桔梗のむらさきを聴く、と
夜の二歩手前が
どこまでもやわらかな鎖で
約束と小指を繋ぐ
硝子の鉢に浮かんで
むらさきは、鳴る
秋ですね と
ただそれだけを告げるために
桔 ....
東京と京都の距離は遠くない
西陣織りの帯でつないで
指は
君の小さな生き物だった
どこか
遠い異国の調べみたいに
時おり
弾むように歌ってた
君が僕の指を食む
君が
少し子供にかえる
遠いね、
とだ ....
まだ夜の明けないころ
街は少し壊れた
機械の匂いがする
昨夜からの断続的に降る雨が
いたるところ電柱にも
あたっている
いくつかの窓の中には
ささやかな抵抗と
使い古された ....
別れ際 凍る言葉に浮かぶ舟 たゆたいもせず 流されもせず
人の波 何に安心しているの 流される事 雑踏の静寂
薄笑い 薄い氷のその下に 黒い魚の影がちらつく
移り往く 山のもみじの日 ....
胸は
すぐに
いっぱいになります
それゆえわたしは
多くを連れて
行けません
あなたを
はじめて呼んだ日に
こころの底から呼んだ日に
海は向こうになりました
永 ....
椅子の並んだ暗い部屋
映写機の背後に立つ人が
かちっとスイッチを入れる
闇をつらぬくひかりの筒
スクリーンに映し出す
交差点を行き交う
無数の人々の足
試写室の ....
九月
あなたが好きでした
あこがれの名ばかりを孕んだ
鳳仙花が弾けています
木の葉が
択んで
静かなところへ落ちつくように
黄金の峰からふく風がゆきます
夕暮れがやわく優しく
....
あの高い木のてっぺんにいるのは
多分ぼくだ
ぼくの知らないぼくだ
忘れていたのかもしれない
ぼくがすっかり忘れていたぼくなのだ
だから懐かしい
ぼくは手を振った
だがそいつは
....
『海の中で時計は止まる』
そっと手をつなぎながら
僕ら海に泳ごう
ひと足とびに歌を口ずさんで
思い出の波にゆらぎながら
毎日君に話せなかった言葉を話そう
『羊が手を振る』
....
「ジギタリス・ブラン」
オラ、妙な病気になってしもうて、体があんまり動かん。
こう、だんだんにな、体が石みたいに固くなってゆくんじゃて。
もう、治らんそうじゃわ。
やれやれ、 ....
帰り道 君は南に私は北に 二人を分かつ夕暮れに秋
ロンハーの青田典子が好きと言い笑い転げる君が愛しい
疲れてる君の様子に少し似たスーツの上着抱きしめたくなる
ネクタイを慣れぬ手つ ....
プール前の花壇に
コスモスを見つけて喜んでいた そのくせ
君は、緑色のため池に沈んだ季節を
あまりに切なげに指す
わかってる
君も、僕と同じ色が好きなんだろう
空のいろ、でもなく ....
あまりに静かなので
どうしたものか
耳を澄ますと自分が
階段になっていることがわかる
踊り場には
温かい春の光が落ちて
多分そのあたりに
思い出はあるのかもしれない
遠くで ....
石を投げたら
海に波紋ができた
ルーツ
無駄にして
深いところに落ちる
波紋を見上げて
できそこないの光に触れる
棒読みの辞書の中に
金字の注釈 ....
あたしのこと忘れたことも忘れる頃にあたしは君を忘れるんだろ
何もかもうまくいかないそんな日々 カレーさえ悲観的な味付け
鈍行の列車の速さでは駄目だと堪らなくなり目を閉じている
....
川上から
くちびるも切れないような
と、いう言葉が流れてきて
あわてて口角をぬぐう
せっかく飲んだ酒を
鴨川に吐き捨て
突っ込んだ手が、宙ぶらりん
いびつな弧を描いて
よどんだ虹が ....
1
真っ直ぐな群衆の視線のような泉が、
滾々と湧き出している、
清流を跨いで、
わたしの耳のなかに見える橋は、精悍なひかりの起伏を、
静かなオルゴールのように流れた。
橋はひとつ ....
1. 雨
そういえば一度も
バケツをひっくり返したことなんて
なかったと思う
ああ
冷蔵庫を窓から投げ捨てた
ことがあった
そんな雨が ....
君はもう忘れたんだろ角にあるセブンイレブンでキスをしたのは
冗談にならない嵐 外に聞き“永遠はない”わかってはいる
「もしもし」とのろい私を罵ってくれるウサギが君ならよかった
....
行方不明の洗濯機が二番線のホームで脱水していた
振り返ると家電フロアーの主任が裏口でまだ手を振ってる
今日もレンジの平和を願う君が両手でものを温めている
「いつも利用する ....
アスパラガスと中央のそれと
交わる
未分化の炎
わたしはまだ生まれてない
コンクリートを接着剤として
ボルトの取れかかった煙突の下で
黄色いペンキで塗った腕を
ぐるぐる回 ....
硝子の風が
きりりと秋の粒子で
二の腕あたりをすり抜け
寂しい、に似た冷たさを残して行く
野原は
囀りをやめて
そうっと十月の衣で包まれている
わたしは
それを秋とは呼べず
....
木陰で体温の
呼吸する
と、内と外とが入れ替わり
境目に懐かしい
わたしのかたまりがある
施設の人と集配車の運転手が
簡単な口論をしている
近くのベンチで関係のない
小柄な男性が ....
幼い子の背をひらくと
痩せた背骨の喉奥を渉る
薄ぼんやりとした虹が、
そして
拾うように弾き上げると
それからは早かった。
飛んでいく静かな底の
透明な成長が、
....
今日のキスを明日までとっておいて
明日するはずのキスは明後日までとっておいて
そんな感じで生きていこうかな
って昨日思ったんだけどさ
おれは今日
正確には今夜
より正確いうならばつ ....
眠れないからもう諦めることにして
空中に浮かんでいる音階を拾い集めては
群青の彼方へと放り投げている
あれがいつか星になればいいとおもう
恋人同士の言葉が
私の夏を少し惑わせて
環状線の波に酔う
頬を染めた女子高生達の
隠しきれない純朴さ
物語の行間にちらちら盗み見る
同じ早さで揺られて
全ての人は
各々の街に帰 ....
ラブ&ピースという呪いが生まれたのは
それからしばらくしてのこと
僕たち、と言ってさしつかえないのなら
僕たちは
やはり
気づいていなかったのだろう
それが呪いであることに
ではなく
....
寝台車の匂いが
掌にする
腕はまだ
距離を測っている
残されたものを集めると
骨の近く
きしきしして
初めて靴を買ってもらったときの
恥ずかしい喜びしか、もう
いらない
....
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