この腕にしがみついた、
性という薄皮の、
一枚一枚をゆっくりと剥いでいく。
そこには薄く赤みを帯びた痛みが咲いている。
煙で見えなくなった、
風呂場の鏡に映る、
あらわになった腕や脚、 ....
晴れた日に
( )を捨てる それは
たったひとりだけで行う儀式のように
もう一度愛してから、という未練は
明るい光が消してくれる
洗いたての
( )を捨てる それが
慣れ親しんだ ....
ひとの心は果てしなく彷徨う
距離や時間を超えてゆく
痕跡にすぎないものに捉われ
憶測の触手をあすに伸ばしておののく
ときどき何かを削ぎ落しながら
変わってしまうことをおそれながらも
....
空と海の混沌に
突き刺さる黒い陸の先端
に白い少女が立っている
淡い彩りが現れ
生まれた風が海を押す
押されて海は岬に駆けのぼり
少女に白い言葉を飛沫く
潮鳴りにひそむ遠い記憶の ....
新しいメッセージが一通ありました
このまえ
やむにやまれず書いた言葉に
一度は
お気に入りのふせんも
消えてしまった人から
あまりに
懐かしすぎて
そのひとつの
たったひとつのポ ....
鋼鉄の鎧が
にぶく光るのを見たか
青く濁った
異次元が
ゆがんで
その先に
銀色が
にぶく光るのを見たか
かっと開いた
漆黒に
あっという間に
呑みこまれ
あっという間 ....
山椒はけなげな樹だ
人に若芽を摘まれ
実を横取りされても
再び芽を出し花をつける
山椒は優しい樹だ
青葉に隠して
揚羽の幼虫を育て
幼虫に臭いをすり込ませ
ああこの臭い
幼虫はこ ....
空に舎に
秋光り
ほの暗き
回廊に
風立ちぬ
天高く馬肥ゆる
秋
をのこ生まれる
空に舎に
秋光り
ほの暗き
回廊に
風 ....
私はさかなをかく。
私はさかなはかかない。
さかなのなかを私はかく。
さかなを支える骨の内部を流れる
熱い海の流れを。
*
塩焼きにされた秋刀魚にかぶりつく、
がり ....
環境に適応していきのびることが
生命のことわりならば
それにしたがうのがあたりまえなのだろう
考えることはない生きればよい
小利口にならずきちんといまを選択する
なにが純粋なのかよく ....
庭の緑に紛れて自己主張する名も知れぬ花々。
鮮やかな色は私の心をわくわくさせる。
天気は良好、テラスで飲むアールグレイもまた楽しい。
部屋の奥からベートーヴェンのピアノソナタが聴こえ ....
もう、疲れてしまった。
美しいものは、等しくコトバにできない、ことや、
瞼を瞑ることでしか、思い出せないと言うことを、
眠らない心が捉えてしまったのだ。
夕焼けすら 同じように見え ....
それまで
水の中を泳いでいたものが
産院のベッドの上で
あし。になる
それはまだ
自分を支えることも
出来ないけれど
あし。と呼ばれる
こんなに
ちいさく
まだせかいを歩いてさ ....
かすかな気体が母音をまねて
つつましく
遠くの空をながめる子
瞳に映る季節、また季節
繰り返される慈しみ
陽射し
向こう側へ手をふる
帰れないと知っても
魂は旅をするかしら
平行 ....
夫と言い合いになった日の深夜
冷蔵庫の前に這いつくばって
冷たい床に雑巾で輪を描いた
何度も何度も同じ輪郭を辿って
ただ一心不乱にひとつの輪を描いた
怖い顔で子供を見送ってしまった朝は
....
ひかりのあたる角度によって
ものごとは綺麗に反射したりえらくくすんで見えたりもする
シャンデリアのある素敵な応接間
ある生命は空間を得るために代償を払う
それを得られない一部は
高速 ....
夏のあいだ僕らは
危うさと確かさの波間で
無数のクリックを繰り返し
細胞分裂にいそしみ
新学期をむかえるころ
あたらしい僕らになった
けれど
ちっぽけなこの教室の
ひなたと本の匂いとザ ....
私がいないなら、
あなたがいる。
あなたがいないから、
私がいる。
いつも時計のように
交わっては消えていった、
数秒の肌の記憶。
何度生まれ変わっても
告げられな ....
私の父は18の時に航空兵に志願した
飛行機乗りになりたかったのだ
もちろんお国のために
命を捧げる意義を信じて
間に合っていればきっと特攻に行っただろう
出征するはずだった日の1週間 ....
お母さん、私ね、学校にin loveなboyが八匹もいるんだよ
金魚に餌をあげていたら
次女が後ろで不意に大きな声を出すものだから
目の前の水槽に
突然金魚が九匹飛び込んできて、
その ....
ほんと参った てこずって迷って送ってきた この人生
捨てる神あれば 踏んづける神もあった
前髪は後退し トイレの紙にことかいたこともあった
結局最後まで 望むように認められることはなかったよ
....
ちいさな夜想曲を想う
ドイツの作曲家でもなく誰かの
こころはとめどなく夢をさまよう
意味もなくいきているような
きもするのだが
いつでも永遠を信じて生きていようとおもう
体はく ....
清らかな小川の流れに言葉は産まれ消えてゆく。
願いは祈りになりあの山の向こうへ放たれる。
初夏の訪れと共にやってくる想像を
使い古した手帳に書き留める。
白樺の林の中で虫たち ....
うそみたいなほんとの世界には
油っこい湯気が立ってて
空ばっかりは複雑なうそみたいで
みあげる余裕なく午後五時半
いつものあきらめがまた
かならずあしたも東京の夏です
と念を押されて泣 ....
赤く透き通った
血の様なワインを飲んでいる
酔っているので
詩は
書いてはいけない
酔っているので
なおさら書きたい
自制心が効かない時ほど
熟成しないまま
今すぐ
投 ....
ガタゴトとはいわず
きゅうきゅうと鳴く電車
繊細な指先をもつサラリーマンとか
はこぶ電車
朝早くからごくろうさま
きのうハンカチを落とした女子高生が
あたらしい花柄のハンカチでやは ....
それでも時は流れていく
ゆっくりと
淀みなく
立ち止まる想いを押しのけ
焦る足元も
掬いあげ
鳴り響く発車のベルの音
口ごもる詩を
何度も試み
置き去りにされる記憶を
追いかけ ....
おにぎりを握るてのひらで
詩を書いた
いつか
おにぎりのように
なるように
フリードリヒが見ていた
あの十字架
雲海に聳える
孤独な十字架
廃墟で傾く
あの十字架
運命はいつも
フリードリヒの絵の中に
同じ十字架を見つめて
同じ背中を見つめて ....
霧の漂う高原で朝を迎える
冷えた暖炉に薪をくべる時
私の内側で眠っていた生命の光も
優しく穏やかに目を覚ます。
何かが覚醒するときに感じる小さなエクスタシーは
すでに準備 ....
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