東京
憧れていた街
過ぎてゆく人たちと
消えない夜の明かり
言葉を殺しながら
信号が変わるまでに
どうにかしてこの横断歩道を
渡らなくてはいけない
あ、またひとり
大切な人とす ....
「久しぶり」と笑顔を交わし
「最近どう?」といつもの挨拶
そして、
「別に」といういつもの返事
朝が来て 夜が来て
またそしたら朝が来る
昨日も「別に」
明日も「別に」
そんな何で ....
カーテンの外で
もう明日が始まっている
私は今日すら消化できないまま
部屋の中で立ち止まる
こんなに簡単に
昨日は手に入るというのに
狭い部屋に溢れかえって
いつまでも抜け出せない
....
たとえばそこに私がいるということ
炭酸水の泡の中に私がいるということ
生まれては消え消えては生まれる
連鎖する中にほんの一瞬私が見え隠れするということ
たとえばそこに私がいるという ....
雨がときどき
なつかしい人をつれてくる
いえなかったことば
雨のリズムがとだえる
「つたわったよ」
なつかしい人がうなずくのが
わかって
泣ける
雨がときどき
すごさなかった日を ....
本当に欲しかったものはたったひとつで
それを得ても失う日が来ることを知っていた
与えられた人形を身代わりに
仕事に旅立っていった背を見送り
暗いやけに広い静かな夜の果てに
何か光があると ....
私鉄沿線のダイヤに則り
急行列車が次々と駅を飛ばして先を急く
通路を挟んだ窓を
横に流れるフィルムに見立て
過ぎた日を思えば
思わぬ駅で乗り降りをしたわたしが映る
網棚に上着を ....
となりに君をのせて
海沿いの夜をゆく
波は
そこにあるのに気づかない
君はたぶん
空気で出来ていて
誰の目からも見えないけれど
見失いそうになるとき
君をのせて夜をゆく
ボク ....
お昼。ランチタイムでごった返すコンビニを出て
二車線の道路。向こうからきた白い車は、低く構えて
まるで動物か何かのようだった。獲物を狙う。
クラウチング・スタート。
不意に。夏の情景が ....
名残雪が、責めるように頬を撫でる日に。
母が倒れたとき。
自分の愚かさを知り、奇麗事の容易さを悟った
この唇の内側から溢れるのは
偽善者の小さな自尊心、その欠片ばかりで。
吐き気がす ....
「わたしたちのからだ ここに入るのね
その言葉は 墓前に供えた白い花より麗しく
遠くに 在るもの いつか 訪れる
その日を見据えては 永久 に さすらい
「わたしたちの心 あの雲に ....
春だから って
がんばらなくても
いいんだよ
桜のつぼみが
あちこちで
ちっちゃな
熱気球みたいに
今にも舞い上がりそうでも
はりあうように
がんばらなくても
いいんだよ
....
長かった戦争も終わり
とばっちりをくった君の街でも
ようやくガス管の再整備が終わったらしいと
遠くの街のテレビから流れる異国の言葉を耳にして
何故涙を流しているのか
自分でもよくわからない
....
小さな夜
小さな部屋に
小さな明かりを灯して
泣き叫ぶくらいならどうか
美しく歌わせてください
姿なく鳴く鳥の声は染み渡り
深く胸のうちで跳ね返り
まるであなたを ....
生後四ヶ月の娘を朝の5時からあずけれるような
保育所をさんざん探してさんざん電話をかけたあと
少し詩を読んだ
被爆者のケロイドを体に負うことが
物事を理解することではない
とりだされ ....
だれも
空のようにはきみをなぐさめることはできない
満員電車のなかで
まわりがにおいをさけるように遠巻きにした
しろいこどもを背負った
みにくい老婆を
見たことがあります
地球は ....
高原行きの{ルビ汽車=ディーゼル}を待つ間
プラットホームの先っぽで
二人は駅弁を食べるんだ
二段になった折り詰めの
おしゃれな駅弁を
うれしそうに開けるんだ
中央アルプスの山嶺に ....
書けなかった詩の断片が
ちぎれた草になって
風に舞っている
いのちは永すぎる未完
死してなお
始まりにさえたどりつけない 未完
私の夜はいつもと同じ旋律を
内側の街路にまきち ....
カミキリムシに噛み切られている
僕は薄い紙になっていて
手も足も出せない
手足が出たところで
噛み切られるだけだけれども
昨日までの厚みは
どこに行ってしまったのだろう
でき ....
空腹と淋しさがごっちゃになって
肉まんは僕の友達です
105円という値段に親近感を覚えて
肉まんは僕の友達です
周りのみんながよろしくやって自分だけが冴えなくて
肉まんは僕の友達です
冬の ....
最近《なんとなく猫》がよくウチに来る
なんとなく猫は一匹ではなくて
その日によって違う
茶色もいれば黒も白もいるし
大きいのもいればまだ子猫なのもいる
なんとなく猫は何となくウチ ....
午前二時の町に
星空はなかった
海の向こうの国に
旅立ったまま
この町の空は留守になっている
遠い都会に行ってしまった
若者はもう生まれた町のことなど
忘れてしまっただろうか
....
泡になりたい
そう望んだのは十七歳 夏の日
ラムネの底から生まれる
消える気泡に見とれて
曖昧な私も溶けてしまいたい
いっそ
いつか
本の一部を鋏で切り取った
一片一片を繋ぎ合 ....
浜辺に漂いついた瓶のように
ひとり暮らしの郵便受けに
届いた宛名違いの封筒は
丁寧な文字で
差出人の住所
きっと昔、この部屋に住んでいた
誰か宛の誰かの手紙
なにかの縁だろうと
不 ....
とてつもなく怖いものだけど
限りのなく優しいもので
そのうち意味すら解らなくなって
またある時意味を噛締め
涙を流す
でも今
意味の解らないままの人が増えて
当たり前のこととなって
....
いつまでも続くといいね
つながりは離れないまま
穂先だけ実っていくといい
そしてコウベを垂れ
時折
お互い顔を見合わせて
笑う
たったそれだけの
コト
繰り返して ....
ほどけた靴紐を結びながら走った
朝はいつも苦手で
腕組みしている先生の顔を見ないように
校門を駆け抜ける
一時間目から六時間目まで
机に突っ伏して眠り
部活だけはさぼらなかった
そん ....
今朝から元気な
うさぎは雪で出来ていた
おはようと声をかければ
おはようと返してくるし
動けはしないものの
今日も元気でいられることは
いいことだ。
うさぎは冷凍庫で冷やしてやると
....
昨日まで存在し得なかったものが
今、生まれる
月は満ち始めている
仲間は3人目の子を産む
形を成さない断片が
在る法則を成し始め
一つに集約されていく
形を成さな ....
つきはなく
ほろほろと
こぼれるよる
さらさらと
はしる少女
かぜをまとって
だれにもはなさず
だれともはなさず
ひとりきり
よるをいく
つきがなく
よるにひっそりと
さみしく ....
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