初夏の光
ひとつ前の駅で降ります
虫かごもないのに
+
栞はかつて
誰かの魚でした
本の中で溺れるまでは
+
夕日のあたたかいところに
古いネ ....
一面の草むらから、湧きあがる青い空。
向き合うわたしの窓は、青い空をもたない。
手にした一枚の写真を見て、
水を得た魚のように泳いだ海は、
黄ばんだ家族の笑 ....
屹立した断崖に守られた
小さな浜である
波は平たく伸びて
漂着したものたちの空ろを
静かに洗う
持参した
小瓶のコルクをひねると
砂つぶのような詩がこぼれて
波にさらわれてゆく ....
清しく、邪な風に
華奢な下肢をさっと隠した
裾広がりの白地に
ピンクの薔薇の咲くスカート
立襟のブラウスに
光る栗色の髪を
ながく垂らし
ただ、甘く春に散る
花の匂いを漂わせて
....
二番地の内田さん 前田ふむふむ
白いあごひげをはやして、美味しそうに、キリマンジェロを飲む、二番地の内田さんと呼ばれている、この老人は、若い人と話をすることが、何よりも好きだ。よく、真面目 ....
森の夢―古いボート 前田ふむふむ
1
青い幻視の揺らめきが、森を覆い、
緩んだ熱を、舐めるように歩み、きつい冷気を増してゆく。
うすく流れるみずをわたる動物 ....
素足に若草
浅く緑の
木々は萌え
目眩するほどに
花曇りの日なら
なおのこと
生まれたてのそれらは
やわらかに躍る
耳に愛しい鳥の名を
春になるたび
あなたに訊ね
匂い淡しい ....
風を
くぐりぬけると
また新しく
風がある
ときにあばれて
ときに乱して
かろやかだったり
微かであったり
あらゆる表情を持ちつつも
ひとつにまぜた
名 ....
光は満ちてゆく
花のような小舟を浮かべて
ふたたびの光は寄せてゆく
まだ浅い夏の水際に
片足を浸して眺めるだけだ
ドアを細めに開けて
そっと知られぬように
飛び立つ小鳥を慈しむよ ....
静かなサーカスから 流星を追い越して
痛みの隙間を 夜明けが埋める
眠れぬワインで嘴濡らす
ジェラシーに踊る海燕
群青の恋を抜け
空の終わりへ 羽ばたく
傷だらけの翼をいたわりなが ....
安否された記憶をたどり
行き着いた先にはあなたの島
正午の光も 豊満な裸体も
燃えさかる海へ流される
原色のサルがなき喚く森で出遭った奇怪な蔦をもつ植物たちよ
その乱暴な肢体からは緑の湯気が ....
駱駝は人手に渡してしまった。
少しの水と、一日分の糧と引き替えに。
だから二人の娘は手をつないで歩いた、
月下の沙漠は、
はろばろと二人の前に広がっていた。
邪恋の娘ども、と囃し立てられ ....
窓際からの風が
僅かに
ほんの僅かに
口角を持ち上げては、
私を彩る
それは
ふらつく指先から
あなたの
瞳までの距離を
計ろうとする度に
....
「新体詩抄」(明治15年)の序文は日本伝統の和歌や俳句からはなれ、平俗な日常語による自由詩への道をひらく契機をはらんでいたが、その実作は七五調中心の文語定型詩であった。それも作品の完成度からいうと、 ....
俺は相変わらず墓標を背負いながら歩きながら歩いている
お前らにとっては久しぶりだろうが
俺にとってはまあ昨日の今日みたいなもんだ
で、気がついたら
いつも俺の詩みたいな文章みたいなもの ....
赤い夜明けの子守歌。
青い果実が交わす密談。
緑の森に蝶の舞う音。
黒の墓場に響く慟哭のオペラ。
白兎が沈む沼のため息。
黄金の地平を巡る聖歌。
君は歌いながら旅をする。 ....
01
椅子に椅子が座る
約束は
決して泣かないこと
色鉛筆に魚が群がって
明日の支度をしている
02
階段は優しい
黙って骨を集めてくれるから
時計を正しく合わせ ....
でんぱんされたきもちのはしら
えんをえがきてこをまわる
あなたのしめしたひみつのとびら
むらさきひすいのだんれつと
しろわたげにつつまれしこえなきこえ
えいえんのしもべたりて
....
剥げてゆく空の下
車輪まわり、まわり
金の音さらに、
さらに遠ざかりゆく
緑金の春に
*
やあ
俺は
くちべたなんだ
どういうわけだか
とても仲のよいはずの奴と話していても ....
この腕の千切るるほどに遠くまで投げたきものは春のみずうみ
一
真夏の昼下がり。
海へと向かう埠頭をめざして
ただ、闇雲に走るのは
未知のウイルスに侵された
一匹の狂犬。
ザー、ザーと耳の奥で
鳴りつづける不気味な雑音。
熱を帯びた鼻 ....
「せんせいのては やさしいかたちしてるね」
いきなり言われたので
僕は自分の手をじっと見た
どうみても普通の手だ
「どういうところがやさしいの?」
血管がういて筋張っているし ....
夜のしずかなさんごの
いきをひそめる宵闇夜
青ぐろい街の空を
マンタレイが滑空するころ
天体望遠鏡をのぞきこんでいた
ちいさな天文学者は
ベランダで眠りこけて
あのちいさな星 ....
どこかのひるがえりに花が咲きますと
はじめの足跡が海からバサって上がってきます
空にはたくさんの巨人が腕をのばして飛んでいる
巨人のTシャツには
春風とか桜とか
或いは一番とか神風とかプ ....
春の雨に隠された怖れを彼女は見ている
幾つものしずくに映る逆さまの世界を
彼女は見ている
からだの動かし方は知らない
時代がかった衣装の代えもない
おひな祭りというものが過ぎて
誰かさ ....
飛び立つ後ろ姿を
どこかで見た
朝
の記述を
探して
黒く浮かぶ
記憶の島を探し
脳内を辿ってゆく
鳥
ほの明るい
Cellの海の
上空に浮かび
....
)鳥が叫んでいた、音楽の道。(僕はその先に小屋があって、小屋はビルの一階になっていることを知っている。沙漠の拡大は羞恥心により妨げられている。ビルの屋上から沙漠は始まった。音楽が細く放射していく、僕の ....
春 一つを
この大地に 零し落として
木蓮 水仙 桜
路地の片隅に土を得た 草草の息吹
空は華やぐ靄で満ち足りる
陽光は語りつくして
艶やかに花 花を荘厳する
春を ....
きみが少し元気なときに
庭に植えた白梅に
真珠の粒がころころと
それは春の序章とも言える
きみが好きだった春の 前髪が見えて
それはきみの季節とも言えるが
メディアから塗りつけられる春 ....
友人のYは、ショッカーに所属している。
無論、悪の秘密組織に在籍している訳であり
人様に堂々と胸を張れる仕事では無い。
例えそれが女房、子供を必死に養う彼なりの生き様だとしてもだ。
だがマスク ....
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