駅までの道を雨の中歩いていて
改札に入ろうと財布から定期券を出して手に持って
けれど指からすり抜けて濡れた道路に落としてしまって
だから拾おうと僕はしゃがんで
水の流れるアスファルトを爪で引っ ....
一 「ミッシング・ピース」
手渡されたたった一枚の
欠けた切符のように
行き先でもなく
日付でもなく
空白のはずなのに
それ以上に大切なものを
どこかに忘れたまま
....
近頃やたらと
涙もろくなっちゃった
なんでかな
自宅で映画の予告編を眺めていても
気がつくと
ぽろぽろしている
自分に気付く
やっと梅雨入りしたんだってね
紫陽花は
お隣 ....
単純に奇声を上げて喜こべる
子等に渇きし心ほぐるる
ねぎらいの言葉を明日はかけるべく
目覚時計の ねじを巻きつつ
奴凧吹かるるさまに幼子が
犬を追い行く 梅雨の晴れ間を
苔庭に ....
六月の雲がゆっくりと上に迫る
スーツの男が鞄の傘ではたまらず駆けだす
かたわらでぼくは
そっとつままれたまま
雷と雹を孕んだ姿で
上下するのどぼとけに合わせた
きみの乳房を
後ろから ....
りんごの皮を剥いていると
こんなことを聞かれたのです
それってさ
どっからりんごなん?
絶句しました。
応えをいろいろ考えたものの
どうにも私には答えられないということに
いきつ ....
―半眼 仰向けにソファからガラス棚の中へ
帆船模型の帆が擦り切れる様を想像して、視線を窓外に移せば
季節の欠片がもろもろと崩れながら天気雨に縫い付けられていくところだった
中庭の、陽の当た ....
*プラットフォームから
色とりどりの屋根が遠く連なって
その上を目を細めてなめて
果てに一本の灯台を見つけて喘ぐ
夕刻でも陽は照りつけて
灯台は
小さく真っ白に
発光して ....
買わなければいけないものがあるのに
あなたはまた、あなたに似たものを買ってしまう
部屋はあなたに似たもので満たされていく
あなたに似たもののほとんどはいらないものなので
あなたに似たものがなく ....
街灯で
ところどころ熱病だ
この道では
駐車場まで
浮かされて
君 という名前を僕しか知らなくて
僕の名前も君しか知らないだろう
それが夜の景色の中で
電柱の隙間で影を重ねている ....
祝いのメロディのなか
少し照れたおまえは
肩をすぼめて優しくゆれている
ななつのロウソクの灯を
遠く、近く
瞳に映して
{引用=
おまえの生まれたときを思い出すよ
(パパ、気絶しち ....
はしゃいで飛び込んだプールの底に顔面を泣けるほど打ったけど
涙をプールの水に紛らせ笑った夏でした
カルピスが痰みたいに絡んだけれど
白くて甘い夏でした
台風で傘が根元から折れたけど
....
「観月橋」
せせらぎの音は
いつのまにか、ざあざあと鳴り
錆び付いた欄干が
しとどに濡れる紫陽花の、夜
ここには愛づる月もなく
ただ名ばかりの橋が
通わぬこころの代わりに、と ....
木の芽煮る 香を家中に満たしめて
仄な気息に浸る一時
柚の香のたつ厨辺に春の雪
硝子戸越しに舞い上がりゆく
咎むること胸にある日は釘までも
せんなきことに吾が服を裂く
雨の音聞 ....
#10
花
呼び鈴が鳴った。古アパートの玄関を振り返る。こちらが開けるのを待たずに硝子戸がガラガラと乱暴にひかれた。
女が一人立っていた。
赤子を背負っているようでねんねこ ....
#7
夏の雨
少年の夏の葉には蛇の抜け殻の模様がついている
彼があの時流した涙は自己嫌悪の錆びた味がした
乳飲み子の口に含んだ乳は黄色くて甘い 母からもらう最初の贅沢
一 ....
彼の内部には常に殺戮の音楽と黙考が混在していて、彼に付随する糸という概念はその両者の結合のための不可解な生命の観念であり、同時にそれまでの彼の存命の象徴であり、僕は彼の糸そのものとして、他者に与える恐 ....
きのう
蒔かれた種が
もう 発芽へ発芽へと
夏が至るまでのあいだ
止まらない
エスカレーターの列は長く
せめて みどり色を思い浮かべる
わたしとは
違う人たちに前と後を
挟まれて ....
もしもし、オレだよ。
3年前、心地よい概念に吸い込まれたオレだよ。
ほら、何でも二律背反にしてしまうオレだよ。
大変なことになったんだよ。
是非、振込んでほしい。
もしもし、オレだよ。
....
弟はいつの間にか
僕の背を追い越していた
身長をたずねると
三メートル五十七センチ
と言って悲しそうにうつむく
明日になれば
弟は遠いところに連れて行かれる
多分頭のてっぺんも見えないく ....
台湾坊主荒れ狂ふニュース報ぜらる
吾家の前に鳩は遊ぶに
しきたりに鰯匂はせ豆まきて
平和を祈り節分祝ふ
待望の雨はほこりの匂いまで
室に運びて心和めり
みがきゆく茶碗の白さに ....
階段の一段目にある
農村を踏まないように
慎重に飛び越える
出前の人が誤って
畑の上に器を落とした
突如あらわれた
ミステリーサークルにより
村の人々は大騒ぎしている
ことばにならないこと
ことばにするから
やさしい
かたちをもたないもの
かたちにするから
たのしい
なんでもあるようで
なんにもないせかいと
なんにもないようで
なんでも ....
#6
屋根裏の姫
廃屋となった古い旅館を安価で買取り、なにやら得をしたような気分で引越しをした。築100年の余を越え、廊下の椋の板も黒ずみ真ん中がへこむ。梁や柱の材も曲 ....
#5
一対の腕
それは決まって一対の腕で、上腕の真ん中あたりから唐突に存在していた
人のものより少し大きめの掌とごつごつした指と固い筋肉を持ち、
丁度そこに人が一人いるよう ....
#2
雨の魚
雨に濡れながら歩いていると
死んだ魚の匂いが漂ってくることがある
湿った空気が ねっとりとまつわりつき
地球が水の星だったことを思い出す
そんな時、あたし ....
青空が映った瞳は
力強い光の匂いがする
その目が捕らえるものは
枯れた幹でさえも
息吹きが聞こえてきそうで
夕焼けが映った瞳は
哀愁が漂い
声をかけることすらも
ためらいがちにさせ ....
一番線のホームを
羊の群れが通過していく
海の近くに
美味しい牧草地があるのだ
その後を
羊飼いの少年が
列車でゆっくりと追う
夕暮れ近くになると
列車に羊を乗せて
牧舎へと帰る ....
目が覚めたら朝が来ました
目が覚めても朝が来ました
昨日と同じ今日が怖いので
今日と違う明日が恐ろしいので
僕はバリアを張って僕を弾いてしまいます
僕らはオーラを発して僕らを放してし ....
ためらはず さしかけられて傘に入り
片身ぬらせし君が気になる
足悪き子雀来たり 今朝もまた
待つ身となりて エサをまきたり
枯葉踏む犬の{ルビ足音=あおと}はリズミカル
夕づく公園を ....
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