朝の光で窓を見つけました
冬の白に続く窓
夜にこっそり開きます
その道は
街灯の小さな明るみの中に
白く浮かび上がっていた
様々な思いが通り過ぎていった
その白い舞台の上を
今日は
消え残る足跡がひとつ
闇の中に後ずさる
風が
粉雪と共に ....
朝 起きてくると
窓越しに
遅く咲いた百合の花があって、
君はガラス越しにそれを見ていた
こちらを振り向くこともなく
台所では
しじみが口をあけてことりと音をたてる
僕は煙草 ....
太陽が隠れ、雨が降っている。
駅から、歩いて帰る途中、
だれもいない、
公園による。
幼いころ、よく公園で待たされた。
雨が降っていても、
寒さで凍えながら、
靴の中が水で濡れても、 ....
先に子どもたちの声が消えた。流氷のひしめく冷たい海に放り出さ
れた私たちの生きようと叫ぶ声がむなしく響く。この海のなかでは
私たちは完全に無力であった。この冷たい氷の海のなかでは。
脱出を試 ....
空を
どこまでも飛んでみるということを
振り返った視線の、端のほうの夢の中
ほんの少しの香りで、漂っている
今、この辺りで
いつのまにか、梯子がなくなっている
あの木の ....
たあくんが生れてこのかた
ユキちゃんはめっきりむずかしくなりました
もう三歳 なんだけど まだ三歳
父さんとは手をつないで歩こうとしません
母さんにだっこをせがんでは
えんえん 泣いてい ....
その頃
ぼくらといえば
美しい霜のうえを
自転車で完璧な曲線を
描きながら
ふるえる独奏者としての
ふるえるりんごの夕陽のことばを
所有してました
複雑なぼくらのようなわたしたちの
....
*
文献によればビー玉沿線の原形が見いだされるのは乾永4年というから
はるか安土桃山時代まで遡る。むろん当時は鉄道の概念はなく線路など
というものは存在しないがビー玉を直やかにすべらせるた ....
ひがのぼり
ひがしずみ
またひがのぼり
そんなまいにちを
まいにちみているのに
どうしてぼくはそのとき
におびえてしまうんだろ
....
冬の木漏れ日の中で懐かしい歌を聴きました
懐かしくてももう泣けない自分がいました
それが寂しくてそっと瞳を閉じました
太陽が淡く輝いた冬の日のことです
太陽 ....
たろうを眺めるたびに
こそばゆくなる
こそばゆい
こそばゆい
こそばゆい
くうらんの何にも入っていないあそこから
押し寄せる
大群
真っ赤な
魚
のわたし
たろうを眺める ....
車に轢かれつづけた傘が
側溝の泥のなかで鳥になり
やせた鉄の羽をひらくとき
午後の空はもう一度泣き
街をゆく人々の手を濡らす
皓々の ひかりひきさき
にぎぇええああおう
いぇえええああおう と
なきたるものの
なんとせわしき吾が鼓動
そのきりさかれた
ひらひらたる一篇を
口に含みて
とばりのむこうへいけと な ....
ギターが
なりひびく
ギターが
なりひびく
ギターが
なりひびく
ギターが
なりひびく
ギターが
なりひびく
地下1Fの五叉路で。
写真立てには何も入って ....
娘は将来アイス屋になりたいと言う
好物のアイスを好きなだけ食べられるから
ではなくて
沢山の人を幸せにしたいからだそうだ
いっしょにお風呂に入ると必ずその話題になって
バニラ ....
たぶんみんな知っている
本当は女のアレの中に男のアレが入っていないことや
男のアレに添えた手の裏側に白い液体入りのスポイトが隠されていること
つまり薄いに越したことはないけれども
丸見えを望ん ....
「きょうはパパとおふろにはいるの」
ユキちゃんはすでにすっぱだかで
あたりをとことこ歩きまわってるので
父さんもあわててすっぱだかです。
シャンプー シャワー
ちょっとした格闘のすえ ....
「父さん」
「うん」
「もうすぐ俺、初給料日なんだけど」
「そうかおめでとう」
「なにかほしいものある?」
俺の目には父は典型的な仕事人間で
週休二日制になっても
土曜にはいそいそと ....
もはやどのような風も
ヨキをつれては来ないだろう
だから
おおみえ きって
つづくかぎり 叫んでやる
つまさきを地平にむけよ
つまさきを地平にむけよ
ふり ....
船の停泊しない
図書室には
匂いがない
ブラインドの隙間から
斜陽
カウンターに落ちた
向こうで
司書が背中の羽を
二度動かす
白い付箋のはられた
いくつかの椅子は ....
そら、なのか
から、なのか
どっちでもいいけど
「宙」と書いて「そら」と読ませるよりも
「空」と書いてなんと読むのかわからない
そんな曖昧さがわたしはすき
そら、だったのか ....
あるく
そぞろあるく
奥にあるものに かたる
いらえをあてにして かたる
かたりながら だまって 歩く
歩く
やあ、なんという沈黙
雲さえとうに まいちった
がりがりと ....
おとうちゃん しっぷ はらはる
あかんもう年や、ゆうて 腰に貼らはる
おかあちゃん むね はらはる
もうすぐあかちゃんくるんやで、ゆうて むね張らはる
おにいちゃん テ ....
写真をとるとき、
かならず右かた側が少しさがっており
横にならんだ左かたにふれ。
そのくせが
どうにもゆかいで。
どうやらおまえのたましいは
すこし ....
くそ じじい と
おまえは また そのすこし
ぽってりとした くちびるを ゆがめて
はきすてるように いうのだろう
なんだよ と
ふたりのあいだにある へだたり ....
『やっぱりおおかみ(佐々木マキ、73年、福音館書店)』
0(プロローグ)
(おおかみは もう いないと
みんな おもっていますが
ほんとうは いっぴきだけ
いきのこって い ....
(おとなりのワンちゃんは犬次郎といって
生れたときから
ネコとばかり暮らしてきたので
自分がネコだとかたく信じています
イヌがやって来ようものなら別の動物ということで
ワンワン ....
うっかり逆方向の快速列車に乗ってしまったり
足の小指をイヤというほどタンスの角にぶつけたり
外出直前どこを探しても財布がみつからない
そんな時
母の背中を思い出す
ぼくと弟がびりびり ....
夏至祭の夜はちょっと冗談じゃすまされない
めくるめくまばゆい星空で
あちらこちらで星タバコの煙がたなびいて
あたしは楕円形の星座早見表を片手に
例年どおり田んぼのあぜ道で
偶然を装って土 ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66