気がつくとその{ルビ女=ひと}は
明け方の無人列車に乗り
車窓に広がる桃色の朝焼けを
眠りゆく瞳で見ていた
列車がトンネルに入ると
全ての車窓は真黒の墨に塗られ
闇の空間を ....
象の飼育係をやめて
バスの運転手になった
象の目は悲しげだ
と言うけれど
乗り降りする人たちも
体のどこか一部が悲しげだった
遠くに行きたかったのだろうか
数頭の象が停留所にいた
....
ひとり きりの キッチン
包丁の 手を止めて
ふと
顔を あげた 窓の外
枯れ葉が 一枚
はら はら と 落ちてゆく
まだ 半袖のわたしは
深まり行く 秋 ....
お前の髪
蚕の繭だったらなあ
白くて細くてふわんとしてて
綺麗だろうなあ
俺はお前を紡ぐんだ
糸車を
カラカラ言わせて
それから織って
お前は美しいすべらかな生地になり
....
ゆっくりと少しずつ時計は時を刻んでいく
叶わないとしていながら
行動に移してスグに失敗
悲しみの奥底の小さな穴から見える
希望絶望そのほかの
万華鏡に反射した波 ....
ぼくは詩人
その季節にはその季節でしかなく
その人にはその人でしかない
今日もまた
夜の散歩をしていると
秋風に出会いました
その風は
暑くもなく寒くもない
夏でもなく ....
まだしっかり帽子をかぶった黄緑の
君の大切なたからもの
やわらかい手が両方ふくらんで
哀しそうに助けを求める
ひとつも手放したくないんだね
小さなポッケを教えると
手の隙間から零れない ....
東京行きの列車が
一番線のホームに到着する
あれに乗ればトーキョーまで行けるのね
娘は言った
うん、行けるよ
行きたいな、トーキョー
この間の日曜日みんなで行ったじゃないか
....
秋の空気には
透明な金木犀が棲んでいる
陽射しに晒した腕が
すこし頼りなく感じ始める頃
甘く季節を騙す匂いは
思い出の弱いところを突いて
遠くにいるひとの微笑みだとか
風邪気味の ....
深閑とした梨畑で
ひとり 蜂の羽音を聞いていた
風は足音もせず忍び寄り
あれは少女だったろうか
黒い瞳の きらめく星の
かすかにふるえるのは
僕の胸の鼓動なんだ
こんなにもうるさ ....
なびくもののない
丘の斜面に
影はなびき
空へ向かう
影はいつも
空へ向かう
色は草から
外れかける
外れかけたまま
そよぎつづける
陸橋の陰
枯れ川の路 ....
隣を歩いていた君の右手が
隣を歩いていた僕の左手と
ごっつんこしたから
僕らはそのままなんとなく
手を繋いで歩いた
映画を見ていた君の手が
映画を見ていた僕の手と
ごっつんこしたから ....
久方振りの花逍遥
珍く機嫌のあんたから
誘い口説かれ花巡り
両眼遮る石竹時雨
風音ばかりが喧しく
あんたの{ルビ睦言=こえ}も届きやしねぇ
二人そぞろに歩みゆく
外れず違わず迷い ....
桃の産毛がこそばゆいので
黄昏は早くやって来る
桃の実を齧ると
甘い果汁が口なかに広がって
心をほわんと幸福にしてくれる
この愛らしい実のように
私もすこしは
やわらかくなったか ....
あの煙突は窓ではないのか
内に鏡が巣喰っているのではないか
めまぐるしく変わる空の色を
まるで気にもとめずに
昼の昼たる所以を
その内部から投影せしめている
あの灰色
あの煉 ....
コスモス揺らめくかの丘に
置き去りのままに鐘が鳴る
なにも言わず別れた日さえ風に鳴らされ
君は今は誰かと
夜に沈むのでしょう
明日は晴れです
君なしで始めた暮らしが
君な ....
ささやかな快楽と引き換えに
悪魔に魂を売った男がいた
垣間見せる仕草には
気付く人には気付く冷たいベクトル
遠くで
どこか遠くで暮してみたい
街では全ての人が看守 ....
雨で頭も体も重いから
今日は一日眠って過ごそう
ピンクのタオルケットを
頭から全身被ったら
まるでピンク色のさなぎの様
中から見る色もピンク一色
....
地上へ向かう木の葉が見せる
一瞬の華やかさ
揺らぎ
心の根幹は
頑丈にできているけれど
心の枝先は
いつも何かにあおられている
言葉が
木の葉のように舞い落 ....
コンクリートだらけのこの町に
ポエマーがやってくる
その名は
スーパーポエマー
マンションだらけのこの町に
スーパーポエマーがやってくる
聞くところによると
早打ちらしい
キー ....
風が みえる。
小麦畑が 風の かたちに
なぞられて ゆく・・・
{金色=こんじき}の波は
ささやいて いたのに
なぜ、 わたしは
ささやかなかったのだろう 君に・・・
愛を ....
青空と風と光と・・・
さうして夏はやつて来た
麗しき少年の日々よ
君の白いうなじを光らせ
駆けて行く あの鬱蒼とした森へと
君の涼やかな瞳が笑ふ時
・・・それは光に似てゐた
君の白い ....
よこしまないそしぎ
誰のための音も流れない
私の手をかすめ
とびはねては消えていく
苦しい苦しい泣き顔たち
曇りの朝は水を欲しがり
ひとり 作りものの他人にすがって泣く ....
ほほを桜色に染めた
小町娘が夜道をすっすーと横切って
午前零時の散歩
{ルビ映日果=いちじく}の葉に反射する
コウモリの声
超音波時計に刻まれた
わたしは悲しみに冷静でいたつもりだった ....
今日の雨は哀しい音で泣くから
傍に居て欲しいと、思うんだよ。
頭をぎゅう、と締め付ける雨の響き方が
やけにゆっくりで
あのイントロに似ている、と思ったりする。
死は矢張り誘惑で
言 ....
夏の夜に
いくつもの太陽を揺らすひまわり達
仕事帰りの疲れた男に
わさ わさ わさ わさ
大きい緑の手のひらを振る
日々の職場では
密かな善意を誤解され
....
君と
君の子供と
動物園へ遊びに行く
動物園のない町に住んでいるので
キリンもカバも見たことがないからと
地下鉄に乗っている間も
図鑑で予習に余念のない二人を
窓鏡に映る姿で見つめる ....
まるいかたち
まるくないかたちのものが
手ではない手にこぼれ落ち
光や
光ではないものとともに
器のなかで鳴りつづけている
低い草 永い風
畏れをわずかに避ける影
....
流れる秋に
ススキが揺れる
過ぎ去るものは
夕焼けの風
気づけば空に
真っ赤なトンボ
心吸われる
我が想い
染めゆく秋に
紅葉が騒ぐ
置き去るものは
夕焼けの風
気づけば道 ....
夜とカケラと
くず拾いの顔
コップをコップで閉じ込めた輝き
薄め 薄めて
水より薄く
足を伝った油の罪
月は彼等に殺された
私は月を想って泣く
封じた想いは耕され
見たこ ....
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