避暑の家の涼しげな夏草の茂み
その影もまた深い碧に沈み、
淡く邪気ない木漏れ日が窓辺を揺らしていた
暗い六月の雨をしっかりと含んだ土の濃さが匂いたち、
やがて腐敗へとつづく露骨な大地のプロセス ....
立秋は暑い
暑いけれど
風がほどけ
空をおいて
雲が重なる
夕方の影は
....
統計的に晴れることが多いという日がある
八月六日もそうなのだと思う
エノラゲイは晴れた空からしか投下しないと決めていた
その女はどんな人生を生きているのだろう
人間に思いというものがあるならば ....
紙きれはいつも晴れていた
うすもやの水色の空だった
ぼくの死はひとをすこし忙しくさせた
木々はぼくがいたときよりも
はるかにいとしい世界観だった
公園のパノラマにひと影は ....
はじめてふたりで話したとき
きみは敬語をつかっていた
アドバイスが出来たのか忘れたけど
はじめてプレゼントをもらったとき
それはハンカチーフだった
どこにしまったかは忘れ ....
手の子どもが
粘土をこねている
いくらこねても
粘土は粘土の形にしかならない
粘土を裏返してみる
にぎやかで美しい色の都会が現れる
足の子どもは
都会に行きたがる
昨日草む ....
部屋にぽつんと一人
歩き始めるための外出をするには
外の空気は不当に暑い。
アスファルトの上で血液が沸騰する
サニーサイドアップをアスファルトで、
だが、外出のための条件は整った。
....
空気の蒸せる昼
スーパーは避暑地だ
パチンコがやめれん
いつ親に泣きつこうか
残り少ないキャッシュカードを
ATMに差し入れる
じいちゃんが
どこからか見ている気がして
何もか ....
かんかんかんかん
かんかんかんかん
赤い光の警報機
降りる遮断機の
その先は
急行電車が
飛んで行く。
かんかん手を振る
二歳の子
電車を見ながら笑っている
夕日はとっくに夢の ....
きのうのきみの仕草を
つぎの日の夕方になっても
ちえのわみたいにさわっている
きのうのきみの泣き顔を
なぐさめるふりして姦淫している
ぼくは老獪で純粋だ
きみはぼく ....
あとどれだけ傷付いたら
あとどれだけ叱られたら
あとどれだけ責められたら
あとどれだけ出勤したら
あとどれだけ苦痛を味わったら
あとどれだけ涙を流したら
あとど ....
軟骨で出来たビルに
バッタが遊びに来ます
電信柱の破片が砕けて
少量の砂になります
+
過って網戸に
大きな穴をあけてしまう
その大きな穴から
たく ....
池を泳いでいるような人生だった
ぼくの死はだれかをすこし忙しくさせた
紙きれはいつもホコリくさくなるよね
お墓は雑草たちに暴かれているようだ
そんな泣くこたあねえじゃねえか
....
静かな朝に
旅立ちたい
かつての
くるおしい花は
いまは
ただそこにある
雨が降るように
私は祈ってみる
少しでも長く
あなたが
燃え尽きるのを
見ていたい
朝息ができなくて目をさました
窓をあけてしばらく息を思い出していた
ゆうがたのたいようみたいにきれいだよ
きょうのつききれいだよ
どうくつはなつのクーラーよくきいたへやからのぞむまど
....
ふと、わたしは紙になる
紙になったわたしを
見知らぬ女性がか細い指で折る
骨も関節も内臓もない身体を折ることは
とても簡単なことらしい
女性は几帳面に折り目をつけ
やがてわたし ....
私のたよりない内臓は世間を知らない
私は私じゃない、他人だ
孤立電子対のように
掴めない雲のような存在の私
あなたの代わり、代わりなんていないのよ
いなかった、あなたは唯一、やっとわかっ ....
ひとがしぬということは
思ったよりはるかに隠しきれない
百歳をこえたばあさんも
三歳や一歳のこどもにしても
どちらの場合も
この国からは金が振り込まれていた
ぼくはベッドで屁をこきながら
....
キューブの内側は白い部屋
上の面は解放されていて
太陽の光が
四十五度斜め上方から降り注ぎ
部屋の内部は
濃いグレーの三角柱と
白い三角柱に二分され
その中央に球体の女が
在る。
....
求めなければ、
こんなにも苦しむことはなかったのに
そっと手を握る。
冷たく、無機質な手。
もう動くことのない手。
その手で、自らの頬に触れる。
夜は終わっていた。
私は立ち上が ....
僕の名前の近くに
誰か立っていた
漢和辞典を忙しそうにめくっていた
若い頃の父だった
僕の名前は祖父がつけてくれた
父はぼくの出産に立ち会わなかった
そういう時代ではなかっ ....
いつの頃からか口の中に
ハリセンボンが住み着いている
怒らせると針が口中に刺さって痛い
ちょっとした振動にも反応するし
取り出そうとして手を突っ込んでも
針が引っかかって取り出せ ....
太った女の子が座る
通勤電車の車両接続部
近くのシルバーシート
彼女の平面図は四角柱。
正方形二枚で蓋をした
立方体に近い六面体
車内温度は高い
弱冷車両だが、人の数は多い
....
砂漠には
牡牛や熊や鳩や鷹
大昔
それらすべてはひとつであったと
髭づらの人が
乱れる息を
掌の中
上手にすり合わせ
微笑み
「悪疫は煮沸消毒いたしましょう」
「悪疫を煮沸消毒いた ....
街を歩いていると
工事現場で父が働いているのを見つけた
道具のようなものを使って
ものを壊したり、穴を掘ったりしていた
父は大きな会社の重役をしているはずで
今朝もビシッと高級ス ....
分光された夏。白くて柔らかな豆腐に、包丁を入れる、賽の目切りに。私は産まれた。母親の腹を裂いて産まれた。味付けは醤油だけ。醤油を垂らすだけ。夜が短くなった。止められない時計に抗おうとやっきになって、焦 ....
――月が 落ちていた
頭上の太陽は 甲高く鳴いている
西の山で、勤めを終えた私は
ふと 名もない町を訪れた
眼下の生き物たちは
汗を搾り取られ 滴り落ちている
....
昼間はゆらゆらと
国道の標本で遊んだ
すぐ側で乾いたアイロン台が
牛のように転がっていた
人の形をしたプラスチック製のものを
道路に並べて行く
ここには車が来ないので
安心し ....
大きな空の真ん中に
言葉にならない穴があって
その奥の色は群青色で
いろいろなランプが
つり下がってる。
いつでも自分は一人なのですが、
このごろますます一人なので、
言葉に ....
毛が生えている家が格安で売り出されていたので
後先考えず不動産屋と契約してしまった
見た目は洋風でモダンな感じで毛が生えているのに
中に入ると障子や襖や梁の木目など和のテイストが
....
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