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わたしが生まれ育った郷里では
要らぬものを裏山に投げた
村外れを流れる川に流した
囀る野鳥の気配に誘われて
ひとり裏山を彷徨えば
要らぬものは朽ちて土となり
夕餉の支度でも始めたのか
潜 ....
夜になってから急に
庭の倉庫に首を突っ込み
懐かしい教科書を次から次へと処分して
家の中に戻ったら
腕中足中蚊に刺されていた
それを見た母ちゃんは、言った。
「あんたはつよ ....
愛は、{ルビ脆=もろ}い砂の{ルビ塊=かたまり}
この手に掴もうとすれば
指のすき間から零れ落ち
{ルビ一時=ひととき}で姿を消す
優しい陽射しのこぼれる
窓辺の下にそっと置かれた ....
私 帰るから
駐車場で 車に荷物を入れている 夫に
私は 口走っていた
何か言ったか とふり返った時
もう 走りだしていた
このまま 新居になんか行きたくない
結婚なんてしなけ ....
曇り空に
夏が少し薄れて
鮮やかを誰かに譲った向日葵が
枯れた葉を恥じらうように俯いている
風に混じって遠い蜩の声が
髪を擦り抜けると
秋、と囁かれたようで
逝く夏に何か
何か ....
その日、だれかに呼ばれたような気がして、家から外にでた。近所の、さくらの並木通り、書店でコミック雑誌を買う。花を見ながら、小学校の前を通りすぎ、病院へと向かう。となりのレストランの、外壁の大きな鏡に、 ....
ねえ、コーマ
ひた走る夏がまたやってきたよ
クルクルと
額を通り過ぎる光の群れ
君は開け放した口で
笑うね
(笑う 笑う 笑った)
君は箱庭が沢山ぶら下がった
奇妙な棒をかついで
....
改札を抜けるように明日が来るのです
明日が毎日、未来であると信じるひとたちが
道端にこぼれてこびりついたジュースまみれの
自分の影を踏んでいるのです
カタチあるものだけに価値があるかの ....
夢のような 心軽さで
私は窓辺にたっていた
黄色い{ルビ灯=あかり}が漏れていた
やみがたい 私の心のすき間から
疲れた{ルビ貴女=あなた}のしぐさのひとつひとつが、
....
仕事から家に帰宅して
「ただいま」
と言ったら
「おかえり」
と昨日の自分が出てきた
相手の自分はいたって冷静
ものすごく驚いている自分だが
自分が落ち着いているので
自分も平静さ ....
キリンという名の
魚がいる
もちろん
首が長いのが特徴なのだけれど
サバンナの夕日を思い出すと
時々自分の鳴き声が
わからなくなって
溺れてしまう
きれいな若者たちが
無惨な船首に触れるとき
潮騒は
永遠の座を退こうとする
これまでもこれからも
財宝は
何一つ約束を交わさない
けれどもそれは
語り継がれず
求めるこころの ....
眠る肢体の硝子の呼吸に
空の落下を錯覚する
心音の宙に浮いてきそうな静けさに
めまいしてうつむく不意なかたちで
水性のからだへと溶けそうで
うわ言をもらすあなたの手に
ドライフラワーを一輪 ....
夜空の道路状況はいつだって
盆暮れ並みの渋滞中で
高速通信は歩いている人に追い越されていく始末
こんな感じじゃ
にっちもさっちもどうにも
はかばかしくないのは見え見えで
さっきまで ....
冷蔵庫から ほろ苦い
コーヒーゼリーを取り出した
冷風吹きすさぶ 一番上の段
甘いフレッシュの上で
体育座りしている
君を見つけたのは
午後3時
ああ、寂しかったんだね
今日は ....
白い鳩
{ルビ貴女=あなた}の首のしなやかさ
円柱を飾る髪の毛が 池のほとりで、
緑の{ルビ水面=みなも}に 映えては、揺れる
くろぐろと
おまえの胸を 見せびらかせる
....
ばっさり斬り落とした短い髪に
唖然とたたずむ
(なんか、めんどくさくって
照れたように君が笑う
右の頬を隠して
僕の知らない君の夏
正しい折れ曲がり方なんて
よく分からないけどさ
....
額の汗を無造作に拭うあいつより
きれいに畳んだハンカチで汗を拭う
そんな男のひとに憧れてしまう
えっと…そんなひとなら
細い指先に挟んだボールペンを
くるくる器用に回したりして
わたしのこ ....
これはもの、
こわれものだから。
とっても大切にして、
こわさないで。
生きてないの、
これはものなの。
こわれてしまうと、
もう駄目。
こわれ ....
祈りを土に捧げましょう
記憶は
ひと知れず育ってゆきますから
たくさんの道で迷えるように
そのぶんしっかり
戻れるように
空を翔ける翼のない者たちは
すべての責任を
空に負 ....
人が創る地獄絵は
恐怖と醜さが鮮明で
人が想う天国は
幸福と美しさが不透明
人の批判は瞬時に知れ渡り
功績はすぐに消えてゆく
否定することはたやすい
ひとたび否定の沼に溺れれば
....
失われた街が視界のなかを流れる。
忘れられた廃屋に寄り添う墓標の上で、
目覚めた透明な空が、
真昼の星座をたずさえて、
立ち上がる高踏な鳥瞰図に、赤い海辺をうち揚げる。
繰り返し、磨きあ ....
うたたねをして目覚めると
一瞬 {ルビ黄金色=こがねいろ}のかぶと虫が
木目の卓上を這っていった
数日前
夕食を共にした友と
かぶと虫の話をしていた
「 かぶと虫を探さなく ....
この向こうに、
きみへの窓があると、
そう信じていた夏。
返ってくるはずのない、
手紙を書き続けていた。
....
しゃわーで汗を洗い流していたら
いつのまに{ルビ踝=くるぶし}が{ルビ痒=かゆ}かった
ぽちんと赤いふくらみに
指先あてて、掻く爪先も
痒みの{ルビ芯=しん}には届かない
見 ....
一羽の鳥が空をゆく
わたしには
その背中が見えない
いつか
図鑑で眺めたはずの
おぼろな記憶を手がかりに
爪の先ほどの
空ゆく姿を
わたしは
何倍にも引き伸ばす
こんな ....
数日前の夜
ホームページの日記で、
遠い空の下にいる友が恋人と別れ、
自らを罪人として、責めていた。
( 自らの死を越えて
( 生きる明日への道を見据えていた
( 彼女の瞳は光を宿し ....
そこかしこと 答えよう
こんど
愛が どこにあるかを 聞かれたら
そこかしこ そこかしこ
痛みの背中をさすりながら
そこかしこ
トイレを掃除しながら
そこかしこ
入道雲
道祖 ....
朝から風鈴が鳴るも
どこか寂しげなその音は
いつもよりも小さく
張りがなく聞こえる
昼にはセミも鳴くも
何か物足りないその声は
いつもよりも遠く
弱ったように感じる
夕方のテレ ....
夢に、夢に向かう背景には
軽く弾んだ音楽が流れていくので
踊ります君が、君として充分になるまで
僕は待ちますが、待ち惚けるのは敗戦なので
緑色の空が綺麗だよと言うと
君は送ってあげるよ、と
....
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