ぼくは詩人
心は見えなくとも存在し
色もまた
無色であっても存在する
今日もまた
朝の散歩をしていると
いつもの花畑に出会いました
ほどよい咲き心地
その広げる葉は ....
筆先で湛えきれず
液体が
ぽたり、ぽたり、と
滴るので
両の掌をくぼませて、ふくらみをつくり
上向きに
すこしかさねて
それをすくおうとしてみるけれど
わずかな隙間を
液体はすりぬ ....
時には詐欺師が人を欺くように
わたしはあなたを欺きたい
飲めぬ程に苦い毒薬であっても
この世に喩えようも無い甘美さを
死を迎える程耐え難い苦痛であっても
五臓六腑に熱い何かが駆け巡り
....
空高く舞い上がる雲雀達は
暖かな太陽と軽やかに睦み合い
春の訪れを高らかに歌う
その小さな翼に 愛し合う喜びを乗せて
その歌声に揺り起こされた花々は
爽やかな風の吹く新緑のしとねで
朝 ....
私は歌人
自分というものは
他人がいてはじめて
わかるもの
今日は折りよく
朝の散歩をしていましたら
詩人に出会いました
毎日毎日
朝に散歩をしては
多くの人やものと ....
「お土産は、何がいい?」と
聞かれたものですから
私、何とはなしに
「らっきょう」と答えたの
お父様とお母様が夕食後に奏でる
小気味良い音が好きなのです
ぽり ぽり ぽりり
....
ぼくは詩人
美しいものを感じる気持ちは
誰もが同じ
たとえ自分の世界が違っても
今日もまた
朝の散歩をしていると
歌人と数学者に出会いました
歌人は数学者に
短歌を数学 ....
花曇りの空に舞う胡蝶の
その透きとおった翅を
欲しいと思う
やわらかく笑う
ということを覚えたのは
いつの頃だったろう
新しいピンヒールが
足に馴染まなくて
ア ....
見送るものは、誰もいない。
錆びれゆく確かな場所を示す
冬景色の世界地図を
燃やしている過去たちが、東の彼方から孤独に手を振る。
知らぬ振りをする眼は、遥か反対を伺って、
不毛な距離をあらわ ....
傘にたくさんの
好きな模様を描いて
それからその後
他に無い、の
こんな日は
幸せに
誰ひとり
死ななくていい
美味しい珈琲だ、ね
これはきっと
朝から何も
降りてな ....
ほど近い、
雨音の届く、
屋根裏部屋で、
眠りは紡がれる。
了。
星の茂みの広がる{ルビ遠音=とおね}の空で
回音をのぼりつめて円頂で弾け
ふくらんでゆく
重い光で発散しながら
無重力して律動する心臓
瞬く今晩は
{ルビ青柳=あおやぎ}に迷蝶がさ ....
爛漫の春、日の光を一心に集めて
桜は夜に発光して花吹雪を降らす
花びらを拾い集めたその手
今は傘の花を咲かし
砕け散ったこころを
ジグゾーパズルのように
張り合わせる
欠 ....
{引用=そんなことより私、空を
さかさまに見る方法を知りたいの}
少女のすっと透き通った声
は何ものにも染まらない唯一
瞳は映した空を綺麗に切り取って
私はあの子に、
あの子の繊細 ....
ぼくは詩人
数学の世界も
詩の世界なのかもしれない
今日もまた
朝の散歩をしていると
数学者に出会いました
何かを数えているようです
1,1,2,3,5,8,…
....
舗装された道の
ペイントされた、とまれ
踏みつけられた骨の色の
見上げる季節の樹香
舞い散ってへばりつく
美しいという名の死骸
立ち上がれない
ペイントされた、とまれ
月が ....
のこされた風の中
四月がやって来る
この思いをのこしたままで
新しい輪に入らなければならない
記憶を背後の倉庫に閉じこめて
残酷な月が始まる
すべての匂いや音や色が
われわれを呼吸困難に ....
桜土手通りの
ほんとうの季節
夜、春香を写しとる水面に
ひとの本性があばかれる
だから秘密は
誰にも知られないように
ターミナルに出ると
うす青い空が広がっている
通りは車で渋滞していて
そのまんなかでは 赤信号が
意味をさがしながら
点滅する
帰らなければ、と漠然とおもっていた
帰ろうとするその方角を ....
わたくしはなりたい あなたに
好きからはじめる花占い
かならず好きで終わるから
弘前のあなた 今年も綺麗に咲くのね
好き
嫌い
好き
嫌い
好き
幾度やっても ....
雨を避けながら私は歩いている
傘に守られて私は歩いている
円形の
ぽっかり浮かぶその空間で
私は世界を眺めている
雨粒が傘の端から端から
あふれるように流れている
それは本来私の上に ....
小さな鉄
朝のすそ野
光の迷う道
つづくこと
つづかないこと
ここに無い声
空の句読点から
降りはじめる手
水を読む 水を読む
さくりとふるえ
....
スプーンの背で潰した苺から
紅が雲に届いて夕焼けになる
静まれ しずまれ
桧扇を広げて
漆黒がそこまで来ている
上着の釦をもうひとつ閉めて
心して迎えよ
静電気をちりち ....
ぼくは詩人
ほんの少し視点を変えるだけで
同じものがまったく違うものに見える
なかなかそれに気がつかないけれど
今日もまた
朝の散歩をしていると
カエルに出会いました
ぼ ....
抜けるような蒼い空の向こうに
煌めく未来があると信じていた
薄紅色の蜃気楼のような架け橋
ピカピカの一年生といっしょに
駆け抜けていったのは希望の花
凍てつく寒さ ....
星の遠めがねを峠に据えて
のぞき見る未来への深淵
みんななぜか震えていたね
体温を奪ったのは
外套をはためかせて
丘を吹き昇る風ではなかったんだ
風のゆくえを仰ぎ見る先に
透明に ....
わたしは、かつて海水がない渇いた海原で
孤独な一匹の幻魚の姿をしていた時に見た、
色とりどりの絵具をすべて混ぜ合わせたような
漆黒の夕暮れの中で、朦朧として浮き上がる白骨の黄昏と
共鳴していた ....
春は優しい素顔を何処かに隠し
コートのすそにまとわりつく
うつむいて
泣きべそかいているのは誰のせい
そんな街の片隅でも確かに芽生える
やるせない泣きべそ顔の奥で
見つけたもの
....
ぼくは詩人
美しい感情は
時代を超えても
伝わるもの
今日もまた
朝の散歩をしていると
石碑に出会いました
あかねさす 昼ののどけき 草むらに
水の流るる 春のお ....
指から指へ
景はわたる
花をまわす
雨をまわす
雪に点る青い芽の
ほころびぬものだけがうたいはじめて
折れた枝 折れた風
泣き眠る陽に触れてゆく
ひとつ ....
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