丘の上に立つと
夜空にはたくさんの発光体が
空に向って地上から降り注いでいるのが見える。
一様に
ボーっと輝いているが
明るさにはほど遠く
夜空に闇に吸い込まれて行く
....
本当の名前なんて
一度も書いてあったことがない名刺を
感じ良く差し出す空っぽな指先
本当に行きたい場所へ
一度も連れていってくれたことがない
少しくたびれた空っぽな向う脛
どん ....
その橋の欄干から身を乗り出せば
清らかな流れの中ほどに石ころだらけの中洲
別段、川の流れに抗う姿勢をみせるでもなく
上流に夕立でもあればあっさりと荒くなった流れに呑まれ
ちょうど今ごろの季 ....
ジョルジョ・デ・キリコの静止画
大量に発汗する
焦るぜ
外気温 摂氏三六度三分
平熱だと医者は言う
医者の持つ寒暖計はデジタルだが、
モノクロのため眼がしょぼつく
熱 ....
ブラックニッカに飽きてきて
ジャックダニエルに買い替えりゃ
詩の断片すらも浮かびやしない
おのれジャックダニエルめ
おのれ貧相な俺の味覚め
確かにブラックニッカは280円だが
ジャック ....
五つとひとつの指で実をささえ
右は左の午後を見わたした
こぼれゆくものを
見わたした
鉄とガラスのはざまの蜘蛛
ずっと光を投げつづけている
陽でも灯でもない
雨の ....
抱いて
あなたが
海を渡ってしまう前に
強く
優しく
あなたの印を
いっぱいつけて
あたしを
ふるわせて
ねぇ
抱いて
身支度をする前に
とろける ....
目の前の何でもない風景は
独りの画家が絵筆を手に取れば
真っ白なキャンバスにあらわれる
一枚の美しい夢になる
たとえばそれは
{ルビ陽炎=かげろう}揺らめく夏の坂道を
杖を ....
中空に浮かんだ茶室
山の麓の回廊から眺む
山門をくぐった時から降り始めた
しぐれ雨
下界と山荘の次元を断ち切る結界のような様に
主人は爬虫類のような横顔を魅せ
染みと皺だらけの表情は
客 ....
土曜日のお昼ゴロ
テレビの前でゴロゴロ
珍しくないから
昆虫図鑑にも載せてもらえず
面白くないから
観察日記にも書いてもらえず
疲れやすいお年ゴロ
リモコン片手にゴロゴロ
....
線路の向こう
ビルの谷間の三角地
そういう辿り着けない場所に
オレンジ色のコスモスが
揺れている
ささやかな風景は
しかし、すぐに電車の音に
塗りつぶされてしまう
それでも
元気 ....
{画像=110812064713.jpg}
不純結晶さ
おれたちは
ただ座っているだけで汗を出す
....
鯨は賢いから
殺してはいけないのだと
海の向こうでは騒ぎが続いている
賢くないわたしは
きっと殺されてしまうから
その前に沈んでしまおう
深く、深く
肺が潰れてしまうところまで
....
あなたは
決してわたしをゆるさなかった
はじまりの
隠しあう接触のぬくもり
黒くながれおちる髪を
手櫛でやさしく梳きながら
洩れる水を袖口に運ぶ
清潔な距離がくれた
まどろみの ....
背中が痛いよ
見上げればお月様
おなかが重いよ
だから
筋肉を伸ばしたり縮めたりするよ
今夜も
夜を着て
招けば水が湧きいずる
鏡に立木や鷲をうつしながら
わず ....
前の街で
俺は淫売宿のいかがわしい玄関口で
夕立に打たれて濡れながら歪んだ
恐ろしいほどの雷は
地上の何物かを鷲掴みにしようと
空から腕を突っ込むが
本当に一握りの無辜の生命を食い物にした ....
夏
あぢ
なんか、快晴ではない
曇っていて
空気がじめっていて
あぢ
あぢい
君と別れるとさ
俺はもう
切なくて
切なくて
なんか、夏祭りらしいんだけども
俺、見学も参 ....
悩んだときは
ブラッドオレンジに染まる
マンションの給水塔の上に立ち
三百六十度 この街の大パノラマを この眼で捉え
瞳を閉じて シャッター音を鳴らす
沢山のネガが出たら
その上 ....
何かの工場でも移転したのか
住宅街の真ん中にあられた大きな空き地
その空き地を取り囲むようにはためく斎場反対の白抜き文字
いつまで運動は繰りひろげられていくのだろう
はちまちをした町会 ....
アンカーに係留されている大型船
岸壁の縁に並んでいるビット
その上に座り俺をじっと見ている猫は
俺を町中からここまで連れてきた。
俺は猫に話しかけた。
ポケットから取り出した小さな煮干し呉れ ....
陸地では使われなくなった文字が
水槽に降り積もっている
僕はエスカレーターから
その様子を眺めている
前の人の袖が
風のようなものに揺れて
明日になれば
おそらく別の人の後ろ ....
雨の日には川辺に佇んで
君はいつも微笑んでいた
横顔に纏わりつく細い髪の先へ
指を伸ばせば大気は凝って
堅く透き通っていく指先
眸の奥へと逃げる想い
澄んだ硝子玉のよ ....
日本海にしずむ
落陽は
おおきくて美しい
と、ラジオでだれかが言った
*
かつて
五島灘にしずむ
落陽を
―― オレンジ色のおおきな
....
{画像=110806230826.jpg}
ホームに止まった電車の窓越しに見える
同じく所在なく立つ隣人を想う
二本の平行した線路上に交わる事なく
二人は未来永劫交差することは無い ....
逃げ場をなくした熱気が
重く澱んでいる夜の底で
線香花火に火をつけると
涼やかな光の飛沫が
覚めやらぬ地面にほとばしる
しつこく素肌に絡みつく
湿り気を含んだ風の端に
弾き出され ....
カラヴァッジョ
光と闇の迫間に浮かびああがる人物
ダブリンの教会に浮かび上がるキリストの捕縛
400年もの間の行方不明の光
あり得ない光と闇のコントラスト
グラデーション無しの光の隣
....
{画像=110804030328.jpg}
傷つく想いと傷つける想い
どちらが重くて痛い?
独り帰って涙を流がす時
わたしは誰かを傷つけている
だから ....
6ヶ月と13日間、待って待って待ち続け
ようやく巡ってきた
太陽を借りる順番。
昼休み、
市の職員から職場に電話がかかってきたとき
黒犬の奴は本当にうれしそうで
その日の午後の得意先回りで ....
おとなになればなるほど
母親からはなれていく気がする
きょう、わたしはかれの妻になるけど
ほんとうは母親にハグしてほしいと思っている
ほんのこどもなのだ
天国だとか
ほんとうもうそ ....
その箱のなかには夢が溢れていた
幌馬車に乗っていたり
早馬にまたがり二挺拳銃は火を噴いて
またあるときは電話ボックスから秘密基地へと飛び込めば
誰もが海の向こうの豊かさに憧れた
....
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