すべてのおすすめ
せんせいの言いつけ通り
いちにちに三度
色とりどりのくすりを飲んでいます
そのせいか
痩せこけたカラダもふっくりとし
わたしは死ななくなりました
(服用後は車などの運転をし ....
冷たいゆびで
摘まんだ雪は
わずかにかなしい方へと傾斜し
山裾の町は
湖の名前で呼ぶと
青い空の下で黙って
わたしの声を聞いている
凍った坂の途中から
見渡すと
連なる峰の稜 ....
雨の匂いがする
埃っぽい陽射しの名残りを弔って
闇に隠れ
秘密裏に行われる洗礼は
いつしか
もっと内側まで注がれるはず、
そんなことを
どこか信じている
陰音階の音だけ降らせ
目に見 ....
野良猫を叱るために
名前をつけた
せっかく咲いた花の匂いを
ふるびたさかなの骨で
台無しにしたからね
眠れるはずの夜は
色が薄くて
もう愛想が尽きた
昨日歩いた川べりで
....
予報どおりに
夜半から雨
街灯に照らされた水滴の連なりは、
白く
夜の一部をかたちにしてみせる
舗道の片隅ムスカリは
秘密を蓄え
雨に味方する
さわ、わ
さわさわ風に
雨糸揺れて
....
晴れて
水平線のまるみが遠い
海岸通りに迫る波は
テトラポッドに砕かれて
泡ばかりたてている
その水は
まだ冷たかろ
けれど青、
翡翠いろならば
思わず爪先で冒したくなる
散らばっ ....
むしろ、さくらではなく
今朝の濁った空色が
薄灰色の風となって
じんわり染みこんでくるのを
わたしは待っているようだ
三寒四温の春は寡黙に地を這って
あたらしい芽吹きを迫る
枯れ枝に ....
沈丁花の、
高音域の匂いがした
夜半から降り出した雨に
気づくものはなく
ひたひたと地面に染み
羊水となって桜を産む
きっと
そこには寂しい幽霊がいる
咲いてしまっ ....
白梅も微睡む夜明けに
あなたしか呼ばない呼びかたの、
わたしの名前が
幾度も鼓膜を揺さぶる
それは
何処か黄昏色を、
かなしみの予感を引き寄せるようで
嗚咽が止まらず
あなた、との ....
オリオンが
その名前を残して隠れ
朝は針のような空気で
小鳥の声を迎えうつ
わたしは
昨日と今日の境目にいるらしく
まだ影が無い
太古より繰り返す冬の日
あたたかい巣箱から
掴み ....
咳がふたつ
階段を上ってきた
夜の真ん中で
ぽつり
行き場を失ったそれは
猫の眠りさえ奪わず
突き当たった扉の
その向こうで
遠慮がちに消えていく
八十年余りを働いた生命 ....
誰も気付いていない
扁平な空と屋根の間に
ブランコがある
そこには
飛行機で行けないが
羽根をばたつかせても
到底届く高さではなく
梅雨にぬかるんだ地表と
レーダーに映る雨雲の間に ....
爪先で掻き分ける、
さりり、
砂の感触だけが
現実味を帯びる
ひと足ごとに指を刺す貝の欠片は
痛みとは違う顔をして
薄灰色に溶けている
こころの真ん中が
きりきりと痛んで
....
灰色の雨が上がって
ようやく緑が光り始めた
葉脈を辿る水の音さえ
響いてくる気がする
穏やかな五月の庭で
白いシャツが揺れる
遠くから届く草野球の掛け声が
太陽を呼ぶ
きみ ....
異国の時計塔を真似たチャイムが
終わっていない今日を告げ
青白い街路灯や
オレンジに仄めく窓の
表面をなぞる高音は
濃紺の夜に飲み込まれ
いつしか遠い列車の轍の軋みや
姿の無い鳥の声と同 ....
響いているのは雨音
夜が深くなると
それはいつか
遠い海に似てさざめき
わたしは
波に洗われたひとつの貝を思う
ところどころが欠けた貝殻は
すこしの闇を内包しており
誕生からずっと ....
湿った夜の破片が
蝙蝠となって折れ線を描く
低く、低く
やがて来る、雨と
灰色の朝は
かなしい、という色に似ている
里山の懐に
ちいさく佇むそこ、は
永遠の黄昏に向かい旅立 ....
灯りを消して
毛布に包まりながら
朝、からいちばん遠い眠りについて
意識の上澄みに漂う
屋根を叩く雨は
僅かずつ肌に迫って
やがて水の中に
わたしを浸してゆく
雨音は
美 ....
玉葱の味噌汁に
なみだを一滴入れてみたものの
塩加減は少しも変わらず
だれも悲しくなりませんでした
風の強い庭先に鳴く野良猫に
思いつきで名前を呼んでみました
ずざ、と塀を駆け上がる音 ....
浴槽のなかで
泣くと
温まった頬よりもっと
熱いものが滑る
首筋をかすめて鎖骨へ
塩を含んだ水滴が落ちて
水に溶けてゆく
こうしていると
かなしみはまた
薄い皮膚を通 ....
灰色に曇った窓の雫を
つ、となぞると
白い雨は上がっていて
弱々しい陽射しの予感がする
こうして朝の死角で透けていると
ぬるい部屋全体が
わたしの抜け殻のようだ
だんだんと色が濃 ....
きみに会いに行く
本当だった
列車に飛び乗ること
それも盲目ではなくて。
灰色の雨に流され
こころの小石が転がる
舞い散った落ち葉を踏みしめる音は
きみの泣く声に似ているから ....
わたしは夜を求める
濃紺の空と赤い星を求める
きみは夜を求める
藍の雲としろい月色を求める
ふたりが求めた夜の中で
風見鶏は廻ってゆく
流れ着く先を知らず
また
愛情、の何かも ....
まどろみの向こうで
たまごが焦げる
かしゅ、かしゅ、と三つを割って
手馴れた指は
ぬるく充満した昨夜の空気と
朝とを掻き混ぜたのだろう
ふっと白くなる意識と
休日の実感とを
贅沢に ....
海を見ている
さくり、さくり、
音をたてる足元の砂に
こころ揺らがぬよう
爪のかたちが付くほどに
手のひらを握り
海を見ている
潮騒に混じって
耳に届く ....
呼びかける名を一瞬ためらって
声は父の枕元に落ちた
あの日
医師から告げられた、
難解な病名は
カルテの上に冷ややかに記されて
希望の欠片も無く
黒い横文字となって嘲い
無情に ....
十月の、
霧雨に染みて
薄紅いろの細胞膜が、
秋桜、
空に透ける
十月の、
夕暮れの風に惑って
枇杷いろの金木犀、
満ちる、そこらじゅう
それらの
秋という色や匂いに混 ....
夏の名残を雨が洗うと
淡い鱗を光らせたさかなが
空を流れ
ひと雨ごとに秋を呟く
九月は
今日も透明を守って
焦燥のようだった熱や
乾いた葉脈を
ゆっくりと
冷ましながら潤ませ ....
雨音が
逝く夏を囁くと
水に包まれた九月
通り過ぎた喧騒は
もう暫くやって来ないだろう
踏みしめた熱い砂や
翡翠いろに泡立つ波も
日ごと冷まされて
さみ ....
真夏の陽炎の向こうから
短い編成の列車はやって来る
そのいっぱいに開かれた窓から
ショートカットの後ろ姿が見える
列車の外から
車両の様子は
ありありと伺えて
制服の脇に置かれた ....
1 2 3 4