それは十二月二十四日のこと
日々忙しい二人も、この日だけは会おうと
どうにか予定を空けて待ち合わせた
場所が学生街も近い高田馬場とはいえ
こぎれいな店はどこも予約で一杯で
二人はしかたなくフ ....
君の化石を
掘り起こして
眺めてみる
化石が
語りかけてくる記憶は
良かった思い出だけ
悪い思い出は
時が洗い流してしまったのか
角が取れ
丸くなった化石
化石は
生 ....
熱海といわれても
有名な温泉地という以外
実はなにも知らないのだった
このお題、絶対残るよなと思いつつ (※)
毎週書きつぶしていったけれどやはり残りつつあって
途方にくれながら飛行機で ....
みえこが
おなかの赤ちゃんに話しかけ
仮の名を呼んでいる ....
その本を手に取るたびに
同じページばかり開いていたから
今では机に置くだけで
パラパラと そこへたどり着く
私の心の傾きが
そのまま しおりになっている
午前二時
街もとっくに寝静まり
街の灯りも全て消え
まるでこの世に
自分しかいないような
恐怖
窓を開け
月を眺める
この月を今
どこかで見ているあなたと
いつか出会ってしまう ....
胸の中でとぐろを巻くのは黒い蛇
ぶすぶすといやな煙を吐くのは腸
どちらもくねくねとのたうちまわる
美しいもの輝くもの
空へと憧れるこころとうらはらに
確かにそ ....
いつか僕らは
宇宙の塵になる
宇宙の塵から産まれ
宇宙の塵に戻る
ただそれだけ
未来永劫の循環活動
今、君に触れている
ただそれだけが真実
宇宙の塵に
また戻ることを知っているか ....
朝日が昇る
あたりまえのような顔をして
しかし
この胸に広がる喜びはなんだろう
日付が変わっただけなのに
普通に昨日の続きなのに
カレンダーが新しくなる
新年という
新しい一歩 ....
この度は思いもかけないことでなどと
気休めを言うものではありません
死ぬことは生きている限り必然で
むしろ生きていることこそが偶然なのだと
私たちは本当は知っているからです
眼前の笑いか ....
私の方向音痴を笑いながら
手を引いて
東京タワーはあっち
六本木ヒルズはあっち
あれが皇居
お台場は向こう
新宿はあのあたり
晴れていたらあの辺に富士山が見えることもある
さて
あな ....
古い写真
同じ年の子供たちが
いっせいにポーズをとって
こちらを見ている
覗き返す
私と
唯一
目が合わなかった
十歳の私
偏屈な子供
いつもみんなが
ガラスの向こうにいるよ ....
ワイパーを身体につけたんだよ
ネジでさ、おへその穴に固定してね
勤続十五周年だもの
いろいろな人が去っていったもの
自分へのせめてものご褒美だもの
憧れていたんだ、ワイパーのある ....
溶けた青色を見つけられないまま
虹は消えてしまった
ビルに反射された心音がふるえて
空も消えていく
取り残されたうろこ雲が溺れそうで
それだけはおんなじ、ね
身体を作り直そうと
くち ....
ある時あなたが産まれた
あなたを抱いた看護婦さんは
「わあ〜やわらか〜い」
と、とても暖かな気持ちになった
ある時あなたは小さな子供で
あなたのまるいほっぺたを見たおじさんは
「ああ、 ....
火を固めて作った花びら
一つ一つ
悪びれずに
真っ赤に燃えていればいいはず
蝶も蜂も
独り占めに
褪せていく定めのものたち
それはそれ
季節がお前を嫌 ....
北風が かたく きつく しめつけてしまえば
少しは私も落ち着くだろう
冬の空から放たれる薄い陽射しの中で
動かない空を見つめていた
冬の空には何かがある
いじらしく思わせる何かがある
....
母さん、
ほら、春の風が吹いて
そろそろ僕も
行こうかと思います
春の風は早足で駆け抜け
いつも、僕は一人残されてしまうから
風のすべてが海の向こうに渡る前に
そろそろ行 ....
霊安室の白い籐籠のなか
ピンクの野の花にうずもれた君の
艶のない栗色の背中から
ひからびた鼻先から
濁った黒目のまわりから
しぼんだ肉球のすきまから
丸々と太ったノミどもが次から次へと ....
朝 通勤途中の人に
夜 犬の散歩をする人に
僕は 笑う
会社では
「あなたは愛されて育ったでしょ。」
と よくいわれる
僕は 生まれてすぐ人に預けられた
母に 社割で 花柄の ....
「虹が出てるよ」
と 人が言う
私は毎日
傷つけてしまったことの上に
虹を置く
後悔の念で
全て色は暗めだ
赤は ざくろ色
黄は 落葉色
青は 制服色
緑は たんぽ ....
帰りの地下鉄は
あたしのおっぱいを想う
一生懸命に急ブレーキをかけたり
できるだけからだを揺らすのに
おっぱい、日に日にとけていて
今日もきみの相手はできない
満員電車は酸素がすくなく ....
漆のように黒い闇が無限にひろがる宇宙の
おぞましい永遠の闇また闇の中に白い服が
浮かび小さな一点の眼がみつめる青い星の
なんという美しさ神様あれが人類の隠れ家
それにしてもあれは何だろ ....
ほの暗い駅
列車の中で一点を見つめている
あなたの眼差しを見送る
”お気をつけて”
その一言だけが伝えたかったのだけれど
ベルが鳴り止んで動き出したのは
列車ではなく
ホ ....
すばらしい日は
目から はちみつが出る
下を見れば
青い空き缶が吸い殻入れ
もたれかかれば、白い壁はやわらかい
ドアをあけると
黒壁に詰まった、赤い自販機
吸い殻入れの隣に
....
夜
ベッドにうつぶせになって
すうっと体がのびた
魚になった気分
黒い海を
すうーっと泳いでるような気がしてたけど本当は
まな板の上で
最後のお願いをする
まず頭を切りはなすために
....
こころがあったかくなるように
がっこうから帰ってもまだあったかいカイロを飲んで
くちびるを ぶるぶぶぶぶ ってして
粉をたくさん吐きだしながら
かみさま、ってよんだ
今日も一日中
足の ....
あれっ
お客さんも うそ をお探しですか
うちはもともと まごころ屋 なんだけどねえ
ええ いいですよ
お代の方は 必要な時間だけ
お客さんの寿命で払っていただきます
軽い ....
あなたが亡くなって世界はこんなに美しい
おばあちゃんにせがんでおんぶしてもらっている子供
赤く染まった南天の葉
まるく結実した八手
冬の日差しのなかにあなたのまなざしだけが残っ ....
ボートから転げ落ちて溺れた
一人目の男は
すぐに飛び込みすくい上げてくれた
ボートから転げ落ちて溺れた
二人目の男は
携帯電話で助けを呼んでくれた
ボートから転げ落ちて溺れた
三 ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106