花束をもらったのは
もう随分前のことだ
大きくて赤い
松明のような花そのあかりが
次第に痩せて暗くなっていくのが
寂しかった
怪我をして入院中
病室まで訪ねて
炎のような花束をくれ ....
電車はもう乗り終えた
飴の袋もからっぽ
歩き出す
足元の道はごつごつしている
日の光は花や木にばかり当たっている
ような気がする
水が飲みたい
と思った矢先に
湧き水の立て札
山深く ....
月工場で
おじさんたちが
月を作っている
その日の形にあわせて
金属の板をくりぬき
乾いた布で
丁寧に磨いていく
月ができあがると
ロープでゆっくり引き上げる
くりぬ ....
歌の缶詰がみつかった
黒く水を吸った
砂浜の海揺れる昼間
味を知らない白い鳥が
つついても 食べられないから
不機嫌に おいていく
黒く夜を吸った
砂風の渦過ぎ去る木陰
のまれ ....
骨を飲み込んだ壁の絵は
歩けるようになった
かすかに影をいだいて
陽をひきずり
音を避けて
草の渡れぬ反対側へ
道に線をのせた
ぽとり と雨が
さほど濡れない
ひさしのついた壁の ....
明るい陽射しのロビーで
いろんな人がカウンターと椅子の上
ぎこちなく たっては座り
さしだされた指示に従い
通路と道路に歩いて行く
待たせた人々と共に
誰も待っていない人も
了解し ....
象といっしょに
列車を待ってる
朝からの温かな風が
服の繊維をすり抜けて
僕のところにも届く
こうして春になっていくんだね
明日はまた寒くなって
雪が降るそうだ
昔、象 ....
あの上り電車で何本見送ったことになるのだろう
別に数えている訳では無いし
有り余った時間を費やせればとストールの毛玉など毟りながら
外界と隔絶された待合室の硬いベンチに腰掛け
あの夜の顛末でも ....
不意に、もうひとり帰ってくる気がする
母は家にいて
私も家にいて
弟が帰ってきて
もうひとり弟が帰ってきて
それから父親が帰ってきて
机に張り付いて私は耳を澄ま ....
歩けない事が
空にのびていくために
必要なのだと
言い聞かせる事に
酔いしれ擦り切れ
根をかじる
悪食に
倒れたら
仲間になれそうな
錯覚を満たす
ひくことも
さることも
....
メリー、
それは細長い
木々の根元から枝の先までがちょうど、
ひかりだけ流れているようにみえた
夢みたいな夜
ぼくらは産み落とされて
地図だけを持たされていた
しずかに痛みな ....
買い物に出かけた初冬の街角で
あのひとの姿を見かけた
両の手のひらをパンツのポケットに入れ
開店前のパチンコ屋に並んでいた
私の姿に気付くこと無く
他愛も無い夢と引換えに大切なものを ....
さかなの星空はいつも
境界線でゆらめくのです
星空を落ち葉がよこぎり
岸辺のすすきも
月明かりに
にじみながら手を振って
失ってしまったときに
ひとはさかなになる
月だってゆら ....
近所の用水路で小さな魚を捕まえた
家にあった水槽に放し
部屋の日当たりの一番良いところに置いた
魚は黒く細っこくて
その頃のわたしは
なんとなくまだ幼かった
+
....
十月の林檎畑は小春日和
はしごの上に立って
林檎の葉をとり
少し位置をずらして
枝の下の黄緑の部分も
赤く色づくように作業する
手間をかけただけ
儲かるものでもないけれど
まんべんなく ....
廃村の外れで
垂れ下がった電線が風に吹かれている。
壁や窓を叩いている。
置き去られたカラーボックスに
アニメのシールがでたらめに貼りつけてある。
清掃車のオルゴールが近づいてく ....
元気になる権利があるので
いちいち弱くなる話は
しないでおくれ
朝からまた人の悪口言っている
どこから集めてくるの
そんなに悪いだけの人なのだろうか
どうせ にこにこと私と話していても ....
遠い空とつながったきみが
小さな点になる
それは消失してしまいそうな
さびしい孤独であるのに
ふしぎな水色に輝いている
逆さまから立ち上がるときのきみは
やさしい速度でやってくる
淡 ....
叱るつもりが
感情に身を任せ怒っている
自分の醜い姿に気づく
ひとは誰でも
誰かを叱ったり怒ったり出来ないはずなのに
自らの思いを通そうとでもするのか
声を荒げてみたり
ときは手 ....
ビルは氷柱(つらら)のようであって
交差点に、滴る微笑の鋭角が
夜はひときわ映える
空は無限の海にはあらず
月のマンホールに、僕らは吐き捨てる
ばらけた感情語
それを生 ....
世界中にできた闇の部分がすごいスピードでずれて
くちぶえが遠ざかり
輪郭線が地平線とまじわりながらかたちをかえて
あたしたちはまだうっすらと汗をかいて
雲の裏側にのびていく光の筋が不意 ....
片足を曳いて
空を登る
これは頂上から下げる予定の頭
導く、斜陽は赤く、大きく
目を伏せる、花は白く、不気味に
大きく
わたしを
きみを
祝福して
大きく散るだろう花の学術名を手探っ ....
あぜりの みちりに
うのつの そえて
ちりこむ すすりの
こうゆい まうて
ちちりん ちちりん
すずのて ようすみ
ちちりん ちちりん
すずりの てのまい
あぜ ....
紙に書く言葉を選び
心の住む所を明かす
季節の中 暦に書ききれない
熱と冷気がある
何度も歩いた生家前の道
しだいにその回数が追いつく
婚家前の道
道すがら挨拶をかわした人々
....
一. 八月の再生
それは何故か寒い八月の最期でした。
私は一人、窓という格子に挟まれた中の
限られた空を見上げて、煙管をふかしていました。
すると明け方の空がぼんやり ....
「免許を取るには、年齢位の金がかかる」
誰かさんが言ってた通り
33歳にして33万という金を
母ちゃんは惜しげもなく貸してくれた
二俣川で筆記試験に受かり
初めて免許を手に ....
朝の暖色の中
僕はもう名前を知らない
__君以外の
名前を知らない
薄透明の世界に息をして
僕はもう何も知らない
__君以外の
何も 何も
そっとキスをしよう
触れるよりもやさし ....
蜂の巣が近いらしい
家の裏山の方へ行くと
飛んでいる蜂と ぶつかりそうになり
私も蜂もあわててよける
洗濯棒の近くの花の中で
仕事中の蜂も時折いるけれど
そっと ぱたぱた 洗濯物をかけ ....
(1)
掛け声と干物の臭いに押し流されるようにして
昼下がりの賑やかさに身を委ねてみる
所狭しと商品の並んだ店先を覗けば
一見かと値踏みする手練の客あしらいに
思わず半歩後ろへ下がりつつ ....
気づいたときには、わたしが
わたしという輪郭に 縫いしろを足して
日常から切りとられていた
景色はいつも、ひどく透明なので
ふりかえっても もう
戻るべき箇所を、確かめることができない ....
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