また体の向こうがわで文字が跳ねている。戻っておいで、戻っておいでって思いながら見つめていると溶けて行ってしまう。さきに起きた娘が炭酸水をのみながら、まだ眠ってていーんだよ、と言う。やさしい。朝から ....
駅で人気のふたつの穴
乗客がものを入れては去ってゆく
あなたがさっきまで手に持っていたものを
押し込んで
ぽんと去る
人波は押し寄せ駅員はくるくる廻る
また次の列車がやってくる
人波は ....
きみに死んだ弟をあげるよ。
もうじき死ぬんだ。
そしたら{ルビ暴=ほたえ}たりしないからね。
もう駄々をこねたりなんかしないからね。
手間のかかんない
とってもいい子になるんだ。
....
水色は、不思議だね
黄色い花にとまる
蝶の翅の模様のように
夕暮れが
電信柱を揺らしている
海と川交わる場所を指差した子の好奇心脈々と湧く
広島の郊外にある植物園子供はあまり行きたがらない
待ち合わせ少し遅れてきたあなた何処に行こうか何食べようか
友達と飲み会開く賑やかに飲 ....
美しく輝く
掌の中のガラス玉
大理石の床に叩きつけたら
この星に息づく命と
同じだけの数の破片となって
飛び散った
思い出で繕った柔らかい屍衣に
心地よくくるまっていたら
裏地から ....
○「話し合い」
何事も喧嘩腰に話したら
まとまるものもまとまらない
冷静に
お願いするような
相談するような
提案するような感じで
話し合いをすべきである
責めるような
決めつけるよ ....
ウププププ。
「あなた、サツマイモのにおいがするわ。
それも生のね。
けっして焼きイモじゃないわ。」
恋人のドリーム・スネークが
どもりながら反論する。
「き、きみだって。」
「 ....
腹に溜まった
自称詩人のウンコを
ひねり出すことに
人生を賭けなさい
でないと、あなた
もう身体中の穴という穴から
自称詩人のウンコ臭が
滲み出て来ていて
周りの人はたまらんざんす
....
恋の情熱も
悲しみの涙も
もう枯れてしまった
御三家もじいちゃんになった
アイドルもばあちゃんになった
しかし思い出は消えない
思い出は
昭和歌謡とともにある
歌に励まされ
歌に涙し ....
コリコリの農家の子として生まれたカタコランは、
九才の時に神の声を耳にし、全知全能の神カタコリの
前ではみな平等であると説いた。布教は、カタコラン
の生誕地コリコリではじめられ、農家で働く年寄 ....
すみれの日あなたは今もそこにいて横断歩道を渡らない
右岸には青い鳥がいて左岸には神様が居る 私ふやける
だれだって皮膚を剥いたら一緒でしょ いいえあなたの骨はとくべつ
もはや零戦、
向いにたなびく羽根
とおりの母屋
の棚
そっと舞い降り
終着地
辿りついたのは
平屋の
墓地
置き忘れたもの
戸 ....
登場人物 夫──壮年のサラリーマン。
妻──夫より三歳下。専業主婦。
娘──短大出たてのOL。
舞台 東京都世田谷区の一戸建て住宅。
(平成二年、八 ....
生活を切り刻み、静寂をサルベージする、洗練された怠惰を身に纏うものたちのそこここで見かける言葉、段階を踏んで、手順よく並べるだけの…そうさ、実はそれは君じゃなくたって構わない、僕は神様の唾みたいに ....
○「なんで生きる」
死にたくないから生きる
死ぬのが怖いから生きる
やりたいことがあるから生きる
これからも
人生の山を登り続けたい
行けるところまで行くつもりだ
○「大事小事」
....
大根 里芋 金時人参 南瓜 蓮根
厚揚げを 塩加減に悩みながら
白く煮て
干し椎茸 牛蒡 蒟蒻
は しょうゆ味で黒く煮る
重箱のおせち料理は作らないけれど
昔 家族で過ご ....
いままでどれだけ花が散るのを観てきただろう
いままでどれだけ雲の移ろいを観てきただろう
ぼくはいまだ彷徨い 戸惑い {ルビ躓=つまづ}きながら歩いているよ
いまはどんな辛い事も嬉しい事も楽し ....
オレは世の中の99.9999%以上の事象を知らない
バカで バカで どうしようもないバカなのだ
酒を飲んではくだを巻き
夜の闇に溶けるだけ
たったそれだけの存在を
月だけが優しく頬笑んで ....
1、
たおれたままの若い病身に 全身全霊をかたむけて
詩神の秒針がかさなるとき もはや時刻は総毛だつ
純白の牡牛に身をかえて 四つ足のステップで誘惑し
美貌のエウロペをさらっていった 伝説 ....
木目に沿って歩いて行く
輪を描き運に従い
静かさの波打ち奥まり
暗闇の上層にぽっかり穴開き
水色の空、白雲の流れ うっすら
青い光帯び ひろがりいく
年輪を重ねリズミカルに木目刻まれ
....
ハイビスカスの花開き
水の面掠め飛ぶ原色の鳥、
燃える太陽の無限に向かい立ち
天空の濃密な青、人を貫き染め抜く。
私の内にすべては込められ
私は、
次々と浮き上がる
意識の光 ....
(だれが呼んでも
(きこえないよ
(きみが、いちばん!
羽根のない子どもは月に擬態する
集団下校の輪の中に居たはずなのに
だれも名まえを思い出せない
古い友だちの口笛は
(風が散ったから ....
もやぐ朝
夜が朽ちて
朝が生まれる
霧に覆われた街は
港へと変わる
赤い太陽は
無音の出港の合図
けれど想い出は
いつでも切ない
胸に
錨をおろしたまま
さ ....
お骨はゆうパックで送れるんだって
へぇ
そんなわけで叔父の骨を預かって
春と夏が過ぎた からんと
最近は近所に犬を見なくなった
骨を差し上げるあてもなし
わたしが咥えてしまおうかしら
叔 ....
ふたりで拾った
透明で硬く紅い卵
ぼくが生き物係になって
手のひらで暖め孵化を待っている
何が生まれるのかわからない
虫眼鏡で眼を凝らしてみると
真ん中がトクトクと脈動している
....
君のこと 好きに決まってるだろ
もちろん君の旦那も 君以上に好きだ
ゴメン ボクたちには
君に話せない 秘密があるんだ
察してくれ あまり深く訊かないでほしい
ボクたち 誰か ....
テイクアウトのピザを
たらふく食べ
飲みすぎた赤ワイン
炬燵で寝落ちし
ふと目覚める 耳の底の音だけしかない
深夜
空ビン洗って
ベランダの収納ボックスへ入れる音 ....
校庭のいちばん端、フェンスのところにはノブドウとヘクソカズラが生えてた。ノブドウはとくに実がきれいなので特別に思ってた。裏庭のどくだみが茂るところは一部分高くなってて、そこに立つとちょうど図工室が中ま ....
何が災いするか
わからないかわりに
何が幸いするか
わからないから
命に従うだけだ
・
ありがてえこってす
こう思えることは
みんなの
おかげ
ありがてえこってす
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