鳥が飛んでいる/秋の日に
鳥は何故に空を飛ぶのだろう/
わたしは呪縛のように生まれ/
そして大地から/
脱することができない/
飛行するものは全てきっと/
優しい何かで作られているに違 ....
ごらん、
イルカが橋を飛び越えて行くよ。
一夜の戯れ 夢や現つや
うす桃色の 紅のゆくへや
君の御手の うなじに触れなば
わびし心に 月の灯らむ
荒れ野の果ての 草木を分けて
あえかなる身に ....
寂しがりやの人格は
寂しさを乗り越えるためのもの
生まれてきた日
愛に溢れていたことを
ただ思い出すだけ
臆病な人格は
おそれに立ち向かうためのもの
小さな手足をして ....
窓の
繊細な網目を透過し
すらすらと寝室の私の乳房へ浸透するのは
透明すぎるから、透明すぎるからです
空気中の夜
に含まれる鈴の
リ…
その中には、鈴、それは
リリ…
....
やはらかな ひかりの かけら
あつめて はなつ かほり
かぜの おびを ほどき
めざめよ
とほき ゆめの かなたより
はなは あさに ひらき
とりは ひ ....
雨の夜
宙に惑うのは
報われなかった
言の葉の亡霊たち
人を傷つける為に生まれました
見下す為に生まれました
罵倒する為に
揶揄する為に
己に言い訳する為に生まれました ....
せっかく外に出たのだから
妻と娘に土産を買って帰りたかった
二人が泣いて喜ぶようなものではなく
小さな包みのもので構わない
ほんの少し甘いお菓子で
お土産買ってきたよ
あら、ありがとう ....
夏の夜に生まれた私は
こんな嵐の中で脱皮する
いつか描いた理想を胸に
古くなった皮を脱ぎ捨てる
嵐の後に残されたもの
私はこの秋というひと時に
精一杯の愛情をかき集め
....
ぱさぱさと干からびて
色褪せてしまった
大学ノートを
赤い爪先で繰りながら
ため息ひとつ
セピア色と呼べば
聞こえはいいのだけど
少女じみた丸文字の
拙い言葉の羅列が苦 ....
聞こえるはずもない
花のつぼみがひらく音
それが優しい歌に聞こえて
蝶がちゅるりと
その花の蜜を吸うとき
それが優しい歌に聞こえるから
ぷーんと飛んできた蜂が
そ ....
鳥がついばむ彼方の星を
ここはどこかとうめく空
雨がしとしと名を呼びます
風にちらちら花燃やす
迷いこんだは露の中
返事をするのは うそぶく化身
いいねぇ
ねえ
舞って散るのは ....
陽は斜めに、
影は長く伸びる。
あの足跡まで、
もう少し。
ようやく影が、
足跡を捕まえた時。
旅人は、
部屋を出た後だった。
カーテン。
ふ ....
風が雨を含んで
空色は薄墨模様
少し、
あと少しと待っていたら
わたし
咲きそびれたらしい
今から夏を追いかけて
間に合わぬなら
誰に囁くこともなく
この秋雨に
紅を濃くして
きっぱりと ....
おしまいのひ
がやってきた
おきにいりのふくをきて
しっかりごはんをたべて
にゅうねんにはをみがいて
あたらしいくつをはいて
いってきます
そとへでた
きもちのいいかぜが
ふくた ....
しずまりかえった夜
の浸透圧で
ゆるやかににじむ
染まりゆく夜
染まりきるころには
わたしたち 空っぽ
恋は死ぬ
愛は死ぬだろうか
輪郭は想う
幻色で、つめたく卵
うすく微 ....
{引用=
ゆつくりと 首を すげかへて
さみしさ を
あなたと わたくしの合間に横たはる、あの さみしさ を
その一端でも 共感しやう
静かなあなた の 夢見言が
わ ....
その愛しい指が
わたしの名を綴ったからといって
距離は変わらずなのだけど
無機質なディスプレイに
時折運ばれる便りの
密やかなときめき
それは
一群れのシロツ ....
落書きは消さない
向かい風にむかって
ときおり模様を懐かしむ
みあげた空がいとおしいなら
転べ、青い獅子
記憶にとどめたい
最後の絵を抱えて
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