牛がこない
遅れるなよと言ったのに
メールさえ返ってこない
電源を切っているのだろう
遠くに
うすちゃ色のまーぶるがみえる
きっとあれだ
おーい、と呼ぶ
MOO―、と感情を長くのば ....
なみだというやつは
潤んで
ぷくりと膨らんだなら
ふるえ
映えたつめたい青色をくるりと丸めて
珠の中
ちいさな
とてもちいさな
気泡が
深海魚の呼吸音をたてる
ふたつ
もうひとつ ....
草市に うみほほづきを購いて
海の味する遠き幼日
朝ごとにくぐもり啼ける鳩の声
故里に啼く森を想えり
西陽射す路に日課の水をまく
秋めきし風に虹たてながら
白白と待宵月は行き来 ....
光がきれいだといいますが
朝日が夕日がきれいだといいますが
太陽で人は死ぬんだと思うわ
....
ひとつの 荒野のおわりに
名前もしらない 月の花が
ほそながい 清潔な
首を さしだしていた
火を消して ねむった
八月が終わらなければいいと
願っていた
そのときわたしは
小学五年生で
朝顔を上手に育てることが出来なかった
そして
支柱にぴよぴよと巻き付いた
枯れた朝顔に
まだ毎朝ぼんやりと水 ....
沈む地と{ルビ曲輪=くるわ}を
音は巡る
尽きぬかげろう
止まぬ流れ
光より遅いものたちの
さざめきとかしわ手を聴いている
手のひらから手のひらへ
指から指へこぼ ....
空も高くて
青いから
遠くまで出かけようと
二歩歩くと
三歩目を降ろすところに蟻がいて
踏みたくはないので
停まろうとしたが間に合わず
足を上げて見ると
蟻の腹は空き缶のように潰れてい ....
テーブルに置き忘れたメモが朝を捉え損ね
誰かの起こした風に遊び散る
それは断層にしがみついた学者の手の中で
ありふれた三葉虫や瑪瑙にうまれ
ひとつとして同じ気配でないが
またとない程の発 ....
朝が来たので洗面台で顔を洗っていたら
排水溝の中から声がしたので
どうしたのですかと尋ねると
流されるままに生きていたら
ここにたどり着いていましたと返事があった
申し訳ないですが僕は時間が ....
我が心食ろうてみれば塩味の目から零れてそっと檸檬を
あら、こんばんは。
でもあなた、私の頭の中の人ね。
いいの、退屈していたの。誰もお話する人がいなくて。
あなた、ビーフシチューは好きかしら?
か、ごめかごめ。
作っているの ....
夏ごとに
おしゃれになってゆくおまえが
自慢のミュールで前を行く
{引用=
(なぁ、おまえが選んだっていう
(このお父さんの水着
(ちょっと
(トロピカル過ぎやしないか
}
いつか
....
いつか 見たことのある
風景ばかりだ ひとは謙虚に歴史を
学ばなければならぬ はじめから
螺旋をたどるのは いくつ
いのちが あっても足りぬ
ウィリー、ウィリー、
どうか、
きみの名前を思い出してほしい
訪れる者もない、荒れた墓地で、
いつまであふれる愛を憎しみにかえて、
この世を呪いつづけるのかい?
ウィリー、ウィリー ....
ラッキョウの香りくりやに満ち満ちて
入りくる夫子その度に言ふ
土用干しの梅の匂いに幼な日を
想い出させて母を恋いおり
明けやらぬ朝起き出てて吾がために
さわらび摘みしと君が給いぬ
....
おまえが
学校の宿題だといって
わたしの名前のゆらいはなに
と聞いたときに
ついつい懐かしさを覚えている自分が
少し嬉しい
母さんに聞いてみなさいと
僕がおまえの母にパスを出すと
....
少しずつ
明かりが点り始めた街を
歩道橋から眺める
気ままな
散歩の途中で
緩やかなカーブを描いて
線路の上を走る電車
朝に出掛けた人達も
またこの街に
戻ってくるんだ
....
たまに早めに仕事を終え八時過ぎに帰宅する事がある
頑張って起きていたのだろう娘が諸手を拡げ駆け寄って来る
考える暇もなく引き寄せ抱き上げ抱き締める
もう既にお風呂も済んで寝仕度を済ませた娘が
....
干し物をたためる時の充足を
胸に満たしめ一日が過ぎぬ
八十路まで あとわづかなり吾が側に
五才の犬が ひるねしている
梅雨空を狭めて広がるバショウの葉
微動だにせず風も無きらし
玄関の向こう側で
人の声がする
それは私の知らない人の声
玄関の向こう側で
行き来する自動車の声がする
それは忙しいと街が嘆いている声
玄関の向こう側で
ジェット戦闘機の声がする ....
夢現な朝露が
透明を保つ空気の中で
そっと
身体を震わせる、朝
細やかな振動は
私が眠ったままの揺りかごを
徐々に強く揺らして
目を開くことを
強要する
ああ、空に ....
瞼を閉じると現れたあんた
いつも笑顔やなぁ
寂しい夜だから明かりは絶やさへん
厳しい人生だから思いっきり笑いたい
何度も同じ所を回る俺
間違いさえも再生されて
出てく ....
どうしても顔も名前も思い出せない人がいる。感覚だけが確かで、ただ単に興味が有ったという感覚だけが確かで。
それは片思いをしていたあの隣のクラスの子だったような。ちょっとだけ付き合ってキスも出 ....
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市民会館の大ホールを
ゼリーは満たしていた
屋外では雨が
土埃の匂いを立てている
観客の思い浮かべる風景は
みな違っていたが
必ずそれはいつか
海へとつながっていた
....
部屋の中で
結実することのない植物の鉢植えが
かたむいて伸びきっていて
高架下のスーパーマーケットには
南の島でもがれた果実が並んでいる
光にとばされた道路の上から
ガラス越しにくわえ煙草 ....
私が見つめていたいのは
空だけであり
私が見つめられていたいのも
空だけである
その真実が
私から空を遠ざけている
近くにて花火の爆ぜる音のして
幼等の声 広がりてゆく
指染めて高菜をもめばよみがえる
故里の畠にゆるる菜の花
窓明けて寝ながらに見る夏の夜
高層ビルの窓に動く人影
夕立の前 ....
今日と明日の夜の谷間に
微かだが
感じるあなたのため息
ソプラノ歌手よりも
こころに染みる
透き通ったそのひとの言葉
最上の音楽に聞こえる
胸のふくらみがさらに大きくなり
木管の寂 ....
髪を 切った 襟足の ひみつ から
娘たちは 飛んで ゆくと いう
純朴な 神話が 解かれて いる
風祭を 孕んだ {ルビ帆用飛行艇=はんようひこうてい}の 陶酔は
....
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