右手が
左手を透り先へゆく
何かに触れる
何かを透り
さらに先へ


おおら おおら
ときく ときく
揺れに満ちる水
すきまなくすきまなく
兆しではなく  ....
捜してきます と書いたメモを
台所に置いて 家を出た 午前三時
まだ 真っ暗な道をひたすら運転する

公園 飲み屋のある所 よくわからない道
夫が 電話のひとつもよこさないで
友達と飲んで ....
風がずいぶん涼しくなってきました
青い空に
白い月が出ていて
どうして、涙が流れそうになってしまったのでしょう
よその家から漂ってくるカレーの匂い
僕は心の中の
小さな茶の間を思い浮かべて ....
臨月でお腹の大きい妻が呼んでいる。
僕はいつもの公園で二日酔いの頭を抱えながら、
三歳の息子と遊んでいる。

繰り返し繰り返し
同じ砂山を作っては壊し作っては壊し、
何回作っても彼の作 ....
ビルディングに
夕陽が飛び火して
鉄とコンクリートに
ほんのひととき
しょっぱい血が通った

ビルディングの
かりそめの心臓が
眩し過ぎたから
思わず目を細めて
微笑んだような顔をした

夕焼けが
 ....
 目には見えないが
 確かに巨人の朗読が聞こえる
 すぐ近くにいるときもあるし
 間遠いところから
 細々と聞こえるときもある
 詩や あるいは詩が

 巨人は聖書のゴリアテとは
 一 ....
歩き疲れて立ち止まる
道に雨が降り出して
静かに静かに降り出して
道に輝く石畳
次第に次第に濡れてくる
並木の青いプラタナス
静かに静かに濡れてくる

歯を食いしばり空を見る
見 ....
(てらてら笑うニンゲンはたいがい……)

ずっとむかし叔父のいった
そのつづきを思い出そうとする

(てらてら笑うニンゲンは)

 (たいがい……)

  (たいがい……)

  ....
*


ビブラートに揺らぐ空の裂け目を
幻視の鳥が飛ぶ


*


明滅をくりかえすビル群が剥がれ落ちる
 ((NYという記号を描くその一点として わたしが燃やされる))
 ....
蒸気機関車の車窓から
景色が後方へ飛んで行く
山は碧から朱に変わっており、
山肌には不気味な道が這い回る。

しゅっしゅらしゅっしゅっしゅ
しゅっしゅらしゅっしゅしゅっしゅらしゅっしゅ
 ....
平日は
ぎっしりと湿った砂が詰まった頭に
素敵な大人のお面をつけて
行列の最後尾で傾きながら
特別快速の通過を待っている

休日は
いっこうに衰えない逃げ足に
穏やかな家庭人のジャ ....
夕焼け色の空を見て
君は癒されるでしょうか
あの日、
海で見た
あの空のように
終わり行く一日を
溶かすように
僕らは終わったのでした

愛しています
と呟くたびに
コップの中の ....
産婦人科の女医の
知り合いもいなければ
メメクラゲに左腕を噛まれた
覚えもありません。
しかし、左腕が痺れてます。

左腕の痺れは
ネジの絞めすぎだと
何かの本に書いてあったので、
 ....
人の声がしていた
気のせいかもしれない
聞かなければ、
聞かずにすむのかもしれない

鬱蒼とした密林の獣道らしかった
薄日の差し込むそこは、鳥が時折 過ぎていく
朝ならばもう、あたしは学 ....
 ――知っていただろうが、

銀のフォークに刺したその柔らかな一切れが
まだ焼かれるまえには紅く鮮血が滴っていたのを
そして屠られるまえに荒く息をし、
「お願い、どうかやめて!」と叫んだのを ....
電話がかかってきて
行ってしまった
幸せになるんだ
といって

コケリンドウの
花をみつけた
ちいさな青
の付け根のあたり
淡く
消えそうなものに
私はいつも憧れる

たくさ ....
掴み損ねた春
踏み外した夏
逃げ切れなかった秋
静かに翼をたたんだ冬

幾つもの季節に晒されて
すっかり角の丸くなった
色とりどりの記憶を
ひとつずつ口に含む

もう何処も痛くはない
もう何処にも染 ....
ときどき
風のように想い出す


のようなもの

唇をとんがらせて
僕でない何かを
見つめてばかりいた

あの頃
あまりにも痩せ過ぎていた


のようなもの

 ....
 
 
水に音がする
今日、記念日
心臓がヒトからヒトへと
伝染していく
いくつもの屍をまたいできた命が
測量会社の裏口を叩く
内から命の返事がある
シャボン玉は飛ぶ
空へと延びる ....
いっぴきの蝉が
務めを終えたように 
仰向けに落ちて
空をひっかいている
親しんだ木々の幹に
戻る力はもう無い

おまえの瞳が
磨きたての宝玉のように
くろぐろと光をたたえるのが
 ....
{引用=



ふいに落ちてくるのは声
ねむりを破る声

とどまることなく走りつづける
でんしゃのなかを
でんしゃと同じ速度で疾走する男がいて
疾走する男のその努力をもし徒労という ....
転校をした
おかんが皆に渡せってシャーペンをくれて
終わりの会で配った
袋をあけたら裸の男の子の絵と
ちんちんぶらぶらソーセージって書いてあって
めちゃめちゃ恥ずかしくて
ばいばいも言わん ....
からっぽな心身にはなんでも入る
八杯目の焼酎も
ヒーリングミュージックも
ノイズも
精液も
入ったはしから空になる

ただ身体を通り過ぎてゆく
栄養にならない黒いかけら

歯も
 ....
花はどこへ行った

なんて問い続けるよりも大切なものが私たちにはあった
それが今の生活であることは否定できないし
ひとの望むものなんて目に見えるものに他ならないのだから

ありふれた結婚生 ....


その大いなる人々は
歌声と一緒にやってくる。
峰峰に雪を戴いた白い山並を越え
覆い隠すような人数で
その歌声と一緒にやってくる。
誰かのために歌う訳でも無く
止むことのないその韻 ....
あした と あたし は

よく似ている

あしたのあたし
あたしのあした

疲れきって
予定をぼうにふった
あたし

さて あしたはどうしよう

とろけそうな太陽に身をかくし ....
町には、
都会の路傍の実を摘み
ジャムを作る女もいるのです。

黒く指をそめながら、
けして与えられるものでも
買うものでもなく
何かを知るために。

立ち枯れる花たちが、
夏色を ....
空の青と
花の赤を
重ね合わせた
君の可憐のマゼンダを
追いかけ過ぎて
森の緑を彷徨った

森の緑と
空の青を
擦り合わせた
僕の弱虫のシアンを
飼い馴らせなかったから
花 ....
 光に目を凝らすと
 色彩が失われ
 あらゆるカタチはこわれている
 ひとつの塊にしかみえなくなっている

 蠢くものの姿がみえない
 ほかと選別できないから言葉がうかびあがら ....
夜の散歩に出掛けた際に
無数の小さな光たちは
私を少年時代へと連れていく

できるなら、ここへ来ることは避けたかったのだが
不意に遮っていったかつての残像は
無罪の色をしていた


 ....
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