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真っ直ぐな群衆の視線のような泉が、
滾々と湧き出している、
清流を跨いで、
わたしの耳のなかに見える橋は、精悍なひかりの起伏を、
静かなオルゴールのように流れた。
橋はひとつ ....
て、手を伸ばして
やわらかくてをのばして
その、影
ぼくらに届いて
君は
ぬりこめられて
たいよう
やさしくしずみこみ
耳のあな
つぼみのように閉じ
ふとんを頭からかぶ ....
は
なので
しないでください
通りすがりの商店の
入り口の看板
赤い文字のところが脱色して
(何故たいてい赤なんだろう)
黒い文字だけが残った
「葉なので ....
胸に潜む
沈黙の種子よ
忘れえぬ時の傷みを孕み
切り立った断崖に木霊する
エクリチュールの犇き
伝えられなかった想い
その亡骸
堆積した土塊でできた
テラコッタ ....
ほら みて
ふってるよ
と
あなたが言う
窓の外をみると
ぎゅ っとひざをかかえた雪
みたいな雹が
こつこつと
じめんにおちてきた
なんだろうね これ
ひょう ....
・
駐車場で暮らす人と知り合いになった
駐車場の
車一台分に四角く区切られたスペースに
うまくお布団を敷いて
机を置いて
入れ替わり立ち替わりする車のヘッドライトを灯りにし
雨が降れ ....
街に日が射して
コンクリートの
続く壁面が白く発光しているのを
たよりにつたって
あるいて
その擦り傷のようなざらつきの
わずかな影のさき
壁の尽きるところの
晴れや ....
沈黙を背負って
靴底でぎしぎしと踏みしめる
切迫する、向こう側の山脈
中腹をトラバースして呼吸を整える
眼下に河はながれ
山頂にだけそれがある
いま
あの日、に立っている
右手をのばし
空の高さを測るきみ
手招く左手は
薄の穂の間に
見え隠れして
黄昏の
目で追う背中には
金色の翼があった
喧嘩しても
すぐに忘れ ....
夜明け前
神々の気配が
冷えた大地をわたり
静かな{ルビ洞=うろ}に届けられると
指さした方角から
蒼い鼓動が、はじまる
やがて
優しい鋭さをもって
崇高な感謝があふれだすと
う ....
熱く、季節が
とばされていくなか
黄金に、ビルが
白い、壁が、こんなにも
強く、握りつぶした飛沫が、散って
染め上げていくなら
いま、青ざめながら
....
信号の青が延延続いてて
都大路を駆ける跳ね馬
目の前の妖しき影に いぶかるも
あげ羽蝶なり 思はず和む
草の実も少しふくらみ見えてきし
秋に入りゆく風の移ろふ
目の前に子蜘蛛落り来てテーブルの
上を正しく距離おきて飛ぶ
....
確かなる音して机上にベコニヤの
花ガラ落つる物読むときに
賀茂川の段差の水も春めきて
吾が影長く 流れに写す
草伸びて 足にまとえる散歩路に
踏み行く処 つつじ咲きつぐ
雨 ....
真向ひし雪大文字に息呑みて
崇高なる美に心洗わる
鴎には雪が似合ふと久々の雪積む
景色川辺に立ちて
乙女子が幸せそうな顔をして
隣に座る夜の地下鉄
口紅をつける事なき此の日頃
....
波打ち際で
砂に埋もれかけた
木製の小舟が
少年の夢にたたき起こされ
夕映えに浮かぶ
かもめが船頭になって
赤く染まった海を進んでいく
静まりかえった海面に敷かれた
赤い絨毯は
....
まどろみながら
僕が見失っていたのは帰る場所だった
それとも
もしかしたら行き先だったかもしれない
目に見えるものの手触りを確かめて
それをどう思えばいいのかを確かめていた
孤独な色だ ....
哀しみをうたにしたいのだけど、
感情は言葉になる前に溶解して、
つるりと喉の奥へ消えていったよ
哀しみはどうにか優しくなろうとしていたのか
最後にスープのような、甘い味がした
誰 ....
排気音が高く
高く空へ昇って
陸橋を走るぼくは
町並みに連なり
息づかいみたいに
浮かされて
白くあからさまな
積乱雲を
水平して
開けていくにつれ
早く
....
木陰で体温の
呼吸する
と、内と外とが入れ替わり
境目に懐かしい
わたしのかたまりがある
施設の人と集配車の運転手が
簡単な口論をしている
近くのベンチで関係のない
小柄な男性が ....
幼い子の背をひらくと
痩せた背骨の喉奥を渉る
薄ぼんやりとした虹が、
そして
拾うように弾き上げると
それからは早かった。
飛んでいく静かな底の
透明な成長が、
....
幸福の置き場所は
海のにおいのするところ
大事な言葉が生まれたところ
風がとおりすぎて
小さな駅におりると
細い道の向こうがわ
手に持った荷物の
不安定な重さが
私であることの証
....
ひらひらと散った 夏
インディゴブルーに染まる、前に
秋へ化けた
通り雨が隠した
暗い雲に気を取られてしまった
春
もう二度と出会えないかもしれない ....
この連作「そろもん」は、五行というフォルムそのものがテーマでした。大局的には、それ自体が現代詩的構文のアンチテーゼとして機能することを目論んだと、とりあえず言っておきます。でも内実は、きわめて個人的な ....
白い俎板のうえに
水洗いした秋茄子をのせる
遣い慣れた指先でまず、
縦半分に切ると
紫に汚れた
君は構わず
それを乱切りした
その一部始終を
彼らは黙って
観ている
増水の ために
すっかり 荒れはてて しまった
堤の かよって ゆく なかを
猫じゃらしを 噛み ながら
草ひばりの 音が ほそぼそと つづく
すすき野原を ....
八月はしづかに
葉先からくれないに燃え
白い節くれだった骨になる
そのつつましさの中に
芽吹こうとする強い意志を隠しもっている
漂流する鳥たちは
わずかの間のよすがを求め
自らの骨のゆめ ....
蝉の鳴かない朝でした
胸の端からほどけてゆくひかり
できたばかりの海は睫毛に乗る軽さ
静かに浮かぶ顔に人知れず声を燃やす
髪を結んで横たわる
約束、と呟いて水より生まれし数字を ....
二十歳の黒髪のような、
ブルックリン橋から、曙橋を繋ぐ空が、
未踏の朝焼けを浴びてから、
青く剥落して、雨は降ることを拒絶した。
とりどりの青さを、さらに青く波打って、
空は、傘を持たずに、 ....
秋、
そのつぎの
ひめくり
菱形がつらなって
つかめない
光のドロップ
ひらきっぱなしの
本の表面に
ゆらめいて
今
今が
かたむいてゆく
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