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ふと、わたしは紙になる
紙になったわたしを
見知らぬ女性がか細い指で折る
骨も関節も内臓もない身体を折ることは
とても簡単なことらしい
女性は几帳面に折り目をつけ
やがてわたし ....
母は 捨てる
真昼に閉じた雨空へ捨てる
滑空する白色の鳥が堕ちる所
そこに堕ちる母のものを捨てる
湿地帯に隠された 母の書いたもの
そこに堕ちる母のものを捨てる
滑空する白色の鳥が堕ちる所 ....
わたしは眠る
何処に
毎夜訪れる生贄の儀式
わたしは焼かれて
再生させられているのかもしれない
夢を往復するために
いや
目覚めこそ幻覚
わたしは起きている感触 ....
キューブの内側は白い部屋
上の面は解放されていて
太陽の光が
四十五度斜め上方から降り注ぎ
部屋の内部は
濃いグレーの三角柱と
白い三角柱に二分され
その中央に球体の女が
在る。
....
焦げついた喉の奥に最も暗い夜がある
野犬逹が吠える
それは肺のもっと奥の方
何処か雲で霞みがかる月
歌いだせば
全ては煙のように這いで
誰の耳に入ることもない
それは誰に ....
信号が全部赤だから
どこにも行けないと少年が言う
じゃあ全部青だったら
どこに連れてってくれるのと少女が言う
乗客のいないタクシーは
相模湖まで走り次々に沈んだ
地下鉄が瞬く間 ....
あまりにも暑かったので 今日
川の中に素足をつけてみたら
ごくごくと水を吸い上げたのでした
頭の先から水しぶき
どどうと飛ばせば
白い雲にかかって 雲飛んでった
気持ちいいなあ
....
小さな蛇のミイラも大雨で流されて
ほっとしていた
蟻に狩られた子蛇
もしかしたら毒蛇の子で
しっぽしか食べられなかったのかもしれない
食べた蟻は死んだのかもしれない
助けを呼ぶように身をく ....
俺は砂漠の三日月に太陽の熱を鎮めるトカゲ
....
いつの頃からか口の中に
ハリセンボンが住み着いている
怒らせると針が口中に刺さって痛い
ちょっとした振動にも反応するし
取り出そうとして手を突っ込んでも
針が引っかかって取り出せ ....
ソーラーパワーを貯める小さな容器
一日中 陽射しの下に置くと
透明な中に太陽が集められて
暗がりに光る
夕間暮れの四隅にそれぞれ置くと
太陽の神殿のようで
くたびれた靴下の足跡も
遺 ....
子を探す母親は
探して探して町じゅうを
探して探してあちこちを
空き地を路地を公園を
橋下を覗き川面に目を凝らし
袋小路を野を丘を
森を林を墓地を巡り
家という家訪ねて回り
隣の町を裸 ....
何も思いうかべることのない
壁の中で
風をしたためている 気がする
恐らく そうなのだと
風の中でページをめくり
立ち止まり 彩りを
見つめているとき
草の色の 内側に
呼吸を ....
本当のかなしみを知るひとは
かなしみのあり様をあれこれと邪推せず
涙で濡れた手のひらにあたたかな眼差しを重ねてくれる
本当のかなしみを知るひとは
ひとの過ちをあれこれと論ったりせず ....
ここに戻ってきた
狭いけど おちつく
あたしのキッチン
安い焼酎の炭酸割りの
グラスをもって
シンクの扉によりかかり
へたり込む
このひんやりとした感じ
ほどよいスペー ....
静かの海
ここはどこまでも静寂な 砂がさらさらと、
乾いた想いを落としていく
初めて出会った日を思い出しては
ナトリウムの大気に
耳をすませる
小さな部屋で聞いた
パステルの紙を走る ....
まっさおにしろいくも
絵に描いた様な夏の朝だ
裏の戸を開けつつ
ひたすら上を見るのだけど だめだ
いつもの場所にいつもの死体
蟻に狩られて頭から胴体の途中まで
ミイラ化した子蛇が
巣穴に ....
眠らないバスにのった
眠れないぼくは
あの野性化した雲といっしょに
あかるい夏の海辺をどこへむかっていたのだろう
写真でみただけの
マリアナ諸島の鮮やかなブル ....
おばちゃんに先導されて何気ないビルをエレベーターで五階にあがった
ほそい通路をニ度ほど折れておばちゃんがドアをあけた
そこがコピーショップだった
数分のうちに千元のブランド時計が五百元になっ ....
咳がとまらないのは喉を傷つけたからだろう
見えない肉片が腫れているのだろう
小雨の降る中 でも見てしまう
干からびて縮んだ小さな蛇が半分だけ
蟻の巣穴に入っている所
この間 蟻に狩られた蛇は ....
あなたのくちびるから海がこぼれる
塩からい水が胸を濡らすから
わたしは溺れないように息をする
そっと息をする
空の高みが恋しいと指先をのばし
両手を広げてみるけれど
あなたの海が追 ....
夢にまたあれがでてきた
あれいらいだ
シンゴが洞窟を持ってしまったのは
女の子との別れならいくつも経験していた
それまで好きで別れたことなどなかった
そんなお人よしではなかった
連絡を ....
ダイエット目的にはじめたジョギングだったはずなのに
夢はホノルルマラソンなんて張り切っている
フルマラソンって42.195kmも走るんだよね
あの子の精神構造ってどうなっているんだろう
....
その身を削いでゆく
どこまでも
いつまでも
と、いうわけにはいかないのだ
だれであっても
どんなひとであっても
あげくの果て
使いものにならなくなった
....
さく
種から育てたツマベニが咲いた
雨の季節が過ぎた庭先
種から育てたうちの娘が
爪を赤く染めて
わたしにさわらないで
と言った
弾ける前の赤い唇
くつ
爪先と踵が硬 ....
白紙の畑がひろがっている
一本道をゆく
と、ポツンと
巨大なショッピングセンターがある
集合住宅のコンクリート塊が墓標のように、山塊のように建っている
そんな
....
それは忽然と現れた。
スパニッシュブルーの空を突き刺してそびえ建つ、
研ぎ澄まされた円錐形のオブジェ。
傾斜角75度の強い意志が天を貫いている。
指し示す先はどこまでも高く
その先端から曖昧 ....
灰色の向こうから垂れた糸が
わたしのさらけ出した肉体をなぞってくれる
何千もの指が触れていくように
ひとつひとつわたしの感情に絡まって
蜘蛛に食べられてもいい
今はわたしなんか身動き一つ ....
雨の日にタマネギを食べる
茶色のかさかさした所をむくと
白い皮が つるり つやつや
曇る空模様に薄暗くなった台所で
食べられる月のように まな板にうかぶ
半分に切って ざくざくと刻むと
....
ナギと呼んで空に心をのばす
心は手になり私になり
ナギに届くと思うのだ
思うのだと思うほど信じてはいない
チチチ と鳴きながら近くを飛ぶのは
警戒の意味もあるのだと
私は警戒にあたいす ....
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