黄緑羽
砂木

十月の林檎畑は小春日和
はしごの上に立って
林檎の葉をとり
少し位置をずらして
枝の下の黄緑の部分も
赤く色づくように作業する
手間をかけただけ
儲かるものでもないけれど
まんべんなく陽をあてて
おいしそうな赤にするのだ

と その時 蝉が鳴いた
昼すぎの二時頃
うぶ声のように蝉が鳴いた

十月十八日
陽射しは続かない
夏の生き者の住む場所ではない

殻を破り
透明な羽をひろげて
鳴き歌う喜びの歌は
そのまま 死の歌

たからかに響けば響くほど
あなたを受け入れない今が
よそ者のよその歌を黙殺する

葉をおとし 枝からずらし
一年の収穫を熟した赤にしようと
林檎を見守る同じ畑で

仲間もいない 暖かさもない
たった一度 手に入れた歌の虚しさに
気づきもせずに 
羽を持ち声を授かった喜びを
力の限り望む蝉

やがて 鳴声も途絶え
陽射しの暖めた一瞬に歌は散り

たくさんの暖かさに冷たさに
実が成熟するように
そっと 裏を返しながら

葉に隠れたままの
鮮やかな黄緑に
季節を問う









自由詩 黄緑羽 Copyright 砂木 2008-11-05 20:41:44
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