{ルビ吃水=きっすい}の切り拓く直線に
弾け、昂ぶる蒼波の振幅も
いつか、{ルビ理=ことわり}を{ルビ纏=まと}い
穏やかな泡波の
幾重にも沁みわたる
船側をすり抜ける速さに
戸惑い、 ....
一滴の私は
無数に砕けて
無数の私
の
意識
もう
瑣末なことは
見えない
見たくない
ことば
ことばにまぎれ
あなたが見ているのは
ことば
私ではない
無数の針を ....
晴れのち曇り 雨 みぞれ
空のほんとは
どの日でしょうか
わたしたちには
空を知るすべが少なくて
たまたま覗いたその日の空を
強くこころに
留めがち
です
吹雪 ....
五山の文字の
ゆえんなど知りません
それでも私は
わずかに香る炎が尽き
夜が少し涼しくなるのを
ただ待っているのです
まだきっとどこかで生きているだろう
あなたを見送っているのです
....
深い眠りに堕ちる前
世界はまだ明るく
人々の顔は希望に満ちていた。
草木を通り抜ける風が
するどく影を追い越した
白い花を咲かせた陽だまりで。
心が震えるばかりの
ちっぽけな安ら ....
陰に傾く風の段
昇る背のうた 色の段
去る朝に向け振られる腕に
空に光にたなびく水旗
棄てられた明るさの街を駆け
風に剥がれたかけらを歩み
曲がり角の影の息を踏み
置 ....
空虚な腹部で
命と鳴いている
今日は夏だ
われんばかりの空だ
あぁ、こぼれてゆく
大地の精霊を
宿す
からだは
青空のもとで響く
首すじに光る雫を
ハンカチーフにすっと吸わせる ....
きれいに消し去って欲しい
あなたの腕で
わたし自身では消せなかった
こころのなかに棲みついたもの
胸騒ぎのようなもの
きっと消せる あなたなら
その腕でわたしを抱き上げて
森の奥深く連れ ....
各駅列車がゴウンとかガタンとか
あんまりうるさい音で行くので
旅の記録も記憶も
まるで陽炎のように歪んでしまいそうです
最近では冷房がしっかり効いていて
天井の扇風機はすっかり黙って ....
人目をはばかりながら夜は
汗ばんだ首筋に歯をたてる
梳いた黒髪をかきあげて
受け入れてしまった恥辱
かつて少女の頃に見た
甘美な夢とはほど遠い
なんの形も示さないのに ....
空を飛びたいなど思わない
眠ってしまおうとも思わない
そんな明るい雨の昼下がりは
激しく窓ガラスで弾けて
つたい落ちる滴を
ずっと、ずっと見ていたい
大切に飼っていた金魚を
....
畑の真ん中から
どっしりと重い夏をもいで
両手で抱えた
なんだか地球を抱えている
そんな気がした
畑の真ん中から
重い夏を汗を流しながら運んで
丸い大きな宇宙の中にそっと入れた
....
ひっそりとした山の中に
一筋の銀色の水が
きらきらと輝きを放ちながら
そばに開く大きな葉に
花を咲かせるように
静かに脈をうつ
時折り光が流れの中で止まり
うたかたとともに消えてゆく ....
丸い生きもの
閉じかけた
小さく細いまなざし
右よりも左が大きい
風で傷んだ
艶の無い肉体
自分のための四肢を失い
うるおいだけがあふれんばかりの
何も感じず
何も見 ....
夏祭りの音の屋根
迫り出した空のかけらは
まだ遠い、午後の私へと溶けていった
古い夢の神社の石段を
ひとつ飛ばしで駆け上がれば
頼りない心音のままで
私はきっと、そこにいる
夏の夕暮 ....
白く湧き出る夜霧が彩色の光度を埋める、
途切れた余白だけが、
寂しく横たわり、わたしを乗せている。
染め急ぐ硬いみちが流れるなかで、
滑るように乳白の色をやわらかく溶かして、
わたしは、あた ....
暑き夏歌を詠もうと外出れば
流れる汗に言葉は止まる
詩を放棄しなくてはならないほど
言葉が出せない
頭の中で淡く思いつく言葉たちは
ペンに伝わるまでに溶けてしまう
それは熱した ....
家のまわりをまわるうた
窓は朝に消えてゆく
窓は蝶になってゆく
壁に隠れ
また現われる
蝶は鳥になっている
蝶になった窓たちが
左まわりに空をまわ ....
平和は考える前に
願うことから始まる
一人一人の願いが集まり
それが社会となることを
みんなが願う
歴史はその願いを
裏切ってきたのかもしれない
けれども
これからの未来には
....
通り雨が上がったら
買い物に出かけよう
少し錆びたギターの弦と
磨り減って持ちにくいピックを
新しく買い替えに行こう
心にいつも引かれている
五線に音符を並べながら
誰にも聞かれ ....
暮れた空の上に
団子がお着替え
始まりを告げる
ぺったん とったん
きづちで打つ頬のかけらが
月明かりに照らされて
くっつくのは
雲の切れ端と少女であり
のぞく合間から差す
....
あなたにメールして
返事が
かえってこないから
私は
まよなかのねこだ
ひとみ
まんまる見開いて
あなたからのテレパスを
感じるためによるに立つ
もう
嫌いになったかな ....
炎天下の路上に
{ルビ蝉=せみ}はひっくり返っていた
近づいて身をかがめると
巨人のぼくにおどろいて
目覚めた蝉は飛んでった
僕の頭上の、遥かな空へ
瀕死の蝉も、飛んだん ....
明かり消えていく街角の電灯
軋む踊るその心のマーチ
空が夕に染まる街の中心
駆け抜ける僕の未来の形
不安で泣いた夜も
深く突き刺さるトゲも
早くぬきとっ ....
浜辺に群がる人波が
ひとしきりうねって退いたあと
待ち兼ねていたように
波音は膨らみ
熱を孕んだ砂の足跡も風に消されて
浜は打ち上げられた藻屑の褥(しとね)になる
風が
湿り始め ....
自転車の私と
白い軽自動車の先生が会ったのは
広い水田の中の十字路
偶然にもかごには
できてきたばかりの詩集
それはコピー誌で手作りで
でも 作品を集めてお金をだしあって
イラストを ....
押し寄せる人波を
私は独り、逆流する。
東京駅の地下に蒸す夏。
目の前の{ルビ陽炎=かげろう}を掻き分けて。
日常の流れに{ルビ弾=はじ}かれて、立ち止まる。
重い{ルビ荷物=ト ....
鳥が くわえたたましいを
離すたびに緑は深く
深く 深く
枝は水紋
土に落ちた花が集まり
さかしまに笑む紫陽花もいて
水は灯る
水に 灯る
鏡に映る鏡の奥で ....
月ではまだ
冬の初めで季節が
止まっているようだった
浅い眠りの合間に
この頃よく、夢を見る
凍えたままの月面で
あなたをこの腕で抱き ....
繰返してはいけないと思っていても
繰返してしまう
それはちょうど悪戯っ子が
すぐにばれてしまう悪戯を繰返すのに
似ているのかも知れない
かまって欲しいわけでもないし
誰かに判って欲しいわけ ....
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